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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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五条坂、コイン、コイン

深草さんのお話、7話目。
去年、メイプルのオフ会で清水寺に行ったんですが、清水寺の紅葉は綺麗ですよ。
そして思い出すのが、オフ会に参加してたPigeonさんが五条坂で起こしたハプニングw



ちなみに、登場人物の名前は京都の京阪電鉄から取っています。
深草さんは京都のお稲荷さんの住所から取ったんですが、京阪にも「深草駅」があるんです。
http://www.keihan.co.jp/

藤森 : 藤森駅
桃山 : 伏見桃山駅
京一 : 京橋駅
牧子 : 牧野駅
善広 : 光善寺駅

   五条坂、コイン、コイン

 

「ゲホ、ゲホッ」「大丈夫ですか、藤森さん」

 電話の向こうで藤森さんが苦しそうに咳をしている。季節の変わり目のせいか、風邪を引いてしまったらしい。

「悪い、大丈夫じゃない。悪いけど、ゲホ、今日の聞き込み、姫子ちゃんだけで言ってきてくれないか、ゲホッ」

「え、ええ!? あたし、一人で?」

「大丈夫だって、ゲホ。メールで話、通しといたからさ。ゲホ、頼む、ダル過ぎて動けないんだよ……」

 

 とにかく藤森さんについては、後で様子を見に行くことにして、あたしは今日話を聞きに行く大学に向かった。レンガ造りの校舎を進み、先生のいる研究室の前に立つ。

「失礼します。本日約束していた桃山です」

 トン、トンとノックすると、奥から「どうぞ」と声が返ってきた。恐る恐る中に入ると、先生の方からニッコリと微笑んで会釈してくれた。

「こんにちは、善広と申します。さ、こっちに座って」

 いかにも優しそうな名前で、性格もそれに違わずおおらかな人だった。先生は終始にこやかに応対してくれたので、最初はすごく緊張していたあたしも、和やかな気分で話を聞くことができた。

 

 

 

 私、あちこち行ってまして。ええ、京都だけやなく、あちこち。研究のため――だけやなくて、趣味も入ってますが、はは。まあ、でも。今日お話することが、旅行した中で、一番印象に残っとりますね。

 

 あれは、えーと、10年前になるんかな。今と同じくらいの時期で、紅葉が綺麗な年でした。折角なので清水寺の紅葉を見に行ってたんです。

 話は変わるんですが、私旅先で色々、集めてるんですよ。ほら、これもその時買ったものなんですけどね、可愛いでしょ、これ。あと、外国に行った時にも色々とね。その中にね、あのー、コインがあったんですが、これが、何と言うか――家に置いとくとなぜか消える。いつの間にか財布に入ってる。ひどい時にはスーツに食い込んでる。「逃げる」んですよ。

 

