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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・権謀録 5

晴奈の話、94話目。
少年漫画みたいな展開。
 
 
 

5.
晴奈はキッと天原を睨みつける。

「天原主席。これで、言い逃れはできないぞ。

 教団員と思しき黒ずくめ2名はエルスが捕らえ、残った1人もこうして親玉、つまりあなたのところに戻るのを確認した。もう、弁解の余地は無い」

 真っ青になった天原は硬直している。が、突然笑い出した。

「ヒ、ヒ……、ヒヒッ、そう思うか、本当にそう思うのか!」

 そう叫ぶなり、天原はブツブツと何かを唱える。

「……魔術か!」

 警戒した晴奈は素早く刀を抜き、炎を灯して構える。

「お前らが消えれば証拠なんか、どうとでもできる! 『アイシクルエッジ』!」

 天原が向けた掌から、にゅっと氷柱が飛び出す。晴奈はそれを刀で弾き、間合いを詰める。

「それ以上、抗うな」

「断る! 全力で抗う!」

 天原はさらに氷柱を撃ち出す。だが氷は炎と相性が悪く、焔流の剣豪相手では氷の魔術など、大した武器にはならなかった。

「それッ! はいッ! でやあッ!」

 次々と打ち出される氷柱を晴奈はいとも簡単に弾き、溶かし、天原との距離を縮めていく。

「観念しろ、天原!」

「いやだッ! 逃げるッ! 『ホワイトアウト』!」

 術を唱えた瞬間、辺りに白い煙が立ち込める。敵を幻惑させる、目くらましの術である。同時に、先ほど晴奈が通ってきた隠し通路の方から、足音が聞こえてきた。どうやら敵わないと見て、逃げ出したらしい。

「む……! 逃がさんぞッ!」

 晴奈も隠し通路に飛び込み、天原の後を追った。

 

「ヒィ、ヒィ」

 天原は半泣きで天玄館を出た。夜道を駆け、必死で晴奈から逃げようとする。

「誰か、誰かいませんか!」

 天原は誰もいないはずの夜道に、声をかける。

《はっ。殿、こちらでございます》

 ところが、虚空から低い男の声が返ってきた。

「おお、篠原くん! 来てくれましたか!」

《殿の危急とあらば、どこへでも馳せ参じます》

「流石、流石ですよ! ……そうだ、篠原くん! これから女剣士がやってきます。流派はあの、焔流です」

《……!》

 姿は見えないが、息を呑む気配は伝わる。

「あなたの、あなたの剣術、『新生焔流』で、細切れにしてしまいなさい!」

《……御意》

 そこでようやく、骸骨のように痩せた、眼の窪んだ男――種族までは頭巾を被っているので分からない――が姿を現す。

 と同時に、晴奈が追いついてきた。

「天原ッ! そこになおれ!」

「……ヒヒヒヒ。断る、断りますよ黄さん!」

 天原は篠原の後ろに隠れ、居丈高に笑う。

「さあ、やっておしまいなさい! その間に、私は『例の場所』に行きます!」

「承知」

 篠原はわずかにうなずき、晴奈と対峙した。

 

 篠原と向かい合った瞬間、晴奈の耳と尻尾が毛羽立った。

(……こやつ、できるな?)

「名乗っておこう」

 篠原は大儀そうな低い声で名乗る。

「某、篠原龍明と申す。新生焔流、篠原派開祖だ」

「焔流だと!?」

 敵も自分と同じ流派だとは素直に信じられず、晴奈は思わず声を上げる。だが良く見てみると、確かに刀の構えは焔流の面影がある。

「そうだ。殿に聞いたが、貴様も焔流の者だそうだな」

「いかにも。本家焔流免許皆伝、黄晴奈だ」

「なるほど。確かに腕は立つようだが……」

 気だるそうに篠原がつぶやいた直後、晴奈は尋常ではない殺気を感じて一歩退く。その瞬間、自分が立っていた場所を斜めに、地割れが走った。

「ふむ、勘もいい。某の『地断』を見切るとは」

 いつの間にか篠原の刀から、炎が噴き出していた。

(『火射』の、派生形か。地面がこのように、バッサリ斬れるとは)

「……もう一人、いたか」

 篠原が晴奈の背後に目を向ける。するとガサガサと音を立て、茂みからエルスが現れた。

「はは、僕のスニーキング(潜伏術)もまだまだだなぁ」

 エルスは晴奈の横に立ち、ト型の武器――トンファー(旋棍)を取り出して構える。

「アマハラさん、逃げちゃったかぁ。えーと、シノハラさんだっけ。一つ提案するけど」

「何だ?」

「僕らの目的はアマハラさんの確保だったけど、逃げられちゃったから目的不達成。で、シノハラさんの目的はアマハラさんが逃げ切るまでの、僕らの足止めでしょ?

 僕らの目的は達成できなかったし、シノハラさんの目的は達せられた。双方にとって最善の策は、ここで僕らと戦わず、このまま離れることだと思うんだけど」

 エルスの提案を聞いた篠原は、馬鹿にしたように口角を上げた。

「愚論だ。某、黄の殺害を命じられている」

 それだけ言うと篠原は晴奈との距離を詰め、斬りかかってきた。篠原が踏み込んだ瞬間、晴奈も反応する。

「りゃあッ!」

 晴奈と篠原、二人の刀がぶつかり合い、高い金属音が夜道に響き渡る。篠原は少し意外そうな顔をして、晴奈に声をかける。

「ふむ……、弾き飛ばすつもりだったのだが。女と侮ったが、思ったより胆力がある」

「この黄晴奈、なめてもらっては困る」

 晴奈はトンと後ろに下がり、刀に火を灯す。

「『火射』!」

「むうっ」

 晴奈の放った「飛ぶ剣閃」は、確実に篠原を捉える。だが――。

「『火閃』!」

 篠原は「爆ぜる剣閃」で晴奈の技を跳ね返した。

「な……ッ!?」「危ない、セイナ!」

 エルスが晴奈の腕をつかみ、横に投げる。それと同時に、迫り来る炎を魔術で防ぐ。

「『マジックシールド』!」

 エルスの作った魔術の壁に自分の技が防ぎきられたのを見て、篠原は顔をしかめた。

「なるほど、お前の言う通りのようだ。この状況では一向に、決着するまい」

 篠原は刀を納め、身をひるがえした。

「黄。そして、グラッドと言ったか。この決着は、いずれ付けさせてもらおう」

「待て、篠原ッ!」

 晴奈が呼び止めたが、篠原はそのまま闇に紛れ、姿を消した。
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