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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・神算録 4

晴奈の話、108話目。
エルスの急所。



4.
さらに時間は経ち、夕闇が迫り始めた頃。

「うーん」

 また、エルスがうなっていた。見かねた晴奈が、背後から尋ねる。

「どうした?」

「腑に落ちないんだよねぇ」

「挟み撃ち、と言う予想がか?」

「そうなんだよ。確かに推測の域を出ない、って言うことも不安なんだけど、それよりも距離的に問題のある作戦なんだよね」

 迷いがちに話すエルスに、晴奈も同意する。

「それは私も感じていた。いくら有効な策とは言え、教団にとってはあまりに本拠地から遠いからな」

「そうなんだよ。彼らの本拠地、黒鳥宮からここまでは、どんなに軽装でも一ヶ月近くはかかる。兵站(へいたん)――補給路や退路、通信網――の問題を考えると、いくらなんでも遠すぎる。だから、悩んでいるんだ。何のために東から、って言う最初の問題から離れられないんだ。もうあまり、時間が無いのに……」

「まあ、焦るな。まだ雨は降っていないし、日も暮れていない。まだまだ時間はあるのだし、結論を急ぐこともあるまい」

「まあ、それもそうなんだけどね。……職業病かなぁ」

 エルスは恥ずかしそうに頭をかきながら笑う。

「職業病?」

「元々、諜報員だったからねぇ。敵陣の真っ只中に忍び込む仕事だから、どうしても急いで考える癖が付いちゃうんだよ。即判断、即行動でないと、敵に囲まれて袋叩きに遭っちゃう可能性もある」

「なるほど、それで『理解より行動』か」

「そう言うこと」

 

 

 

「と言うわけです」

「なるほど。それは確かに、スパイらしいと言えばらしいですね」

 少し時間は戻り、天原とウィルバーの会話に戻る。

「この作戦の本領は、相手に疑念を抱かせることにあります。わざと戸惑うような情報を与え、混乱させるわけです。『本当にこんな作戦を執るのか?』と疑心暗鬼にさせる、これが重要なんですよ。

 さらにですよ、混乱しているところに情報を与えます。これで相手は、我々の意図を見抜く」

「見抜いちゃまずいじゃないですか」

 驚くウィルバーに対し、天原は人差し指を振る。

「チッチッチ……、そこなんですよ。そこがこの作戦の、本当に効果的なところなんです。

 例えば僧兵長、あなたが道を歩いていて、その前方に落とし穴があったとしましょう。あなたは直前でそれを見つけた。どうしますか?」

「そりゃ、避けますよ」

「そうでしょう? しかし避けた……、いや、避けさせたところにもう一つ、落とし穴があれば?」

「……!」

 ウィルバーは作戦の真意に気付き、息を呑んだ。

「相手は急いで判断する性質の人間ですから、こう言う罠には楽しくなるくらい引っかかりますよ。『何故ここに、こんな分かりやすい落とし穴があるのか?』と言う疑念を抱く前に、避けてくれるんですからね、ヒヒヒ……」

 ウィルバーは無言のまま、茶をすする。

(なるほど……。確かにこりゃ、すげー作戦だ。少なくともオレなら、簡単に引っかかるだろうな。

 学者崩れと、甘く見てたな。まあ、多少は叔父貴の入れ知恵もあるだろうが)

 ウィルバーは天原の狡猾さに、素直に感心した。

 

 

 

 地図を眺めてうなるエルスを放って、晴奈は天玄館を散策していた。

(……むう)

 窓の外はどんよりと曇り、今にも雨が降ると言いたげに、雲がゴロゴロと鳴っている。

(まずいな、これは。今降られれば、我々はかなり不利になる)

 晴奈の心にも、不安な黒い雲が覆い始めていた。

(ああ、心配だ。もしここで攻め込まれれば、我々の剣技はその本領を発揮できぬ。リストの銃も使い物にならなくなる。敵もなかなか、侮れぬ)

 不安でたまらなくなり、晴奈はまたエルスのところに戻った。

「うーん」

 まだ、エルスはうなり続けている。

「エルス、お主の言う通りだった。外はいつ、雨が降ってもおかしくない具合になっている」

「そっか。嫌な予想が当たっちゃったな、はは……」

 いつも笑い顔ですましているエルスも、今回ばかりは力なく笑っている。

「悩んでいる一番の理由は、対策が講じられないことなんだ。こちらの不利は、天気の問題だから仕方が無い。でもその分、何が起こるか把握できているから補助の計画も立てやすい。それについては、もう準備を整えるようリストに言ってあるんだ」

「そうか。それなら多少は、安心できるな」

「だけど問題は、敵の出方。どう言う攻め方をするのか、いまだに確信が持てない。さっきは『挟み撃ちだろう』なんて言ったけれど、もしこれがハズレだったら、大変なことになる」

「むう……」

 エルスは自信なさげに、もう一つの可能性を語る。

「あとは、本当に東から来ているのが主力部隊か、って言うことも、考えられるんだけどね。これも昨日言った通り、地形的な理由で不可解な面がある。この謎がどうにか解ければ、対策も講じられるんだけどねぇ」

「……まあ、少しは気分転換でもしたらどうだ? これ以上一人で煮詰まっても、解決案も出せまい」

「ま、そりゃそうだ。……お茶でも飲みに行こうか」

 エルスは肩をポキポキと鳴らし、伸びをした。

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