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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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伏見稲荷、迷うあたしたち、夜

深草さんの話、9話目。

あれは3年前の話でした。
夕方伏見稲荷に訪れた僕は、ふと千本鳥居を歩いてみたくなり、稲荷山を登ってみました。

姫子ちゃんの置かれた状況は、すでに3年前、僕が通過しているッ!
ああ、怖かった( ∩Д`)

   伏見稲荷、迷うあたしたち、夜

 

 京都で狐と言えば、何が思い浮かぶだろうか?

 相国寺の宗旦狐? 聖護院の森の御辰狐?

 いやいや、もっと名の通ったものがある。全国の稲荷神社の総本宮、伏見稲荷大社だ。

 

 

 

「広いなぁ」

 藤森さんがうなっている。あたしも目の前の案内板を見て、同じことを言う。

「広いですねぇ」

「この先が、あのCMに出てくる千本鳥居だな」

「CMって、何のですか?」

 あたしが尋ねると、藤森さんは少し意外そうな顔をした。

「え、ほら、あれだよ。観光案内だか何だかのCMで、着物を着たお姉さんが千本鳥居の真ん中に立ってる……」「千本、鳥居?」

 言葉の意味がわからず、あたしはさらに聞き返す。藤森さんは少し、がっかりしたような顔をした。

「そっか、桃山ちゃんの世代だと、あのCM知らないんだな。

 ん、まあ――千本鳥居って言うのは、その名の通り鳥居が立ち並んでる道なんだよ。山道全体に、まるでトンネルみたいに立ち並んでることから、その名前が付けられたんだ。で、昔のCMで、そこが使われてたんだよ」

「へぇ~……、え? 山、道?」

 あたしは嫌な予感がした。いや、ここに来る前から――事前に調べていた段階から、嫌な予感はしていたのだ。まさか、登るんですか、山道を?

「ああ、伏見稲荷は稲荷山全体が神社になってる。隅々まで調べたいんだけど――姫子ちゃん、登るのはきついかな?」

 その言い方が、子ども扱いされているように思えて――あたしはつい、「大丈夫です! こんなん、平気ですよ!」と言ってしまった。

 

 こんなん、平気ちゃうよぉ。

「ハァ、ハァ……」

「大丈夫、姫子ちゃん?」

「だ、大丈夫、です」

 やってしまった。小柄で幼児体型なせいで、昔から子供扱いが嫌いだった。……いい加減、直さへんとアカンな、この性格。

「そう、それならこのまま進むけど」

 待って。空気読んで、藤森さん。あたし平気言うてるけど、ホンマは平気ちゃうんですよぉ。

「は、はぁい」

 ああ、あたしアホやぁ。何がはぁい、やねん。止めてぇ、藤森さん。

「ここを登っていくことを、参詣する人たちは『お山する』って言うらしい。いかにも京都らしい表現だよな、はは」

 何笑てんですか、藤森さぁん。あたし、死にそうになってるんですよぉ。

 

 まずい。ホンマに死にそうになってる。

「あれ?」

「ここ、さっきも」

「ああ。おかしいな……」

 たっぷり時間をかけて、山全体を回ったのがまずかったらしい。すでに辺りは夕闇に染まり、昼に回った時とは様子が違っている。さっきからずっと、あたしたちは同じところをグルグル回っていた。

「あ、あの、藤森さん」

「ん?」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ、まだ夕方だし。それに、いざとなったら携帯も……、あ」

 圏外だ――山の中なんだから、アンテナなんかあるわけ無い。

「ま、まあ大丈夫だよ。ほら、お店もあちこちにあっただろ? そこら辺で聞けば……」

 藤森さんはあたしの手を引いて、お店のある方角へと進んだ。

「あれ? ウソだろ、もう閉店?」

 店は――閉まっていた。時刻は、まだ18時だと言うのに。

 

 19時になった。あれからずっと、あたしたちはウロウロと歩き回っている。

「……大丈夫、ですか?」

「う、うん」

「ホンマに、大丈夫ですか?」

「……うん」

「ホンマ?」

「……」

 辺りはすでに真っ暗だった。暗くなった山は、あちこちから怪しげな物音がする。バサバサ、キーキーと鳥が立てる音。ガサガサと、獣が這い回る音。ザワザワと、木々が風になびく音。

