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6.
敵の策略に「気付いた」エルスは大急ぎで軍備を東側に固めるよう、天玄中に知らせた。その甲斐あって雨が本降りになる前には、軍の防衛網が完成した。
「さあ、敵はこの雨に乗じてやって来るはずだ! 全員警戒を怠らず、防衛に努めてくれ!」
「おう!」
エルスの号令に、晴奈を先頭にして兵士たちが応えた。
日が落ちた今、既に雨は土砂降りとなり、地面の大部分をぬかるみに変えている。危惧していた通り、このままでは黄商会製の銃は使用不可能、焔剣士たちも得意の炎を使えないと言う状況に陥っていた。
とは言えこの事態は想定していた通りであり、一応の対処法もエルスが伝えている。
「まあ、急ごしらえだからちょっと不安だけど、これで銃士隊は辛うじて動ける」
「ホントに突貫工事だけどね。ま、この雨なら燃やされたりしないでしょ」
まず銃を使えるよう、街のあちこちに木製の覆いを被せて雨除けを作り、しっかりと乾かした銃器類を武器貯蔵庫から濡らさぬよう運び出し、天玄の中とその周辺でのみ使用できるように配備した。
「後は跳弾で味方や非戦闘員に弾を当てないよう、注意してね。……っと、セイナたちの方は」
「エルス。……甚だ、不安なのだが」
晴奈が刀を手にしたまま、エルスに声をかける。
「さっきやってみたら、ちゃんと火が点いたじゃないか」
「それは、そうだが。……刀が錆びないか心配だ」
「大丈夫、油じゃ金属は錆びないよ」
「……むう」
晴奈の刀には、べっとりと油が塗られている。いや、晴奈だけではなく、焔剣士全員に油が配られ、それを塗ることで無理矢理に、刀に火が点くようにしていた。
「剣は錆びないだろうが、剣士の誇りが錆びそうだ。こんな子供だましを……」
「いいから。戦いは正攻法だけじゃ勝てない。時にはそんな子供だましの手も使わないと、勝てなかったりするもんだよ」
「うーむ」
晴奈はまだ納得が行かなかったが、戦いの勝ち負けに言及されては返す言葉も無い。
「……まあ、善処する」
わだかまりつつも、晴奈は持ち場へと向かった。
「いやがるぜ……」
高い木の上で単眼鏡を覗き、天玄の様子を見ていたウィルバーは、天玄の東門へと向かう晴奈の姿を見つけ、毒づいた。
「セイナ、今度こそお前を屈服させてやるぜ」
ウィルバーはそうつぶやくと単眼鏡をたたみ、そのまま前方へと跳ぶ。枝や葉に当たることなく着地し、周りで待機していた教団員たちに号令をかけようとする。
「さあ、お前ら! 今から……」《これからいよいよ天玄に入ってもらいます!》
ところが「隠れ家」に潜んでいた天原が、魔術による通信でウィルバーをさえぎり、まくし立てる。
《相手は既に役立たずの集団です! 奴らがどうあがいても我々の勝ちは揺るぎません! 必ずや、必ずや天玄を制圧し、ワルラス聖下の教化計画推進と焔流打倒、それから私の家と財産と主席の座の確保を……》「うるせえ! 黙らせろ!」「はっ……、『フォースオフ』」
たまりかねたウィルバーが側近に指示し、天原の術を遮断させた。
「……コホン。邪魔が入っちまったな。
まあ、とにかくだ! 今からテンゲンに再攻撃する! 奴らの攻撃手段は既に封じられている! だが、安心するなよ! 敵方にはかなりの智将がいると言う情報を得ている! 不利な現状をカバーし、代替手段を持っているかも知れない! 十分警戒し、攻め込め!」
「御意!」
教団員たちは両手を合わせ――通常の軍隊で言うところの敬礼に当たる。黒炎教団の基本的な挨拶はこの「合掌」である――ウィルバーに応える。
「よし、それじゃ全員、進めッ!」
ウィルバーの号令と共に、教団員たちは泥水を跳ね上げて天玄へとなだれ込んでいった。
暗闇の中から怒号と大量の足音が響いてくる。
「来たな……!」
東門前にいた焔剣士たちは刀を抜き、構える。だが、まだ火は灯さない。「焔流剣術は使えない」と高をくくっている相手をギリギリまでひきつけ、油断させて一挙に潰そうと言う狙いである。
「まだだ、まだ姿は見えない!」
「動くなよ……!」
「もっとひきつけろ! この位置ならば銃士隊の援護もある!」
門前には焔剣士だけではなく、連合軍の兵士も陣取っている。彼らも武器を構え、いつでも敵に突入できるよう神経を研ぎ澄ませて待機していた。
晴奈はその中心に立ち、刀に手をかけて号令を発しようと構えていた。
「……」
晴奈は一言も発さず、目の前の暗闇を凝視する。
「……間もなく来る! 全員、用意しろ!」
そう言って晴奈は刀を抜き、正眼に構えた。焔剣士たちも同様に構え、精神を集中させる。
「……今だッ! 灯せぇッ!」
晴奈の号令とほぼ同時に、東門はにわかに明るくなる。するとすぐ目前まで迫っていた教団員たちの驚いた顔が、ほのかに浮かび上がった。
「火が……!」
「この雨でも、使えるのか!?」
騒ぐ教団員たちの中から、晴奈にとって聞き覚えのある声が響き渡る。
「怯むな! こんなもん想定内だ! 進め、進めッ!」
が、一瞬立ち止まり、動きが鈍った教団員に対し、今か今かと待ち構え、飛び出していった剣士・兵士たちとでは、攻める速度が違う。教団員たちの中に剣士たちがなだれ込み、教団員はバタバタとなぎ倒されていく。
「くっそ、立ち止まるんじゃねえ! 押せ、押せぇッ!」
それでも、数で圧倒的に勝る教団側は諦めない。倒れた教団員の上をドカドカと突き進み、第二陣が押し寄せてくる。
「門上方、射撃用意!」
門の向こうからリストの声が響き、続いて門の上に作られた即席の射撃台からパン、パンと銃声が降ってくる。なだれ込む第二陣は次々に胸や腹を押さえ、あるいはのけぞり、その進攻が阻まれる。
「チッ……! 銃まで普通に使えんのかよ!? どこのバカだ、『役立たず』なんて吹かしやがったのは!? 第三陣、突っ込めッ!」
ぶっきらぼうな号令と共に、教団の第三陣が現れる。
激しい雨の降る中、戦場は文字通りの泥沼と化していた。
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