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夜の学校
夜の学校、というのは基本的に怖い。
その怖さはきっと、普段見慣れているモノが別の一面を見せる事から来るのだろう。いつもはにぎやかな校舎も、夜になれば音も無く人もいない、まさに別世界だ。
普段とはまったく違う、別のモノを見る。きっと、それが怖さにつながるのだろう。
「…な?だから怖いんだよ。だからさー…一緒に来てくれよぅ」
電話の向こうで木下が頼み込んでいる。コイツ…こういう時に妙な説得力を発揮する。そんなもん、国語のテストで発揮すりゃいいのに。
「…分かったよ。行くよ、公園で待ってろ」
「ありがとう相川~!やっぱ親友だよ、お前は~!」
親友だって言うならこの前貸した千円返してくれよ、木下。
公園に行くと、木下が先に来ていた。
「…なんだそれ」
「何って、懐中電灯とバッグとバットと…」
「なんでそんなもん持って来るんだ?」
俺は木下の完全武装に呆れた。怖いって言ってたくせに、学校で夜練でもする気か、コイツ?
「いや、だからさ…懐中電灯は暗いからいるだろ?バッグはノートと教科書入れるし」
「バットは何に使う気だよ?」
「………お化けとか、出た時」「アホか!?いるわけねーだろ!しかもそれ、部の備品じゃん!この前も勝手に持ち出して、連帯責任で怒られたばっかりじゃねーか!」
コイツ、中2にもなってオバケだの幽霊だの信じてんのかよ…。
実際俺も、その時はそんなの信じていなかった。でもその日から、俺はそういうのを信じる気になった。
学校に入ってからずっと、木下は俺の腕をつかんで…いや、体全体をくっつけて怖がっていた。
「こ、ここ怖いだろ?怖いよな?」
「ニワトリか、お前?コッココッコ鳴くなよ。あと俺から離れろ。お前の体温が伝わって気持ち悪いし、動きづらい」
「あ、ああ…ゴメン」
ようやく木下は俺の腕から体を離した。…腕がベトベトして気持ち悪い。
そうこうしているうちに、俺たちは教室にたどり着いた。
「あ、もう着いた。…は、はは、意外となんてこと無かったな」
そう言いながらも木下はプルプル足を震わせている。ここで俺はちょっとしたイタズラを仕掛けたくなった。
「これが無いと明日怒られちゃうからなー…」
「そうだな。…ん、何だあれ?」
俺は床に落ちていたプリントに切れ目を入れ、懐中電灯でそれを透かした。懐中電灯を動かすと、窓にはまるで人魂のようにユラユラ動き、チカチカ瞬く光が映りこむ。
「はっ…ひ、ひゃああっ!」
光を見た木下は変な声を出してバッグをつかみ、俺を置いて逃げていった。
「は…ハハハハ!なんだ、アイツ…こんなもんにだまされてるよ、バカじゃん!」
俺は木下の様子を見て、机をバンバン叩きながら爆笑していた。
数分経っても木下は戻らない。どうやら帰ってしまったらしい。アイツ、本当に俺の事親友って思ってんのか?…調子良すぎるよ、木下。
「…帰ろ」
俺はプリントを丸め、そのままポケットに入れて帰った。…今思えば、何で捨てなかったんだろ?
2人で騒いでいた時はそんなに怖く無かったのだが、一人で廊下を歩いていると確かに少し、怖い。今にも教室や、曲がり角から何か出てきそうな気がして、俺は木下が忘れていったバットを握りしめて歩いていた。…今のうちに、部室に返しとこうかな。
「…ん?」
何か音がした。俺はゴクリと生唾を飲む。
「誰か、いるのか?」
後ろに振り向き声をかけるが…反応が返ってこない。どうやら、気のせいだったようだ。俺は前を向きなおした。
「なあに?」
「…わあっ!?」
振り向いた先に、同級生くらいの女の子がいた。目の前に立たれたので、俺は驚いて突き飛ばしてしまった。
「痛っ」
「あ、ゴメン。…大丈夫?」
「…何すんのよ」
女の子はすぐに立ち上がり、俺をにらみつける。
「目の前だったから…悪かった」
「…いいけどね…一人じゃ怖かったし」
「…君も何か忘れ物?」
「うん。ちょっと、ね。…あの、その…」
女の子は俺を見つめ、もじもじしている。
「…ついて行こうか?」
「あ、ありがと…う」
女の子はほっとした様子で、俺の手を握る。木下に握られた時と違い、なんだかフワフワして心地いい。
「あたし、2年A組の真山香奈。よろしくねっ」
「お、おう。…俺はC組の相川正樹。よ、よろしく」
もう一度2年の教室に戻り、真山が机を調べた。
「あ、あった~!」
真山は机の奥から、赤い表紙のノートを取り出した。ノートには真山じゃない、別の名前――暗くてよく見えないが、「沢…」と書かれている。
「それ…友達の?」
「そうそう!これだけは取ってきて!って、強く頼まれちゃったから」
「そっか。…じゃ、もう帰ろっか」
「…ねえ、ちょっとだけ、ここでお話し、しよ?」
真山はなぜか、俺を教室に引き止めた。…なんだよ?
