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2.
「晴奈、いる?」
その日の昼過ぎ、師匠の柊が、晴奈の部屋の戸を叩く。
「あなた、今日の様子が少し変だって、良太から聞いたけど。何かあったの?」
戸越しに尋ねるが、返事は無い。
「晴奈?」
答えない。
「入るわよ?」
柊はそう言って、戸を開ける。
「……?」
部屋には、誰もいなかった。
晴奈はその頃、すでに紅蓮塞から抜け出し、北西へと進んでいた。その道の先には、屏風山脈――すなわち、黒炎教団の本拠地、黒鳥宮がある。
(待ってろ、明奈! 今、助け出してやるからな!)
晴奈は足早に、街道を突き進んでいく。師匠と何度か旅を経験したおかげで、一人きりでも大まかな道筋は分かる。
「こっち、だな」
分かれ道を左に進み、ぐいぐいと手足を振り上げて道を急ぐ。
「待っていろ、明奈」
晴奈は自分の足の、あまりにも軽快な進み具合に、これも夢では無いかと怪しんだほどだった。
やがて4日も進んだ頃、晴奈は屏風山脈のふもと、黒荘と言う街にたどり着いた。
教団が近くにあり、また、街の名前に「黒」とある通り、ここはすでに教団の教区、つまり縄張り内である。明らかに焔流の剣士であると分かる晴奈を見た住人は、揃っていぶかしげに晴奈を見ていた。
(フン……! こちらは焔流、免許皆伝の身だ! 来るなら来い、黒炎め!)
口には出さないまでも、その態度から、教団への敵対心がありありと見えている。当然、街中を歩けば歩くほど、遠巻きに眺める者たちが現れる。
(さあ、いつ来る? どう来る?)
晴奈の心と態度はどんどん、挑発的になってくる。
やがて、晴奈の前に一人、男が現れた。だが、そのいでたちはどう見ても、教団員には見えない。晴奈と同じ、旅の者のようだ。
「一つ聞いても、いいね?」
ボロボロの外套をまとったそのエルフは、眉をひそめながら声をかけた。
「何だ?」
「キミ、ケンカ売ってるね?」
晴奈はその言葉を聞いた瞬間、自制を止めた。
「そうだ、私はこ……」「バカっ」
名乗りを上げようとした瞬間、目の前が暗転した。
「……う?」
気が付くと、晴奈はどこかの、小屋の中で横になっていた。
「目、覚めたね?」
横には、先ほどのエルフが座っている。その顔は、いかにも呆れ果てた、と言う感じである。
「何故、私はここに?」
「私が運んだね。……どーやら焔の人っぽいけど、何であんなコトしようとしたね?」
「む?」
「教団員だらけのあの村で、いきなり『私は焔の剣士だ』なんて、自殺行為もいいとこだね」
エルフは30代くらいの見た目に似合わない、少年のような高い声と妙な言葉遣いで、晴奈を責める。
「自殺行為なものか! 私は焔流、免許皆伝の……」「はいはい」
エルフは晴奈の言葉をさえぎり、彼女の額をペチ、と叩いた。
「自慢はいいから。私は理由を、聞いてるね」
「ふーん。妹を救いにねぇ」
話を聞き終えたエルフは腕を組んだまま斜に構え、黙り込む。
「先を急ぐので、これで失礼させてもら……」「話は終わってないよ、おバカ」
いきなりの罵倒に、晴奈は面食らう。
「なっ」「その高くなった鼻、ポッキリ折ってあげようかね?」
エルフは晴奈を頭から、馬鹿にしている。自尊心の高い晴奈は、エルフの態度に怒りをあらわにした。
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