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4.
《アマハラくん》
夜遅く、天玄館の主席室に声が響く。黙々と書類をいじっていた天原は、その声に狐耳をピンと立てた。
「ウィルソン聖下ですか? 少々お待ちを」
天原はそっと、部屋の入口に鍵をかける。そして壁際の本棚を動かし、その裏にあった魔方陣の描かれた壁をさらす。
「『扉』は開けました。どうぞ、おいでくださいませ」
《ありがとう》
魔方陣が紫色に輝き、その中央からするりと「狼」が現れた――ワルラス卿である。
「少し、気になる件を聞いたのでね。取り急ぎ、こちらに伺った次第だ」
「黄氏の件、でございますね」
天原はワルラスに近付き、そっと耳打ちする。
「まあ、やはりと言いますか。あのグラッドと言う男、なかなかに頭が切れるようでして。密談の様子を盗聴していた者から、私の正体に気付いたようだ、との報告が」
「ふむ。それは、少しまずいかもしれない。
グラッドとか言う者自体は連合の関係者では無いし央南人でも無いから、仮に君のことを吹聴されても、さして問題は無い。だが、コウ氏にその話を広められれば……」
「私の地位、ひいては聖下の央南教化計画にも、大きな打撃が……」
心配そうに見つめる天原を見て、ワルラスも眉を曇らせる。
「ああ、確かに多少なりとも被害は出るだろう。
が、それは『もしもそうなれば』の話だ。そう、ならなければ良い。分かるね、天原くん?」
ワルラスの問いに、天原は眼鏡をキラリと輝かせて答える。
「は……、心得ております。今夜中にも、手配いたします」
「よろしく頼む。では、失礼」
そう言ってワルラスは席を立ち、魔方陣へと歩き、その向こう側へと進む。その直後カチ、と音を立て、魔方陣から光が消えた。
「……それに」
ワルラスの気配が消えた後、天原はぼそっとつぶやいた。
「あの猫女、僕の『研究』にも気付いていやがるんだ。あの娘は何としてでも、消さなきゃいけない……」
「詳しい話はまた明日」と言うことで、晴奈たちは宿を取っていた。すでに時刻は真夜中を過ぎ、赤と白の、薄い下弦の月がわずかに窓際を明るくしている。
と、その光が何かにさえぎられ、部屋に届かなくなる。代わりに黒い服を着た者たちが2人、3人と部屋に入ってきた。
黒ずくめたちは目標を確認しようと床に近付いていく。だが、その目標――晴奈、エルス、そして紫明の姿は、床に無かった。
「……!?」
部屋を間違えたかと黒ずくめたちは一瞬顔を見合わせ、うろたえた。
「ここで合ってるよ」
上から、声が聞こえる。黒ずくめたちがそちらを向いた瞬間――。
「ほい」「ぎゃー……ッ!」
黒ずくめの一人が窓から勢いよく、投げ飛ばされた。
「でも、何も言わずに夜這いって、感心しないなー。やるなら堂々と正面突破、じゃないと。そうじゃなきゃ、女の子はなかなか振り向いてくれないよ?」
エルスが窓から顔を出し、頭から地面に突っ込んだ黒ずくめに笑いかけた。
「な、何故我々が来ると……!?」
「あのね。アマハラさんが怪しい、って言ったのに、アマハラさんが用意してくれた部屋は怪しくない、って理屈は通らないと思うよ。
君たちに話を聞かれてたことも知ってたし、こうして襲ってくるって言うのも、予想が付いてたんだよね~」
そう言って苦笑しながら、エルスは二人目の肩と帯をつかみ、背負うように勢いよく引っ張った。
「えい」「わー……ッ!」
2人目も同様に、窓の外へと飛んでいく。残った黒ずくめは、「ひぃ」と叫び、自分から窓の外へ飛び出し、逃げていった。
「ふー。……じゃ、頼んだよセイナ」
逃げた黒ずくめは大急ぎで天玄館に戻っていく。裏口に入り、隠し階段を登り、秘密の通路を抜ける。そして晴奈たちの暗殺を指示した黒幕、天原のところに舞い戻った。
「殿……!」
「どうしました、そんなに慌てて? 成功したのですか?」
「あの、それが、その……」「ああー」
天原の顔色が悪くなる。
「分かりました。あなたの後ろを見て、何もかも」
黒ずくめはそっと、振り返る。振り返った瞬間何か硬いものを鎖骨にぶつけられ、痛みで気を失った。
「安心しろ、峰打ちだ」
黒ずくめの背後にいた晴奈は、そう言って刀を納めた。
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