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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・遭賢録 3

晴奈の話、47話目。
賢者に「会う」でも「逢う」でもなく、「遭う」。


3.

 小屋の外に出た晴奈は辺りを見回す。どうやら黒荘の外れらしく、少し離れたところに人家が見える。

「ホラ、突っ立ってないでさっさとそっちに行くね」

 すぐ後ろにエルフが近付き、背中をバン、と叩いてくる。

「……」

 自分をおざなりに扱うエルフに、晴奈の怒りはさらに膨れる。

「はい、んじゃ、まー。ちゃっちゃと、やろうかね」

 エルフはどこからか杖を取り出し、気だるそうに身構える。

(何が『高くなった鼻をポッキリ』だ! お前自身が増長すること、はなはだしいではないか! その油断、高く付くぞ!)

 エルフが構えた瞬間、晴奈は駆け出し、初太刀を入れようとした。

「わ、バカだねー」

 エルフはまた晴奈をあざ笑い、ゆらりと杖を振った。

 その、瞬間。

「……!?」

 地面がひっくり返り、景色が勢い良く滑る。……いや、晴奈がさかさまになりながら、吹っ飛んだのだ。

「敵を知り、己を知れば百戦負け無し。だのに今のキミ、私をどれだけ知ってるって言うね?」

 エルフの声がやけに遠く、尾を引くように聞こえる。

「……な、何を、した?」

 エルフのはるか後方まで飛ばされた晴奈は、混乱しつつも空中で体勢を立て直して着地し、刀を構え直す。

「んでもって、キミは」

 構え直し、エルフの位置を確認しようとしたが、どこにも姿が無い。

「ど、どこだ!?」

「どれだけ自分がバカでマヌケで向こう見ずで身の程知らず、ってコトを知ってるね?」

「……!」

 晴奈の背後、右肩から電流が走る。その痛みが魔術か、 それとも杖を振り下ろしたせいか良く分からないまま、晴奈の脚から力が抜けていく。

「ぎ……ッ」

 急速に遠のいていく意識の端で、エルフがまた自分をあざける笑い声が聞こえた。

 

「……う、っ」

 気が付くと、また小屋の中だった。先ほどと同じように、エルフが傍らに座っている。

「目、醒めたね?」

 晴奈は自分に何が起こったのか、懸命に整理し――負けたことを、理解した。

 

 

 

「ま、それじゃ。まず考えていこうかね」

 エルフは小屋のものを勝手にいじって、茶を沸かしている。

「何で、キミは勝てると思ったね?」

「それは、その。私は、焔流の免許皆伝であるし」

「うんうん、それはさっき聞いた。で、免許皆伝だから、何で勝てるって?」

「え」

 そう問われ、晴奈の思考は止まる。

「それは、キミの剣術が一端のモノになったって言う証明であって、誰にでも勝てる証明では無いよね」

「それ、は……」

 エルフの指摘、批評は止まらない。

「もしそんな風に思ってるなら、それはキミの先人全員に対する侮辱だね」

「え?」

「だってね、キミが浅はかにもさっきの街中で叫んでいたら、きっと街の人はみんな、キミを殺しに来るね。そこで負けてさ、『焔流、敵にあらず!』なーんて言われちゃったら、焔流のみんなはどんな気持ちになるだろうね」

「……!」

 エルフの言った光景を想像し、晴奈はひやりと冷たいものを感じた。

「免許皆伝は無敵の証明じゃないね。己の属する流派でひとかどの人物、その流派の代表になったと言う証明だ。

 それを履き違えて、『自分はとっても強いんだ』なんて公言したりなんかしたら、とんでもない大恥を、キミだけじゃなく、キミの剣術全体にかかせることになる」

「……」

 エルフの説教を、晴奈は頭も猫耳も垂れてただ、聞いていた。エルフは沸かした茶を晴奈に差し出して、説教を締めくくった。

「敵のことはおろか、自分のことすら知らない、分かってない。

 そんなヤツが勝てるわけなんて、無いね」

 

 最後に晴奈は、自分が見た夢の話を尋ねてみた。

「私は、妹をつかむ夢を見たのです」

「ふーん。それで、現実でも妹を救えるかも、って?」

「はい……」

「ふーん、それはそれは」

 エルフはまた、鼻で笑った。

「きっかけを何かに求めるのは自由だけどね。立ち止まってじっくり、考えた方がいいね。『今が本当に、その機なのか? 本当は自分の、思い込みでは無いのか?』ってね」

「……」

 ずっとうつむいたままの晴奈を見て、エルフはふー、とため息をついた。

「まあ、そう落ち込むなってね。もしかしたら、本当に吉兆かも知れない。無闇に期待するのはおろかだけど、さらりと流すのも味気ないしね。

 『何かいいコトあるかもー』 くらいで考えた方がいいねぇ。頼るのはダメだね

 いいとも、悪いとも言い切れない結論に、晴奈は少し困惑した。

「そんなもの、ですかね」

「そんなもんだね。

 ……さてと。そろそろ私は行くね。精進しなよ」

 エルフは茶を飲み終え、そそくさと小屋を後にした。晴奈は小屋に残り、気が抜けたような 心持ちで茶をすする

「……あ」

 しばらく経って、晴奈はエルフの名前を聞いていなかったことに気が付いた。
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