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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・懸想録 3

晴奈の話、56話目。
下手な会議より緊張する話し合い。
 
 
 

3.
全員、真っ青になっている。口も開けない。

「……」

 重蔵の部屋に集められた晴奈、良太、柊、橘は重蔵の前に並んで座らされ、重蔵と向かい合っていた。

「……何と、したことか」

 始めに口を開いたのは、重蔵である。

「うーむ、そうか、うーむ。

 まず、そうじゃな。確認しておこうかの。雪さん」

「は、はいっ」

 柊が指名され、半ば裏返った声で返事をする。

「あ、いやいや。落ち着きなさい。まあ、ともかく。わしは怒ったりせんよ」

「そ、そうですか」

「……今のところは、じゃけどな」

「……」

 柊ののどが鳴るのが、そこにいた全員に聞こえた。

「まず聞こうかの。……雪さん、良太のことを、好いておると。これは、相違ないな?」

「……はい」

「自分の弟子だと言うことを、分かっておるのかの?」

「そ、それは重々……」「晴さんは黙っとれ!」「……」

 師匠の弁護をしようとした晴奈を、重蔵が一喝してさえぎった。

「……分かっています。いえ、分かっているつもりです。ですが己の心情に嘘は、つけません」

「わしの孫と言うことも、承知しておろうな?」

「はい。しかしわたしは、家元の孫としてではなく、一人の人間として、良太を見ています」

「そうか。……良太」

「はい……」

 良太も小さい声で、重蔵に答える。

「声が小さい!」「はっ、はいっ!」

「雪さんのことを、真剣に想うておるのか?」

「はい!」

「自分の師じゃぞ?」

「師であろうと無かろうと、僕はせんせ、……雪乃さんのことが好きなんです!」

「……はー。参ったのう。参った参った」

 良太の答えを聞くなり、重蔵は残り少ない髪を撫で付けるように頭をかいた。

「良太、お前さんを見とると思い出すわい。お前の、お母さんのことを」

「え?」

「昔、お前の母さんに腕飾りを贈ってやったんじゃ。ガラス細工の、風流な一品でな。大層喜んで、ずっと手放さなかった。

 しかしある日、割れてしまってのう。わしが新しい物を買ってやる、と言ったら――『私はこれが好きなの。他に、どんなに綺麗なものがあっても、私はこれがいい』と答えたんじゃ」

 その話を聞いた途端、良太の目から涙がこぼれ出した。

「それ、母さん持ってました。初めは割れたままだったそうですが、職人だった父と出会った時、接いでもらったと」

「そうか……。あの場に無かったと言うことは、盗られてしまったようじゃな」

「はい……」

「む、話が逸れてしまったな。ともかく、『師であること関係無しに、雪さんが好きだ』と言う精神は、お前の母さんそっくりじゃ。そんな、意固地と言うか、頑固なところが後に、わしとのいさかいの原因となってしまったが……。

 思えば、昔のわしも頑固じゃった。自分の意を曲げなかったために、話し合えなかった者、決別した者の多いこと、多いこと……。ここでもし、お前たちの仲を認めねば、きっと同じことになるじゃろうな」

 重蔵の言葉を聞き、晴奈たち四人はそれぞれ驚いた。

「それじゃ、おじい様……」

「認めて、くださるのですか!?」

「家元!」

(話わかるじゃん、家元さん!)

「ただし」

 沸き立つ四人に掌を向け、重蔵は提案した。

「良太、お前さんの志を一つ、捨てなさい」

「……?」

 何のことか分からず、良太は戸惑う。

「志を、一つ……?」

「仇討ちじゃ。この理由、分からないでもないじゃろう?」

 良太の目が、せわしなく動く。その様子は、迷っているとも、理由が分からないとも取れる。

「分からんか?」

「え、っと、その……」

「良太。その意味が分かるまで、この話はお預けじゃ。雪さんを除いて、下がってよい」

 その言葉に、晴奈と橘はほっとした。

「は、はい」

「それじゃ、失礼しました」

 晴奈たちはぺこりと頭を下げ、呆然としたままの良太の肩を叩く。

「良太、出るぞ」

「……え、あ、はい。失礼しました」

 

 残された柊と重蔵は、晴奈たちが部屋を出た後、しばらく無言で向かい合っていた。

「……雪さん」

 また、重蔵が先に口を開く。

「はい」

「率直に言うとじゃな」

「はい」

 また、ポリポリと頭をかく。

「意外じゃった。まさか雪さんが、良太とくっつくとは思わなんだ」

「そ、そうですか」

「まあ、しかしじゃな。……雪さんと良太なら、確かに良縁かも知れんのう」

「もったいなきお言葉、ありがとうございます」

 柊は深々と頭を下げる。

「ほれ、雪さん」

 顔を上げたところに、お猪口が差し出される。

「義父ならぬ、義祖父と一緒に呑もうじゃないか」

「……ありがたく、頂戴します」

 柊はとても美しい笑顔で、お猪口を受けた。

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