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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・立志録 6

晴奈の話、6話目。



立志録、終了。
やっぱりファンタジーとか、不思議な話を書くのは楽しい。

6.

(試験、なんだから。

 重蔵先生、仰ってなかったけれど、柊さんも、以前に受けているはず、よね? じゃあ、ここに入っている、よね? だったら、鬼が出るって言うのも、襲うって言うのも知っていたはず。それなら身を護るために、防具なり武器なり、装備しているはず――例え歯が立たないとしてもー―でも柊さんは、道着だけ。襲われる可能性があるのに、道着だけ? ……以前は、出てこなかった? 襲われなかった? 二度入ったら、襲われるって言うの?

 そんなバカな話、無い――それなら、重蔵先生は何度襲われているか、分からないじゃない。と言うことは、鬼は襲わない。普通は、襲わない?

 じゃあ、襲ったのは、何で? ……あれ? 襲った? 物音も、無く? それだと――あれだけドスドス音を立てて、柊さんが気付かないわけが無いじゃない!?

 おかしい、考えれば、考えるほど、矛盾が広がっていく)

 納得行く説明を求め、迷走していく晴奈の心が、少しずつ静まっていく。

(おかしい、おかしい! 大体、この堂には入口、前にある一つしかない。前から入って来たのなら、すぐ分かるはず。でも足音が聞こえて来たのは、後ろから――前から足音は、一度も聞こえて無かった?

 じゃあ、鬼は、突然、現れた? いつ? どうして?)

 そこまで考えたところで、晴奈にある閃きが走った。

(殺される、と思ったら柊さんが殺された。

 鬼の足音のこと、考えたら鬼が出た。

 子鬼かな、と思ったら笑い声。

 考えると――現れる?)

 それを思い付き、晴奈はもう一度目をつぶり、心を落ち着けて、こう考えた。

(柊さんは死んでない。じっと、座禅を組んでいる)

 心の中で強く思い、目を開けて横を見た。

 重蔵が戸を閉めた時と同じ姿勢のまま、柊が何事も無かったかのように座っていた。

 

 伏鬼心克堂――その意味は、「鬼が潜む心を、抑える堂」。

 雑念によって現れる様々な「鬼」――迷いや不安、猜疑心を、冷静になって消し去ることを学ぶ堂である。

 そして焔流の真髄、炎を操るには、冷静沈着な心が不可欠なのだと言うことを、第一に学ぶために、この試験は用意されているのである。

 

 

 

 一旦それに気が付くと、不思議なほど晴奈の心は静まり返った。極めて冷静に、心を落ち着けて、時間が過ぎるのを待った。

 幸い、時間を潰すのは、非常に簡単であった。どう言う理屈か晴奈には分からなかったが、この堂は念じれば、何でも出てくるのだ。時間が過ぎ去るまでの間、晴奈は妹、明奈のことを思い浮かべることにした。

(明奈。あなたには、感謝してもしきれない)

 目の前に明奈が現れ、ニッコリと笑いかけてくる。

(あなたの言葉があったからこそ、私はこうしてここにいる)

 明奈は前に座り込み、穏やかに笑っている。

(明奈、……ありがとう)

 そうして晴奈はずっと、明奈と声を出さずに語り合っていた。

 

「はい、そこまでじゃ」

 どうやら3時間が過ぎたらしい。入口の戸が開き、重蔵が入ってきた。柊がすっと立ち、深々と頭を下げる。晴奈も慌てて立ち上がり、同じように頭を下げた。

「どうやら、合格のようじゃな。3時間、よく頑張った」

 重蔵は笑いながら、晴奈の頭を優しく撫でた。

「あ、ありがとうございます!」

「これで晴さんも、晴れて焔流の門下生じゃ。精進、怠らんようにな。

 それから雪さん、よく考えれば君は、入門して16年になるのう。そろそろ、教える側に回っても良かろう。師範に格上げしておくから、さらに精進するように」

「はい!」

 柊はとても嬉しそうな顔をして、もう一度頭を下げた。その頭を、重蔵が先ほどと同じように、優しく撫でながらこう言った。

「それでじゃ、晴さんは、君が指南してあげなさい」

「え!?」

「元々君に師事したいと言っておったのじゃし、年老いたわしの下に就いておっては、折角の若い才能も枯れてしまうじゃろう。

 しっかり、鍛えてやりなさい」

「……はい。しかと、拝命いたしました」

 柊は三度、頭を下げ、晴奈に向き直った。

「改めて、よろしくね、晴奈ちゃん。……ううん、晴奈」

「はい! よろしく、お願いいたします!」

 晴奈ももう一度、深々と頭を下げた。

 

 こうして黄晴奈は焔流に入門し、師匠・柊雪乃の下で修行を積むことになった。

 これが後の剣聖、「蒼天剣」セイナ・コウの原点である。ここから彼女の、波乱万丈の人生が始まっていくが、それはまた、別の機会に述べさせていただこう。

 

蒼天剣・立志録 完
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