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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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因縁、電話、夢

深草さんの話、10話目。

あら、何だかホラーになってきちゃった。
ホラー、怖いの嫌いだから書かないつもりでしたが。
まあ、この調子で進めていきます。

   因縁、電話、夢

 

 京都から神奈川へ戻ってからの、2週間。

 あたしの母とその一家は、最悪の、一歩手前の状態になった。

 

 修学旅行から帰るなり、母が倒れたことを、父から伝えられた。

 原因は、不明。ストレス性の胃炎と診断されたが、詳しいことは分からないそうだ。倒れてからすぐに、起き上がれなくなるほど症状が悪化し、今も病院で、検査と治療を受けている。

 次に、母の実家から泣きつかれた。

 母方の父――祖父は小さな会社を経営しているのだが、不渡りを出してしまったらしい。その額は聞いてはいないが、電話を受けた父がへたり込み、「すみませんが妻が倒れて物入りなので、これで失礼しますっ」とまくしたて、電話を叩きつけるように切っていたので、とんでもない金額であることは察せられた。

 

 その、次に。

 母の妹さん――路子叔母さんが、母と同じように倒れたそうだ。こちらはまだ、比較的症状が軽く、あたしは一度だけ、話をすることができた。

 その時の話が、これである。

 

 

 

「うう、ああ……」

 胃の辺りを押さえ、路子さんは病院のベッドでうめいている。母と同じ病院に収容されたので、あたしと父は彼女を見舞っていた。

「大丈夫、叔母さん?」

「うう、痛い」

「大丈夫じゃ無さそうだよ、葛葉。そっとしておきなさい」

 父が静かにあたしを諭し、その場を離れようとした。その時、路子さんが息も切れ切れに、ボソボソと話し始めた。

「き、つね」

「え?」

「きつねが、かみついてくる」

 狐。あたしも、父も、狐にはある、恐ろしいイメージを抱いている。二人同時にビクッと震え、路子さんに向き直った。

「すみません、路子さん。狐が、何ですって?」

 父が震える声で、そっと尋ねる。

「夢の中で、狐がわたしに噛み付くの。尻尾を怒らせて、ガリガリ噛み付いてくるのよ。そして噛み付きながら、こう言うの。

 『本家がいない今、儂が畏れるものは無い。10年余縛られた恨み、お前とその姉をもって晴らしてくれる』って」

 意味が分からず、父もあたしも顔を見合わせて黙り込む。路子さんはさらに続ける。

「噛まれながら横を見ると、姉さんが同じように、狐に噛まれてるのが見えた。私の様子を見た狐は、噛みながら笑ってこう言ったわ。

 『お前の父親は愚かだ。吊りあわない願いをするから、こうなるのだ』――助けて、お義兄さん、葛葉ちゃん」

 そう言うなり、路子さんは気を失った。たちまちお医者さんが駆けつけ、面会謝絶――それ以上のことは、何も聞き出せなかった。

 

 叔母の話は不気味で、不可解なものだったが、どうやら祖父が何か、関係しているらしかった。とは言え、今祖父のところに行けば、資金繰りのゴタゴタに巻き込まれる。父もあたしも、祖父に話を聞かないように約束しあった。

 

 

 

 家に戻り、父とあたしは黙って夕食を食べていた。母は料理が得意なのだが、父はそうではない。母の味に断然劣るコンビニの弁当を、もしゃもしゃとのどに押し込んでいた。

「……名刺、見せてくれ」

 不意に、父が口を開いた。

「名刺? あの、『たまきや』のやつ?」

「うん。狐、って言ってただろ、叔母さん。同じ狐なら、あの人に聞けば、何か分かるかもしれない」

「……でも、大丈夫かな」

 あたしは狐に化けた、深草さんの真剣な顔を思い出し、ぶるっと身震いする。

 

 ――これは、冗談でもお茶目でも、ましてや夢でもありまへんのんや。お父さんとお母さんに、すごい危険なことが迫っとるんです。どうか、忘れへんようにお願いします――

 

 だけど。思えば、あの時の深草さんは、とても心配そうにしていた。本気で、あたしと両親を心配してくれた目つきだった。

 同じ「狐」でも、母や路子さんに噛み付いた奴とは違う――そんな気がした。父も多分、そう思っていたに違いない。きっと16年前も、深草さんは父の身を案じて、あんな顔をしていたのかもしれない。

 

 

 

「はい、『たまきや』です」

 名刺に書いてあった電話番号にかけると、普通につながった。受話器の向こうから、深草さんの声が聞こえてきた。

「あの、こんばんは。橋本です」

「はし、もと……、ああ、はいはい、こないだの。……何か、ありましたか?」

 あたしは父に電話を変わり、事情を説明してもらった。

「ええ、そうなんです。扇子が折れた途端です。……はい、何だか虫に食われたような。……え? ……はい、見てみます」

 父は受話器に手を当て、あたしに声をかけた。

「葛葉、お父さんたちの部屋にある、白いタンスの左上に白木の箱が2つ入ってる。それ、持ってきてくれ」

「はーい」

 持って来た箱を手に取った父は、ふたたび受話器を耳に当てる。

「はい、持って来ました。……はい、分かりました」

 受話器を耳に当てたまま、父は箱を開ける。そこには虫に食われた扇子があった。

 

 いや、虫に食われている、と言うよりも、これは――もっと大きな、中型犬くらいの獣に噛み千切られたように見える。よく見ると、ところどころに金色の毛が付いている。父もそれに気付いたのだろう――声色がより、怯えたものに変わった。

「はい、そうです、はい。……はい、付いてます。……ええ、はい。……え、はあ。……いや、仕事があるので、……葛葉ですか? あの子も学校が、……いや、それは、そうなんですが」

 父はまたあたしに顔を向け、すまなさそうに尋ねた。

「葛葉、学校、ちょっと休めるか?」

「え?」

「深草さん、僕か葛葉に、京都に来てほしいって。4~5日くらいかかるらしいんだけど、大丈夫か?」

 どうやら、深草さんはこの「事件」を解決できるようだ。あたしも、この異常事態を早く解決して、母の美味しいご飯が食べたい。そして、祖父の電話に気兼ね無く出られるようになりたかった。

 行ける、と答えた。

 

 次の日、すぐに京都行きの新幹線に乗り、あたしは一人、京都に向かった。新幹線の中で、あたしは箱の入ったカバンを抱え、懸命に祈っていた。

 どうか、母と叔母の病気が良くなりますように。

 どうか、祖父の会社が持ち直しますように。

 どうか、あたしには、災いが降りかかりませんように。

 

 

 

 でも、「狐」の脅威は、あたしにも迫っているらしい。座席でうとうとしていた時、ほんの一瞬、恐ろしい夢を見てしまった。

 座席に座るあたしの足元に、しゅっと金色の帯が走った。そしてどこからか、おどろおどろしい声が響いてきたのだ。

「次はお前だ。七代、祟ってやるから覚悟しておれ。

 その扇子、いつまでもお前を護れると思うなよ?」

 

 カバンに入れた箱の中から、ミシミシと、扇子がきしむ音で、目が覚めた。

 

因縁、電話、夢 終

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