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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・術数録 3

晴奈の話、102話目。
久々にほのぼのシーン。
 
 
 

3.
晴奈たちが紅蓮塞で夕食をとっていた、丁度その頃。

「すまんな、チェスター君」

「いいわよ、これも仕事だしー。……はーぁ」

 黄海・黄屋敷にて、紫明とリストがどっさりと積まれた書類に判子を押していた。紫明が主席になったため、多忙の日々を送っていた。

 もっとも、普段はエルスとリストが補佐に回ってくれるため、紫明の仕事もいくらか減るのだが、この時はエルスが紅蓮塞に行ってしまっている。この三人の中で最も仕事ができるエルスがいないため、二人はいつもより長めに机に縛り付けられていた。

「この調子だと、今日もまた泊まってもらうかも……」

「えぇ?」

 申し訳無さそうにリストを見た紫明に、リストは非常に気だるい声をあげる。

「勘弁してよぉ……」

「まあ、夕食ご馳走するから」

「……そりゃ、コウさん家のご飯は美味しいけど。でもさー、ハッキリ言って」

「うん?」

 リストは書類の山から顔を上げ、吠える。

「あののんきバカがセイナと一緒に紅蓮塞まで行っちゃうから、そのしわ寄せがこっちに来てんのよ! しかも、『まあ、ちょっとした旅行って感じかなー』とか言い捨てくし!

 アンタのせいでこっちは死にそうになってるってのに、アイツ今頃『いやー、温泉って本当にいいもんだねー』とか言ってんのよ、絶対!」

「ま、ま、チェスター君、落ち着いて。……お返しに、グラッド君だけ残して、晴奈と明奈とで、旅行にでも行ってしまえばいい」

「……それもいいわね。でもさ、コウさん」

 リストは書類に視線を戻しつつ、紫明に尋ねる。

「今回、セイナたちとエルスを行かせたけど、不安じゃないの?」

「うん?」

「だって、スケベと美人姉妹よ」

「……ああ、問題は無いだろう、きっと。

 グラッド君は好色とは聞いているが、晴奈はまずなびかん。明奈に言い寄るにしても、晴奈がまず許さんだろう」

「……なーるほーどねー」

 リストは紫明の人物眼に少し、感心した。

 

 

 

 夕食が終わり、晴奈たちは風呂に入っていた。

「師匠……、その、何と言いますか、その」

「ん?」

「変わられましたね、大分」

 雪乃は汗を拭きながら、「そうかしら?」と聞き返す。

「ええ。特に、その……、大きく」

「ああ、そうね。ちょっとね、うん」

 晴奈の言葉の裏に気付き、師弟揃って顔を赤くする。

「やっぱり、小雪が生まれたからね。でも、まだちょっと腰周りが、太いのよねぇ」

「そうですか? ぱっと見た感じでは、それほど変わっては……」

「あら、そう? それなら、いいかな」

 少し嬉しそうな顔をして、雪乃は明奈の方を見た。

「……明奈さんと晴奈、似てるなーって思ってたけど、やっぱり違うところ、あるのね」

「むう」

 晴奈もチラ、と明奈を見て、うなだれながら湯船に頭を沈めた。

「でもお姉さまの方が、背は高いんですよ。すらっとしてて、綺麗ですし」

「……そうかな」

 猫耳の辺りまで沈んでいた晴奈の頭が、ぷかっと浮き上がる。

「わたしなんて、運動不足で太っているだけですよ」

「……都合のいい肥満だな、それは。胸と尻だけ太るのか」

 また晴奈が沈んでいった。明奈が慌てて話題を変える。

「あ、あの、えっと。重蔵さま、お体の方は大丈夫なのでしょうか? ご夕食の時、お姿を見かけませんでしたが」

「ええ、さっき様子を見に行ったら、『寝たら回復した』って言ってたわ。今は男湯の方で、良太たちと一緒に入ってるはずよ」

「そうですか……。少し、心配でしたので」

「大丈夫よ、おじい様は。根が頑丈な方ですもの」

 また、晴奈の頭が浮かんできた。

「良太も、同じことを言っていましたね。『根が頑丈だから、長生きするに決まっている』と笑い飛ばしていました」

「あら、そうなの。……うふふ」

 

「ほーれ、綺麗にしてやるぞー」

 男湯の方では、重蔵が小雪を洗っていた。後ろで見ている良太は、心配そうな顔をしている。

「あの、優しくお願いしますね……」

「分かっとるわい、ふんっ」

 重蔵は後ろを振り返り、舌を出して良太を黙らせる。

「それなら、えっと、はい……」

 湯船につかりながら様子を見ていたエルスは、クスクスと笑っている。

「押しが弱いよー、リョータ君。父親ならもっと頑張らないとー」

「は、はい……。あの、おじい様。僕が……」「黙っとれ」「……はい」

 気の弱い良太はしゅんとした様子で、湯船に入ってきた。

「……僕、へたれです」

「まあまあ……。まあ、孫もひ孫も可愛いんだろうね、本当に」

「でしょうねぇ」

 エルスはニヤニヤしながら、博士の思い出を語り出した。

「僕の師匠にナイジェル博士って言う人がいたんだけどね、この人も子沢山、孫沢山の人なんだ。で、央南に引っ越して来た時もお孫さんを一人連れてきてたんだけど、やっぱり可愛かったんだろうね、良くお小遣いあげたり物をあげたりしてたよ」

「へぇ……」

「……そのお孫さんに不条理に殴られた時も、僕が悪者にされたしね」

「あ、あら……、そうですか」

 その時、小雪を洗い終わった重蔵が湯船に入ってきた。

「ナイジェル……、と言うのは、エドムント・ナイジェルか?」

「ほえ? 家元さん、博士をご存知なんですか?」

 思いもよらない反応に、エルスは目を丸くした。

「昔の囲碁友達じゃった。負けん気の強い奴で、よく夜明けまで打っておった」

「博士は央南に何年か滞在していたと聞いています。昔から、性格は変わっていないみたいですね」

「今はどうしておるんじゃ?」

 重蔵の質問に、エルスは一瞬言葉を詰まらせる。

「……亡くなりました。今年の初めに」

「そうか……。因業で偏狭で不躾で嫌味で頑固な奴じゃったが、いい奴じゃったのにのう」

 場が少し湿っぽくなってしまったので、エルスは慌てて湯船からあがる。

「そろそろあがりますねー。あ、良かったら小雪ちゃん、連れて行きますよ」

「おう、すまんなエルスさん」

 くるりと振り返ったエルスを見て、良太は一瞬目を見開き、うなだれながら湯船へと沈んだ。重蔵は笑ってエルスの後ろ姿を見送る。

「ははぁ……、やはり外人は違うのう、ははは」

「うぐ……、自信、失くしそうです……」

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