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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・神算録 3

晴奈の話、107話目。
割と仲良し、晴奈とリスト。



追伸。
ここ数日の京都も、今回の舞台と同じような天気です。
気温20度以下、そして雨。
……風邪引きました。昨日からずっと鼻声です(´・ω・)



3.
翌日、正午過ぎ。

「なんか今日、肌寒いわね」

 リストが両手を組み、寒そうな様子で部屋に入ってきた。

「コートかなんか、無い?」

「外套か? そこにある、私の羽織で良ければ」

 一人で碁を詰めていた晴奈が壁にかけてある、藍色の羽織を指差す。

「ちょっと借りるね。……おー、あったかーい」

「それは良かった。しかし、リストたちは北方の生まれだろう? 寒さには強いと思っていたが」

「あー、確かに寒いけど、防寒具が充実してるから。今頃だととっくに、冬の対策が済んでるくらいだもの。それにアタシ、ちょこっと冷え性で」

「ほう」

 晴奈は立ち上がり、リストの手を握ってみる。

「む……、氷のようだ。そこで座っていてくれ。火をもらってくる」

「ありがと、セイナ」

 晴奈は一旦部屋を離れ、少しして火のついた炭を何本か持って戻ってきた。

「そこの火鉢を、部屋の中央に置いてくれ」

「コレ? よいしょ……、っと」

 晴奈はリストが引っ張ってきた火鉢に炭をくべる。少しして、火鉢に置いてあった炭にも火が移り、部屋はじんわりと暖まってきた。

「はー……、あったかぁい。もーホント、今日寒いのよね」

「エルスの言では、今日か明日くらいに雨が降ると言っていた」

 晴奈の言葉に、リストは露骨に嫌そうな顔をする。

「えぇ? この寒いのに雨? 勘弁してよぉ、風邪引いちゃうじゃない」

「私に言われてもなぁ」

「それに雨だと、今持ってる銃弾がしけっちゃうかも」

「エルスもそれは危惧していたな。そこで攻め込まれたら、かなり厳しくなる」

 火鉢にかじりつくように暖を取っていたリストが、晴奈に首を向ける。

「……エルスエルスって、アンタ気にし過ぎじゃない、エルスのコト?」

「そうか?」

 きょとんとする晴奈を見て、リストはぷい、と首を戻す。

「……アタシが気にし過ぎかな。気にしないで、セイナ」

「ああ、そうする。……リスト、ところで一つ聞くが」

「何?」

「エルスのことを、どう思っているのだ?」

 聞いた途端、リストの肩がビクッと震える。

「は、はぁ? いきなり何変なコト聞くのよ? あ、あんないっつも笑ってるようなヤツ、気になんかしたコトないわよ、ふんっ」

「(どう見ても、随分気にかけているようにしか見えないのだが)……そうか。おかしなことを聞いてすまなかった。……菓子でも持って来ようか?」

「そ、そうね。もらおっかな、うん」

 二人は一瞬見つめ合い、気まずそうに笑った。

 

 

 

「ほら、雨が降りそうですよ」

「そうですね」

 窓の外を嬉々として見つめている天原に対し、ウィルバーはむすっとした顔で茶菓子をむさぼっている。

(ったく、何でこんな学者崩れの相手なんかしなきゃなんねーんだ)

「……まずっ」

 茶を飲んだ天原が、大げさに顔をゆがめる。

「何ですか、この苦さは。下水じゃないですか、まるで」

「失礼ですがアマハラ卿、茶はその苦味と言いますか、渋味を楽しむものですよ」

 茶を淹れたウィルバーの従者が、おずおずと返答する。すると天原はバン、と茶器を机に叩きつけて反論する。

「何を馬鹿げたことを! お茶と言うのはもっとこう、甘いものでしょう!?」

「は……?」

 従者とウィルバーが顔を見合わせ、目配せする。

(おい、コイツ何言ってるんだ? 茶が甘い? こんなもんだろ、茶の味って)

(はい、間違いなく。恐らく、いつも飲まれているものは、砂糖を入れておられるのではないかと)

(……ガキか、コイツは)

「じゃあ、砂糖でもお持ちしましょうか」

 呆れた口調で提案したウィルバーに対し、天原はさらに怒りをあらわにした。

「砂糖、入ってなかったんですか!? 茶って言うのは入ってるもんでしょ、砂糖! まったく、こんな一般常識も無いなんて、教主のご子息が聞いて呆れますね!」

 天原の罵倒にウィルバーのこめかみが跳ねるが、拳を堅く握って何とかこらえる。

(キレんな、俺……。今コイツをボコっても、後で叔父貴に締め上げられるだけだ。こんなくだらねーコトで怒って、何になる)

 ウィルバーは平静を装って、従者に砂糖を持ってくるよう指示した。

「……ふう。まあ、いいです。気にしませんよ、僕は心が広いですから。

 ところで、ウィルバー僧兵長。一つ、面白い話をしてあげましょうか」

「……何です?」

「1年前、黒鳥宮に北方の諜報員が侵入したことがありましたよね」

「ええ、そう聞いています」

「実はですね、現在央南連合軍を直接指揮しているのはなんと、その諜報員らしいのです」

「へえ?」

 思いもよらない話に、怒り気味だったウィルバーも興味を引かれる。

「さらにですね、黄海防衛にもその諜報員が絡んでいたとか」

「何でスパイ風情がそんなコトを……?」

「何でも、その諜報員の教育に当たったのがあの『知多星』、ナイジェル博士なんだそうで」

 聞きなれない単語に、ウィルバーは首をかしげる。

「『知多星』?」

「北方のジーン王国ではですね、武勲を挙げた者には『武星』、優れた研究実績を挙げた者には『知星』の称号が贈られるんですよ。

 で、ナイジェル博士はその『知星』勲章をなんと、8個も持っているんだそうです」

「『知星』が8個で、『知多星』ですか。アタマ良さそうですね」

「ええ、彼の半世紀以上に渡る王国軍への参与で、その軍事力は3倍以上になったとも言われています。そんな智者が直々に指導した男ですから、戦略家としても相当な腕前を持っているでしょう」

「なるほど。……しかし、そうなると今回の作戦、ちょっともろ過ぎないですか? そんなアタマ良さそうなヤツ相手だと、破られるんじゃないですか?」

 ウィルバーの指摘を受け、天原は嬉しそうにニタニタと笑い出した。

「そこなんですよ、僧兵長! そこが、今回の作戦の狙いなんです!」

「どう言う意味です?」

「言ったでしょう、今回の指揮官は元諜報員だと! その前歴が、彼の目を狂わせるのです!」

「諜報員の、前歴が……?」

 天原の言わんとすることがまったく分からず、ウィルバーは詳しく尋ねようとする。

「それは、どう言う……」「お待たせしました、アマハラ卿。砂糖をお持ちいたしました」

 ところがそこで、従者の邪魔が入ってしまう。

「ああ、ご苦労様です。

 ……そうですね、詳しい説明はこの、苦々しいお茶を飲んでからにしましょうか」

 天原は砂糖の入った小瓶をつかみ、茶器の中にザラザラと投入していった。
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