 怖い。夜の山がこんなに、怖いものだとは思わなかった。

「ど、どうするんですか、藤森さん」

「大丈夫、だって。何とか、するよ」

「何とかするって、どうするんですか」

「……」

 藤森さんは答えない。疲れと怯えからイライラしていたあたしは、キッと藤森さんをにらみつけようとした。だが――。

「……!?」

 藤森さんの、姿が無い。

「ふ、藤森さん? どこ?」

 あたしはキョロキョロと辺りを伺ったが、藤森さんの姿が――消えた。

 

 怖い。道に迷い、さらに辺りは不気味な――怯えるあたしには、何もかもがそう映る――物音や闇が、満ち満ちている。しかもさっきまで一緒にいた人が、どこにもいない。

「藤森さぁん……、藤森さぁん、どこー?」

 何度も呼びかけるが、返事は返ってこない。どうしようもなくなり、あたしはその場に座り込んだ。

「藤森さん、どこ行ったんやろ」

 あまりに怖いので、辺りを伺うことができない。あたしはただじっと、カバンを握りしめていた。気を紛らわせないかと、携帯を――いまだ圏外だったが――いじりながら、あたしはただ、じっとしていた。

と、アンテナが1本だけだが、立った。それと同時に、メールが入ってきた。いつもは楽しい着信音が、やけに怖い――ホンマに、怯えてると実感した。藤森さんからかと一瞬期待したが、メールはただの広告だった。アンテナはすぐ消え、また圏外になる。

「……藤森さんのアホぉ」

 あたしは心細くなり、膝の間に顔をうずめて縮こまった。

 

「おーい」「ひあ!?」

 遠くから、声をかけられた。あたしはビックリして、妙な声を出してしまった。

「何か、音が聞こえたんで――どないしました、こんなところで?」

 声をかけてきたのは、眼鏡をかけた、緑色の袴姿のおじさんだった。どうやら、神社の人らしい。

「そ、その、帰る道が分からへんなって」

「へぇ? それやったら、あっちの……、ああ、暗なって分かりにくいやろうなぁ。私も下、降りるので良かったら付いてきてくだ「あ、あの。あたしの先輩、も一緒に来てたんですが、いなくなっちゃったんです」え? そら、ちょっと危ないかもしれへんな。夜道やし、どこかに落ちたんかもしれへん。探して、みましょか」

 神社の方――胸に付いていた名札には「太丸」と書かれていた――は懐中電灯を手に、あちこちを照らした。

「ん? あっ」

 山道の下を照らした太丸さんは、何かを見つけたらしく、下へ続く道を駆け下りていった。

「あ……」

「藤森さん!」

 あたしも太丸さんの後を付いていき、下で倒れていた藤森さんを見つけた。

「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫だよ。……アホで、悪かったな」

 うわぁ、聞かれてた。ごめんなさい、藤森さん。

 

「いてて……」

「あきませんよ、こんな夜に山道歩いてたら」

 太丸さんは藤森さんに肩を貸しながら、あたしたちに説教をしていた。

「すみません、ホンマ」

「前にも、同じような子がいましてな、グルグル同じところ回って、挙句に『化かされた』言いましたんや。

 ホンマにもう、うちを狐の総本山みたいな風に思てる人多いんですわ」

 その言葉に、あたしと藤森さんは顔を見合わせ、バツの悪そうな顔をした。

「大体ね、百歩譲ってうちがそうやとしてもね、何で人に悪さするのかと。神社ですよ、神社。罰当たりなことでもせえへん限り、悪さなんてせえへんて」

「そ、そうです、よね」

 太丸さんはドンドン加熱してくる。

「というかね、そもそも『化かされる』とか『祟られる』なんてのはね、人が悪いことするからですわ。こっちが変なことせえへんかったら、そんなんされるワケ、無いんですよ」

「は、はあ」

「まったくもう、あの子もきつ……、あ、コホン。まあね、こっちが変なことしなかったら、化かされたりしませんよ。気をしっかり持ってはったら、落っこちたりしません」

「お手数、かけます」

 藤森さんが、しゅんとした表情で謝っていた。

 

 きつ……、何?

 

 

 

 何とか下山したあたしと藤森さんは、太丸さんにお礼を言って、タクシーを呼んでもらった。しかし――。

「藤森さん、ちょっと待ってて」

「え?」

 あたしはすぐ、社務所に行って太丸さんのところに戻った。

「あれ? さっきの「ちょっと、すみません。聞きたいこと、あるんですけど」え?」

 太丸さんはけげんな表情を浮かべている。あたしは恐る恐る、尋ねてみた。

「前に迷った子、って――」

 

迷子、円、その店 に続く

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