2人で椅子に座って向かい合う。結構、可愛いかも。真山が口を開く。
「…あのさ、あたし…ちょっと色々あってさ、明日には、ここを離れないとダメなの」
「引越し…とか?」
「うん、そんな感じ…。だからさ、どうしても今日、コレ取りに来なきゃいけなかったの」
「…?友達のだろ?なんで君が?」
「友達も…一緒に行くから。その子は…いま、準備してて」
「そっか…。大変だな」
なんだかしんみりしてきた。間が持たないので、俺はなんとなく、ポケットに手を入れた。指先にガサッとした感触がある。…さっきのプリントだ。
「どしたの?」
「あ…さっき拾ったんだ」
広げてみると、さっき切り込みを入れたせいで少し破れていたが、何とか内容を読む事ができた。
「何だこれ…保健のプリントだ。『異性を意識した事はありますか?』…『異性とキスし…』わ、わあっ」
俺はプリントを放り投げた。真山は俺を見て笑い出す。
「プ、クク…赤くなってるぅ」
「が、学校のプリントにこんなの書くなよっ…!絶対川畑が書いたやつだな」
「川畑…ああ、川畑先生?結構カゲキらしいよね」
「こんなの書く奴、川畑しかいねーよっ!…ったく、何読ませてんだよぉ」
自分でも分かるくらい、顔が熱い。女の子の前で変な文章を読んだせいで、俺は恥ずかしくなりそっぽを向く。
不意に、真山がそっぽを向いた方に回りこみ、顔を近づける。そしてそのまま、俺にキスをした。唇にフワッとした、だけど少し、涼しい感触が伝わる。
「…んっ…むぐ!?」
「…えへへ、そのプリントにマル付けといてね」
「なっ…あっ…ちょ…」
俺は全身の力が抜け、椅子にへたり込む。真山はそのまま後ろを向き、ポツポツと話し始める。
「…ここ離れる前に、思い出作りたかったの。相川君だったら、いいかなって…。
あたし、普段はおとなしめで、とてもじゃないけどこんな事できない子なの。ホントよ?周りの…雰囲気が違うからかな?なんだか…してみたくなっちゃった。
相川君、覚えててね。あたしと…キス、した事」
そう言って、真山は教室から出て行った。俺は呆然としていて、追う事なんかできなかった。
翌日の朝、木下が慌てて俺のところに駆け込んできた。
「相川、相川~!ニュース、ニュース!」
「あ、…お前、昨日一人で」「大変だよ、A組の子が死んだって!」
A組、と聞いて俺は怒るのも忘れ聞きなおした。
「死んだ…誰が!?」
「えーっと、確か…沢村って女子と、真山っていう…こっちも女子」
後で詳しく聞くと、2人は昨晩バスの事故に遭い、真山は即死。沢村も4時間後――真山が教室を出たくらいの時刻に――亡くなったそうだ。
不思議な事に沢村が亡くなる前、ベッドで横たわる彼女の上に、赤いノートが置かれていたそうだ。
中には、友達と教室で野球部の練習を見てる様子や、その中で気になった男子の事が書かれていたそうだ。…もしかして俺も、練習してるとこ見られてたのかな。
それから俺は幽霊、信じるようになった。信じないわけには行かなくなった。もう一回、会いたいから。
あのプリントにも、しっかりマル付けてあるよ。
終
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