[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
焔流に入門した晴奈は、急速に力を付けていった。魔力が強いと言われる猫獣人であったことも大きいが、師匠、柊の教え方も、非常に良かったのであろう。
その日も柊と二人で、稽古を行っていた。
「えいッ!」
「やあッ!」
二人の木刀が交錯し、カンと乾いた音が、他に人のいない修練場に響き渡る。まだ日も昇らぬ、山中の冷え切った空気が立ち込める早朝ながら、二人の動きは活き活きとしている。
「いい調子よ、晴奈! それ、もう一度!」
「はいっ、師匠!」
14歳になった晴奈は、紅蓮塞で揉まれるうちに、周りの者たちの影響を受け、性格、口調が大分、変化していた。
「てやあッ!」
晴奈は飛び上がり、柊の頭上に思い切り、木刀を振り下ろす――「稽古も真剣勝負のつもりで」、それが二人の交わした、いくつかの約束の一つだった。
「りゃあッ!」
柊も木刀でそれを防ぎ、身をひねりながら足と木刀を使って、晴奈を投げ飛ばす。
「なんのッ!」
飛ばされた晴奈も、空中で体勢を立て直してストンと地面に降り、柊に再度、斬り込む。だが残念ながら、後一歩姿勢が伴わず、踏み込みを見誤った拍子に、柊に木刀を弾き飛ばされてしまった。
「あっ……」「勝負、あった」
「いくら身軽な『猫』とは言え、性急な攻めは無謀よ、晴奈」
「はは……、お恥ずかしいです」
朝の稽古を終え、二人は汗を流していた。二人で朝風呂につかりながら、ここはこうだった、次はこうした方がいいと、稽古の内容について熱く、意見を交わしていた。
「それでは、昼までの精神修養は……、くしゅ」
議論に熱を入れすぎたせいか、逆に体から熱が奪われ――湯冷めしてしまったらしい。年相応の可愛いくしゃみに、柊が笑う。
「あはっ、ダメよ晴奈。体を健康に保つのも、修行の……、くしゅん」
笑っていた柊も、うっかりくしゃみをしてしまう。二人はばつが悪くなり、笑ってごまかした。
風呂から上がり、晴奈たちはさっぱりとした気分で、朝食を食べていた。先ほどとは違い、ここでは二人とも、声は出さない。と言うか、央南の人間は基本的に、食事中しゃべることは少ないのだ。
だから、二人で黙々と食べていたところに、「晴奈、お客さんが来ているよ」と、部屋の戸を開けられた時には、二人同時にむっとした顔をしたし、伝言に来た者もすぐさま謝った。
謝ってきたから柊はすぐ、表情を直したのだが、晴奈は依然、いぶかしがって表情を変えずにいた。単身、紅蓮塞に乗り込んできた晴奈に、外界からの客など、いるはずが無いのだ。
「私に、客が?」
「ああ。何でも、黄海から来られたそうだ」
「黄海……、ですか」
その地名を聞くなり、晴奈の食欲は途端に無くなり、ぱたりと箸を置いた。
黄海。かつて晴奈が過ごした、央南北西部有数の、大きな港町である。
同時に央南、黄州の州都でもあり、その街は晴奈の家、黄家が治めていた。だから、その名を聞くたびに、黄家での生活――すなわち、親の言いなりになっていた自分を思い出し、晴奈の気は滅入ってしまう。
「その、客の名前は?」
晴奈は尋ねたが、伝えに来た者は首を振る。
「いや、ただ『晴奈に会いたい』としか……。中年の『猫』で、なかなかいい身なりをしていた。見たところ、どこぞの名士のようだったな」
それを聞いた瞬間、晴奈は恥ずかしさと苛立たしさを、同時に覚えた。
「……どうやら、父の、ようです。私を、連れ戻しに来たか……」
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |