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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・神算録 5

晴奈の話、109話目。
落とし穴を避けた先に、また落とし穴。
 
 
 

5.
晴奈とエルスは二人で連れ立ち、給湯室へと向かう。

「リスト……、はいないんだった。今、準備してもらってるから」

「おいおい、大丈夫か?」

「流石に疲れてるね、はは。こう言う時、リストにお茶を淹れてもらうとシャキッとするんだけどねぇ」

 そんなことをしゃべっているうちに、二人は給湯室に到着した。

「……おっと。今、使ってますか?」

 給湯室の中で、三角巾に割烹着姿の、眼鏡をかけた黒髪の猫獣人が湯を沸かしている。

「あ、大丈夫ですよ。皆さんにお配りしようと思っておりましたから。よろしければ一杯、いかがでしょうか?」

「あ、それじゃいただきます」

「では、私もお言葉に甘えて」

 猫獣人は慣れた手つきで、二人に茶を差し出す。

「……お?」

「これは……」

 茶を飲んだ晴奈とエルスは、同時に声をあげる。

「うまい!」

「ええ、お茶の淹れ方には自信がありますのよ」

「うん、これはリストにも勝るとも劣らない味だ。なんかビックリしちゃったよ、はは……」

 エルスは先ほどの憔悴した顔から一転、満面の笑顔になる。「猫」も嬉しそうに、エルスにお辞儀をする。

「そう言っていただけるととても嬉しいです、大将さん」

「はは、どうも」

「そう言えば、その、大将さんと黄先生は、ここ何日かお姿を拝見いたしませんでしたが……」

「ええ、少し調べ物をしておりまして」

 晴奈が答えると、「猫」はさらに質問をぶつけてくる。

「妹さんも、調査に?」

「え、ああ。そうです」

「妹さんのお姿も見えなかったもので……。

 あ、ところで。妹さん、確か黒炎教団にいらっしゃったのですよね?」

「……ええ、おりました。それが、何か?」

 あまり尋ねられたくない話なので、晴奈は不機嫌な態度を取って答える。

「いえね、黒炎教団と言えば、『黒い悪魔』の伝説がありますでしょう?」

「ええ、色々あるようですね」

 今度はエルスが答える。

「わたしもあんまり、教団にはいい印象を持ってはいないのですけれど、『黒い悪魔』の伝説は何だかおとぎ話のようで好きなんですよ。ほら、アレとか」

「アレ、……って?」

「ほら、アレですよ。えっと、……そうそう! 一瞬で世界を回ったって言う」

「ああ、テレ……」

 言いかけたエルスの口がこわばる。

「……しまった! それか、狙いは!」

 エルスはぐい、と茶を一息に飲み、晴奈の手を引っ張った。

「セイナ! 相手の狙いが分かった! 奴らは東に本隊を置いている! 挟撃と見せかけて、本当の狙いは西側に警戒して薄くなった、東側の警備を破ることにあったんだ!」

「な、何だと? 落ち着いて話せ、エルス」

「奴らの狙いはこうだ。

 奴らは元から、東からの攻略を狙っていたんだ。西側からの本隊とか、そんなものは初めから無かったんだ。恐らく最初の攻撃は、僕を混乱させるためにやったんだろう」

「しかし、東からは……」

「そこなんだよ。『東からはありえない』、そう思わせたかったんだよ。普通に東から攻めれば、兵の数がどうしても少なくなってしまう。だから、本命は西から――それが常道なんだ、普通の敵であればね。

 でも、相手は黒炎教団。タイカの魔術を使える集団だ。その本領を発揮すれば、こんな撹乱作戦はたやすい」

「意味が分からない。結論を言ってくれ、エルス」

 痺れを切らした晴奈が尋ねると、エルスは自信たっぷりにこう答えた。

「『移動方陣』だよ。あれを使って、大量に兵を送れるんだ」

「なるほど……! 確かにあれを使えば、東から攻めても兵が尽きることは無いな」

「こうしちゃいられない。早く準備を整えよう、セイナ」

「ああ、急ごう」

 晴奈も茶を飲み干し、黒い猫獣人に茶器を返す。

「馳走になった、ご婦人」

「ごちそうさまでしたっ」

 晴奈とエルスは礼を言い、その場から走り去った。

 

「おそまつさまでした、と。……うふふっ」

 給湯室に残った猫獣人は、二人の姿が見えなくなったところでニヤリと笑った。

「狙い通りね。ここまで簡単に引っかかってくれるなんて」

 猫獣人は三角巾を取り、割烹着を脱ぐ。そして棚に隠しておいた黒装束と黒頭巾を取り出しながら、独り言をつぶやく。

「これでわたしの作戦は完了。後はよろしくね、霙子、龍さん」

 黒装束をまとい、黒頭巾を被ったその「猫」こそ――15年前篠原を篭絡し、以後彼の片腕として、また妻として過ごしてきた女性、竹田朔美であった。

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