 清水寺の紅葉を堪能して、帰り道の――五条坂を降りてたんですが、バス代を用意しておこうかと思って財布を開いたら、そのコインが財布から落ちてしもて。

「あっ、おい! 止まれっ」

 急な坂道ですから、コインが転がる転がる。私、慌てて追いかけましてね。そしたら前の方に、女の方がいてはりまして。

「きゃあっ!」「お、おわ! す、すみません」

 坂道で、ブレーキが効かず――その方にぶつかってしまいました。

「なにしはるんですか、もうっ!」「す、すみません、失礼します!」

 頭をしきりに下げながら、コインを追いかけようとしたんですが、そうこうしてる間にコインはどこか行ってしもててね。

「あ、あー……」

 辺りを見回しても、全然見当たらない。ああ、これはもう見つからへんなと諦めかけた時に――。

「あの、もしかしてこれ、お探しですか?」「え? あっ! はい、それです!」

 先ほどぶつかった方が、そのコインを拾ってくれてました。ただ――。

「あ、左手、大丈夫ですか?」

右手でコインを差し出しながら、少し痛そうな顔で左手を隠されていたので、気になって尋ねてみたらやっぱり、ケガしてはりました。

「ちょっと、すりむいてしまいまして」

「ああ、すみません……。あ、私絆創膏持ってますよ」

「あ、いえ、大丈夫ですから」

「いやいや、私のせいでケガさせてしもたんで」

「いえ、ホンマに」

「いやいやいや」

 申し訳ないな思って、手当てしようと半分無理矢理に、左手をぐいっと引っ張ったら――。

「え?」

「あっ、困ります」

 左手が、その、フサフサとして、指が短くて、掌に肉球が――狐みたいな、手になってました。

「あ、あの」

「……そ、その。……ちょっと、うち近いんで」

 女の方はそそくさとコインを渡して、その方が経営してるって言うお店に私、引っ張っていかれました。

 

 お店の中に入るなり、その方両手を合わせて――片方人間、片方狐の手で――謝ってきはりました。

「すみません、うち気が動転してまして、その、驚かせましてすみません」

「いえ、あ、大丈夫ですか、手?」

「ああ、はい。こんなんは、こうして……」

 そう言ってその方、右手で狐の手をすっとなでると――人間の手になって、擦り傷も綺麗に治ってました。

「お……?」

「うち、神通力ありますのんや。っと、わざわざお連れしてしまいまして」

「ああ、いえ。急ぐ用事もありませんから」

 ようやく場の空気が和んできたので、店の中を見回してみたんです。ざっと見回したら、まあ、狐だらけでしたね。狐の人形やら、狐の絵が描かれた扇子やら、どこを見ても狐だらけ。「狐」がやってはるお店やから、ですかね。

「狐、ばっかりですね」

「ええ、うちは狐に重点を置いてやらさせていただいてますから」

 なんとも変わった経営方針でしたね。

 

 少しばかり、じっくり見させてもらうことにしたんです。そうしてるうちに、展示棚の中に、気になるものを見つけたんです。

「あ、これ!」

「ああ、前に外国の方、行ったことがありましてな。向こうの工芸品、勉強させてもらおう思いまして。その時に、向こうで買いましたんや。お客さん、知ってはるんですか?」

 そこにあったのは、ずっと昔外国に行った時、一度だけ見たコイン――あ、逃げるコインとはまた、違うやつです――で、狐が銃を持っている「狐狩り」の絵が圧されたものでした。

「ええ、私も以前、見たことがあります。残念ながら、その時は売り切れで、見本しかなかったんですが」

「そうでしたか……、それは、残念でしたなあ」

「うーん……」

 見ているうちに、どうしてもほしくなってきてしもて。

「あの、良かったらこれ、売っていただけませんか?」

「え……、うーん、売り物のつもりやないんですけどねぇ」

「そうですか……」

「まあ、でも――何かと、交換でしたら」

 私はコインと吊り合うものが無いかと思って、ポケットやらサイドポーチやら探ってみたら、さっき言うてた逃げるコインが出てきまして。

「あ、それじゃ、コインにはコイン、ということでこれはどうでしょうか? まあ、そのー、厄介なコインなんですけどね」

「厄介な、コイン?」

 逃げる、って言うことを説明してみると、その方面白そうにコロコロと笑わはりました。

「面白い子やねぇ、そのコイン。……ええでしょ、それと交換と言うことで」

 

 

 

「それで、いま私の手元にこれがあるんです」

「へぇ~」

 あたしはそのコインを手に取り、まじまじと見つめていた。と、そこで先生が尋ねてきた。

「ところで、メールには『狐のおばさん(深草さん)について知りたい』と書いてはりましたけど、狐調べるんでしたら、もうあそこには行かはりましたか?」

「あそこ?」

 先生はあれ? という顔をされ、話を続けた。

「ほら、あそこ。京都で狐言うたら、あそこが有名でしょ。ほら、この近所にある……」

 そこでようやく、あたしはその場所を思い出した。

 

 そう。京都で狐と言えば、あそこだ。京都の、伏見稲荷大社。

 

五条坂、コイン、コイン 終

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