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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・鞭撻録 1

晴奈の話、50話目。
衝撃の告白。
 
 
 

1.

 晴奈が黒荘から紅蓮塞に戻って、数週間が過ぎた時のこと。

 晴奈は書庫の中で、いきなり告白された。

「好きなんです」

「は?」

 晴奈はぽかんとしてしまう。目の前にいる、顔を真っ赤にした良太を見て、後ろを振り返り、もう一度前を向き、猫耳を掌でポンポンと叩いて問い直す。

「すまない、良太。もう一度、言ってくれないか?」

「ですから、あの、好きなんです」

「……良太」

 晴奈は脱力しそうになるのをこらえて、良太の肩に手を置く。

「落ち着こう。うん、まあ、落ち着け」

「えっと、あの」

 良太は手を振り、ゆっくりと説明する。

「晴奈姉さんが、好きってことじゃないです。いえ、好きなんですけど、そう言う意味じゃなくて」

「だから、落ち着け」

「えーと、えー、ともかく。姉さんのことは普通に好きです。あの、恋愛とかじゃなくて、本当の姉さんって感じで」

「ああ、まあ。それなら、いいんだ」

 ほっとする晴奈を見て、良太も安心した顔をする。

「ええ、まあ、それでですね。その、……が好きなんです」

 安堵のため息が、のどの途中で引っかかる。

「……もう一度、言ってくれ」

「先生が、その……」

 晴奈はもう一度、良太の肩に手を置いた。

「先生って、……聞くが。それは、私の師匠のことか?」

「……はい」

 良太が答えた瞬間、晴奈は良太を書庫の奥まで押し込んだ。

「待て待て待て待て! 待て、良太!」

「は、はい」

 晴奈は良太の肩に手をおいたまま、深呼吸をする。

「もう一度、聞くぞ」

「はい」

「お前が、好きだと、言っているのは、誰だって?」

 良太は顔を真っ赤にしたまま、もう一度答えた。

「あの、……柊先生です」

「はぁー……」

 晴奈はそれ以上立っていられなくなり、良太の前にへたり込んだ。

(こいつ、よりによって自分の師匠を好きになるか……!? 何を考えているんだ、まったく?)

「あ、その、えーと」

「うーむ……。そんなことを、聞かされてもなぁ……」

 晴奈は平静を装って立ち上がるが、内心、かなり動揺していた。良太は軽く咳払いをし、話を続けようとする。

「こ、コホン。それで、ですね、あの」

「何だ? 他に何を言う気だ?」

「えーと、その、ちょっと、聞きたいんですが」

「……何を?」

 良太はまた、顔を赤くして尋ねてくる。

「先生の、好きなものって何でしょうか?」

「はあ?」

 普段、自分が話すこととあまりにも違う部類の話題に、晴奈は頭を抱えてうなる。

「むう……。好きって、師匠の、好きなものか。うーむ、そうだなぁ……」

 懸命に考えてはみるが、混乱した頭では答えが出てこない。

「あの、例えば、食べ物とか」

 良太が具体的に質問してくれたので、何とか答えが浮かんでくる。

「んー、そうだなぁ。キノコなどの山菜は、好んで食べていたな。後、肉料理はあまり、食べないとか。あ、でも鳥料理は好きだと言っていた」

「ふむふむ」

 良太は懐紙を取り出し、晴奈の言ったことを書き連ねている。

「じゃあ、えーと、趣味は、何でしょう?」

「趣味、か。んー、小物を集めるのが好きだと聞いた」

「じゃ、じゃあ、そのー。どう言う男性が好きか、って、分かります?」

「はあ? んー……、そう言えば昔、聞いた覚えがあるな」

 晴奈は椅子に腰掛け、記憶を探る。

「ああ、そうだ。確か強くて正直で、優しい者を好きになったことがある、と言っていた」

「す、好きになった、人……、ですか」

 良太の顔が、一瞬にして曇る。晴奈は慌てて訂正する。

「あ、いやいや、その人物はすでに、塞を離れている。今、師匠が想っている者は、多分、恐らく、いないと、思うぞ」

「そ、そうですか!」

 また、良太の顔が明るくなる。そのまま良太は、ぺこりと頭を下げて書庫から出て行った。

「ありがとうございました! また相談、乗ってくださいね!」

 残された晴奈は、良太の浮かれっぷりに、呆気に取られていた。

 

「そんなこと聞かされても、どうしろと……」

 書庫に残った晴奈は頭を抱えながら、良太の話を反芻していた。

(実際、どうなのだろう?)

 晴奈は先ほど挙げた師匠の好みと、良太を比較してみた。

(良太は確かに優しい子だ。隠しごとはしているが、正直者と言えば正直者だ。後は強さだが、……これは残念、と言うべきか。

 しかし良太と、師匠か……)

 恋愛経験の無い晴奈がいくら考えても、予想も予測も、一向に立たない。

(……ピンと来ないにも、ほどがある。私自身が、色恋に興味ないからなぁ)

 

 

 

 結局、良太の告白をこの日以来、聞くことはなかった。だから晴奈も、しばらくするとこの一件はすっかり、忘れてしまっていた。
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