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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・大徳録 1

晴奈の話、75話目。
エルス流ナンパのテクニック。
 
 
 

1.
エルス・グラッドと言う人物は、色々な意味で晴奈にとって不可解、不思議であり、初めて見る類の人間だった。

 考え方も、性格も、それまで出会ってきた者たちの中でも異質と言っていいほど、他人との隔たり、差異がある。無論、晴奈も「独特の性質を持つ者」なら数名ほど見たことはある。大抵そんな者たちは偏狭、偏執な性分で、人との交わりを極力避けていることが多い。

 ところがエルスはその点においてもまた、違う面を持っていた。

 

 

 

「ねえねえお姉さん、ちょっと道、聞いてもいいかナ?」

「あ、はい。何でしょうか?」

 故郷、黄海を散歩していた晴奈が、道端を歩いていた人間の女性に声をかけ、道を尋ねているエルスを見かけた。

「えーと、港はどっちかナ? 僕、この街に着たばかりだかラ、良く分からなくテ」

 エルスのしゃべり方と話の内容に、晴奈は首をかしげた。

(何だ、その片言は……? しゃべれるだろう、普通に。いや、普通どころか央南人と見紛うほど流暢に。

 それにお主、海路でこの街を訪れたと言っていたではないか。お主ほどの頭があれば道くらい、一度通れば簡単に覚えられるだろう?

 そもそも聞くなら私や明奈に聞けばいいものを、何故見ず知らずの者に尋ねる?)

「あ、外国の方なんですね。えっと、そうですね……、あの大通りを右に進んで、3つ目の筋を左に入って……」「あ、あ、ちょっと待ってくださイ」

 エルスは慌てた素振りを見せ、女性の説明をさえぎった。

「口だけじゃ、ちょっと分からないデス。良ければ、案内してほしいナー」

「え、……うーん。それじゃ、付いてきてください」

 女性は少し困った顔を見せたが、エルスの頼みを了承した。エルスはニコニコ笑い、お礼を言う。

「あー、ドモドモ。ありがとうございまス」

 そう言うなり、エルスは女性の手を握って引っ張っていった。

「えっと、こっちの方でしたネ。それじゃ、行きましょウ」

「え、あ、あの? あ、そっちなんですけど、手、あの、何故握られて……」

「だって、もしはぐれたラ僕、迷子になっちゃいますかラ」

「は、はあ……」

 そのままエルスは女性とともに、雑踏の中に消えた。

 

「ただいまー」

 それから3時間後、エルスは仮住まいの黄家屋敷に戻ってきた。

「おかえり、エルス」

 晴奈とともに大広間にいたリストが声をかけ、エルスはにこやかに返す。

「いやー、央南っていいね。エキゾチックだ」

「……?」

 唐突な感想に、晴奈はまた首をかしげる。と、エルスの襟元に何か、赤いものが付いている。

「エルス、襟に……」

「うん? ……っと」

 エルスは襟に手を当て、すぐに引っ込めた。 その仕草を見て、リストが尋ねる。

「どしたの、エルス?」

「ああ、ゴミが付いてたみたいだ」

「ふーん」

 リストはそれだけ返して、広間から離れた。それと同時にエルスが晴奈に近づき、耳打ちする。

「セイナ、困るよ~」

「は?」

 エルスは少し恥ずかしそうにささやく。

「口紅なんか見つかったら、またリストに殴られちゃう」

「……ようやくピンと来た。お主、昼間に出会った女を誘ったな?」

 晴奈のやや侮蔑が混じった問いに、エルスはにべもなく答える。

「あれ、見てたんだ。……はは、大正解」

「妙な片言まで使ってたぶらかすとは、本当に軟派な奴だな」

「いいじゃないか。向こうだって喜んでたし」

 あっけらかんと返され、流石に晴奈も気分が悪くなる。

「……」

 晴奈は憮然とした顔で、リストの去った方向を向く。

「どしたの、セイナ?」

 晴奈はすーっと息を吸い、大声でリストに伝えた。

「リスト! またエルスの悪い虫が出たぞ!」

「ちょ」

 エルスの笑顔が青ざめると同時に、なぜか1階にいたはずのリストが2階、大広間吹き抜けの廊下から襲い掛かってきた。

「エルスーッ!  また、アンタはーッ!」

「ぎゃーッ!?」

 エルスはリストに頭を踏みつけられ、床に顔をめり込ませた。

 

 

 

 独特の感性、思想を持つ変人でありながら、他人と深く接する「変わり者の中の変わり者」。

 それが「大徳」エルス・グラッドと言う人物だった。
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