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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・逢妖録 5

晴奈の話、41話目。
逆鱗。


5.

 正午少し前に、晴奈たちは自警団の会議に参加した。昨夜取り逃がした大狐を、もう一度捕まえようかどうか話し合っているのである。

「思ったよりてこずった、と言うか」

「難しいな、捕まえるのは」

「あの動きと、魔術まで使われては……」

 昨夜の失敗で、自警団内の空気は重苦しく淀んでいる。

「しかし、決して倒せないと言うわけではない。現に、あいつの術は俺が破っている」

 団長である謙は場を盛り上げようとするが、団員の顔に希望の色が浮かんでこない。

「でも、我々では歯が立ちません」

「団長以外、ほぼ全滅でしたし」

 一向に場の沸き立たないまま、消極的な案が出される。

「このまま、放っておくわけには行きませんか?」

「何だと?」

「あの狐はどんどん南下しているというじゃないですか。もしかしたら、このまま英岡から離れてくれるかも」

 それを聞いた謙は「ううむ……」とうなり、腕を組む。

(確かに、一理あると言えば、あるのだが)

 晴奈もその理屈に納得しないではないのだが、どうも引っかかる。

「しかしですね」

 それまで黙って会議を眺めていた柊が、突然手を挙げた。

「これまで南下したから、これからもずっと南へ行く、……とは限らないと思うんです。英岡自体かなり南の街ですから、狐の南下がここで止まる可能性は少なくないと思います。ここで街の方には絶対に来ない、とも断言できないですし。

 もう一度捜索に当たった方が、後顧の憂いを断てるのでは、と」

 柊の意見に、各々考え込む様子を見せる。長い沈黙が流れた後、謙が採決を取った。

「……どちらにしても、このままうなるだけでは埒が明かない。どちらかに決めよう。

 このまま放っておいた方がいい、と言う者」

 こちらの案には、10人の手が挙がった。

「では、もう一度捜索した方がいい、と言う者」

 柊が真っ先に手を挙げる。それに続いて、晴奈と良太が手を挙げる。が、それに続いたのは5人――合計で、8人。

「……決まりだな。

 では、一応の警戒だけはしておくが、こちらから討伐には出向かない、と言うことにしよう」

 謙も不安に思っていたらしく、折衷案を出す形で場をまとめた。

 

 

 

 会議が終わり、晴奈たちはまた樫原家に戻ってきた。

「おかえりなさい、皆さん」

 洗濯の途中だった棗がにこやかに出迎えてくれる。謙は会議で決まったことを伝え、もう2、3日、夜の巡回をすることを伝えた。

「そうですか……。でも、ここしばらく、あまり休んでいらっしゃらないのでしょう?」

「まあ、鍛えてるから心配はいらない。終わったらぐっすり寝るさ」

「そう……。無理、なさらないでくださいね」

 それを見ていた柊と晴奈はほぼ同時に、樫原夫妻に声をかけた。

「あの、良かったら」「ん?」

 晴奈が引き、柊が提案した。

「わたしと晴奈で今日の巡回、交代するわよ」

「え? いや、しかしお客にそんなことは……」

 申し訳無さそうな顔をする謙に人差し指を立て、柊が続ける。

「水臭いわよ、お客だなんて。たまには、家族みんなでゆっくり休んだ方がいいわよ」

「……そうだな。じゃあ、柊一門のご好意に甘えるとするかな」

 柊はにっこり笑って承諾した。

「ええ、任せてちょうだい。晴奈と良太がいれば、全然問題ないわ」

「え? 僕……」「黙れ。空気読め」「……はい」

 良太が口を開きかけたが、晴奈が小声で黙らせた。

 

 夕方からの巡回に備え、晴奈たちは寝室に戻った。

「ゴメンね、良太」

「いえ、そんな……」

 いつの間にか良太まで参加することにしてしまい、柊が手を合わせて謝っていた。

「しかし良太、仮に私と師匠だけで行ったら、お前多分困るぞ」

「え? ……あ、ですよね。家族水入らず、ですもんね」

 良太は頭をポリポリとかいて、柊に謝り返した。

「すみません、僕の考えが至らなくて」

「いいのよ、謝らなくて。元々、わたしが勝手に言っちゃったんだから。でも、二人とも頼りにしてるから、今夜はよろしくお願いね」

 頼りにしていると言われ、良太の顔が一気にほころぶ。

「あ……、は、はいっ! 精一杯、頑張らせていただきますっ!」

「うふふ、ありがとね」

 晴奈は隣の部屋にいる樫原夫妻の声に耳を傾け、軽くため息をつく。

「ふむ……。本当に、幸せそうだ」

「ん?」

「いや……。私の家族は、ある事件で妹がさらわれたからな。それに私自身、親に反発して家を出た口だし、お前の言っていた『幸せな家庭』って奴に、私も少なからず憧れてはいるんだ」

「そうだったんですか……。姉さんのところも、大変なんですね。

 ……あ、そう言えば」

 良太は何かに気付き、柊の方を見た。

「先生って、ずっと紅蓮塞にいたんですよね?」

「ええ、そうよ」

「いつから塞にいらっしゃるんですか? ご家族とかは?」

 良太からそう質問された瞬間、ほんの一瞬だけ、柊の顔が曇った。

「……さあ? 物心付いた時からいたもの。覚えてないわ」

 答えた柊の顔は平静を装っているように見えたが、明らかに不快そうな目の色をしていた。

「あ……。何か、その、えっと。……すみません」

 良太は慌てて謝ったが、柊の機嫌は直らなかった。顔を背け、部屋を出て行ってしまった。

「いいのよ、別に。……散歩してくる」

 

「ああぁー……。僕、変なこと言っちゃいましたかぁ?」

 良太は頭を抱えてへこんでいる。

「まあ、虫の居所が悪かったのだろう。気にするな、良太」

 晴奈は良太の肩を叩きながら慰める、その一方で、柊の態度に疑問を抱いていた。

(あれほど不快感をあらわにされるとは。一体、何があったのだろう?)
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