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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・邂逅録 2

晴奈の話、72話目。
晴奈のひみつ、公開。
 
 
 

2.
「め、明奈っ」

 7年ぶりに見る、成長した明奈を見て、晴奈は思わず彼女を抱きしめた。

「きゃ、お姉さま?」

「ああ、良かった! 本当に良かった! 良く無事に、帰ってきてくれた!」

「お姉さま、あの、苦しい……」

「もう二度と、絶対に、黒炎に渡したりしない! 絶対に、姉ちゃんが守ってやるから!」

「……はい、お姉さま。お久しゅう、ございます」

 明奈も戸惑いつつ、晴奈を抱きしめた。

 

 

 

 明奈が黒鳥宮から助けられた経緯は、次の通りである。

 エルスは元々、北方大陸にある王国の諜報員だったのだ。ある任務のため部下を連れ、黒鳥宮に潜入していたところ、偶然明奈を発見し、保護したのである。

 一旦は北方に連れ帰ったが、エルスの師匠に当たるエドムント・ナイジェルと言う老博士のエルフがある事件に巻き込まれたため、そこから師弟ともども亡命。

 その亡命先として明奈の故郷であるここ、黄海を選んだ、と言うわけである。

 

「本当に、大変でしたわい」

 あごひげを生やし、丸眼鏡をかけたエルフ、ナイジェル博士はニコニコと笑いながら、晴奈への説明を終えた。ちなみに師匠と言っても、詳しく聞いてみれば教官と教え子の関係らしい。

「なるほど……、そのような経緯があったのですか。私にとっては真に、行幸と称すべきお話です」

 晴奈は深々と、博士に向かって頭を下げた。

「あ、いやいや。そうかしこまらず。

 ……ふーむ、セイナさん、と申されましたか。なるほど、妹さんと顔立ちが似ていらっしゃる。じゃが少し、精悍な顔つきをされていらっしゃいますな」

「そ、そうですか?」

 そう言われて、思わず頬に手を当てる。言われてみれば、子供の頃はあまり気が付かなかったが、傍らの成長した明奈を眺めると、顔立ちは確かに、良く似ていると思う。そして博士の言う通り、明奈の方が少し、おっとりした印象を感じる。

「ふむ……。身長も高く、一挙手一投足ごとに、着実に鍛えられた筋肉が出す、力強さが見受けられる。そしてその、落ち着いた気配と所作。なかなか、高度な精神修練と、高密度の修行を積んでいらっしゃるようですな。

 ズバリ、セイナさんは――焔流の剣士、それも師範か、師範代程度の手練。違いますかな?」

 博士の推察に、晴奈は目を丸くした。

「い、いかにも、焔流の免許皆伝です、が……」

 自分の素性を初見で言い当てられ、晴奈はさすがに博士を不気味に思った。それも見抜いたらしく、博士はゆっくり手を振って説明する。

「ああ、いやいや。驚かせるつもりは無かったのですが。小生はこう言ったことを生業としておりまして。

 祖国では戦略研究を行っておりました。敵の動向をいち早く察することが重要なため、こうした洞察力をよく使います」

 博士は横に座っているエルスの肩を叩き、話を続けた。

「こちらのエルス君も、人を見抜くのが得意でしてな。元々は魔術を教えておったのですが、そちらの方も割合筋が良かったので、小生の戦略思考術と洞察力をそっくり受け継がせております。

 さ、エルス。ちっと力を見せてやりなさい」

 話を振られたエルスはヘラヘラ笑いながら、とんでもないことを――晴奈がこの直後、顔を真っ赤にして「無礼者!」と怒り出し、リストから「このバカ!」としこたま殴られるようなことを――言った。

「うーん。……上から、77、51、79かな。すらっとしてるね、はは」

 

 ひとしきり殴られ、頭に大きなコブを作ったエルスは、ヘラヘラ笑いながら謝った。

「ははは……、ゴメンゴメン。ちょっとしたギャグのつもりで言ったんだけどね」

「どこがギャグよ!? 思いっきり、ど変態なコトを白昼堂々……! 本気で頭のネジ、飛んでんじゃないの!?」

 リストはまだ怒っているらしく、エルスにまくしたてている。

「ホントに、このバカがとんでもないコトを……」

 リストはしきりに謝っている。少し気の毒になってきたので、晴奈は怒りを抑えた。

「……いや。減るものでも無し、構わんさ」

 口ではこう言いつつも、晴奈は内心かなり頭にきている。

「ま、そのですな。ちと、遊びが過ぎましたが、ともかくエルス君は、武術や魔術の腕も相当ですが、頭の方も良く回ります。しばらくこちらに滞在する予定なので、色々と央南の事情、常識をご指導、ご鞭撻いただければと」

 場を取り繕う博士の心情も察し、晴奈は大人しく振舞う。

「……構いませんよ。まあ、こちらも北方の話を色々、お聞きしたいところです。よろしくお願いします」

 晴奈は落ち着き払い、手を差し出す。エルスも手を差し出し、普通に握手した。

 きっとこの時も、エルスは何かするつもりであったのだろう。ただ、それは彼の右側でにらんでいるエルフ二人に阻まれ、さすがに諦めたようである。

 

 

 

 こんな出会いだったから、晴奈は当初、エルスにはあまりいい印象を持っていなかった。
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