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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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祇園祭、細道、コイン

前回書いた「犬矢来、水撒き、人形(「水撒き」改題)」が自分でも気に入ったので、同じキャラを使ってもう一作。
ちなみにこの「狐」のおばさん、「深草さん」と名付けてます(作中に名前は出てきませんが)。
……何で深草さんかって?
こちらをご覧いただければ納得されるかも。
http://inari.jp

   祇園祭、細道、コイン

 

 祇園祭の最終夜、宵山。俺はその真っ只中で立ち往生していた。

「あっちー……」

 右を見ても、左を見ても人ばかり。名物の山鉾も、鈴の音がシャンシャン聞こえるばかりでその姿は見られない。周りの奴らも俺と同じ様子らしく、しきりに辺りをキョロキョロうかがっている。

 夏の暑さと人だかりで、京都の町にはムンムンとした熱気が漂っている。

「これじゃ、ラチがあかねー……」

 俺はそうつぶやき、建物の隙間にある細道を通る事にした。大学に入った頃からの友人に「京都に慣れないうちは通りからそれるなよ。河原町の細道は素人にとっちゃ迷路だ」と忠告されていたのだが、このままではただサウナに来たのと変わらない。思い切って細道に入り、先回りを試みる事にした。

 

 

 

「やべ……」

 数分後、その選択が失敗である事を悟った。ぐねぐねと曲がりくねった細道は、あっという間に俺の方向感覚を失わせた。もはや鈴の音すら聞こえないほど、奥に入り込んでしまったようだ。来た道も分からなくなるし、辺りは得体の知れない店ばかり……俺は強烈に心細くなった。

「どう……しよう」

 このままじっとしていても状況は変わらない。俺は意を決して、近くの店に入って横道の出方を聞く事にした。

「す、すいません……」

「はい、いらっしゃい」

 出迎えたのは、紫色の着物の上に割烹着を着たおばさんだった。見た目はかなり若いが、声の感じは40代くらいだろうか。

「あ、あの……」

 道を聞こうとしたのだが、おばさんが結構美人だったので思わず気後れしてしまう。

「どうしはったん、お兄さん?」

「あ、その……ここ、何のお店ですか?」

 俺はしどろもどろになり、口から思ってもいない言葉が飛び出す。

「あ、はい……うーん、どう言うたらええかなぁ……とりあえず、雑貨屋、で」

 おばさんは手で口元を隠し、コロコロと笑う。口元を隠した手には腕時計がはまっている。

「あれ……?」

「ん?」

「あ、いえ……」

 それは何年か前、若い女の子を中心に人気のあった、ピンク色の時計だった。落ち着いたおばさんが付けるようなモデルではないので一瞬違和感を覚えたが、意外に……。

「……似合ってると思って、その……時計」

「ああ、ありがとさん。

 ……前にね、あるお客さんがうちの商品欲しい言いましてな、お代としてこの時計、もらいましたんや」

 そう言っておばさんは時計をさする。とても気に入っているらしく、ニコニコと微笑んでいる。

「ま、道楽で開いてる店やさかい、お代とかも適当にもろてますのんや。……例えば、このコインとか」

 おばさんはそう言って棚に置いてあった、外国の通貨らしい、銀製のコインを手に取る。

 

「これな……もろたお客さんが言わはるには『お金としては使いようがあらへん』らしいのんや。なんでも……このコイン、『逃げる』そうなんですわ」

「逃げる……?」

 意味が分からず、俺はそのまま聞き返す。

「そう、逃げるそうなんです。……まあ、うちももろてから2回ほど、無くしかけた事あるんですわ。1回目は棚から落ちて、そこの下に挟まってました。で、2回目は玄関すぐ近くに転がってまして。どうもこの子、じっとしとられへん性分みたいですわ」

「は、あ……この、子……ですか」

 どうも女というのは、モノを小動物のように見立てる癖があるようだ。知り合いも自分が持っているパソコンを「この子」と呼んでいたが……。

「どこで使おうとしても財布から逃げて、ポケットとかカバンとか……ひどい時にはスーツの縫い目にはまってた事もあるとか」

「はは……確かにそれじゃ、お金としては使えそうもないですね」

 おばさんは手のひらでコロコロと、コインを転がしながら話している。

「そのお客さん、まあ……堂々と話せることやあらへんけど、そのコイン拾うた言うてました。拾うてから5年くらい持ってはったそうなんやけど……この店で品物と引き換え、ということで置いていかはったんですわ」

「じゃあ……お金として使えたのは、その時だけなんですね」

「まあ、外国のお金やさかい、おつりとして出せませんのんや。

 せやから……こうして展示してる、というわけですねん」

 おばさんはコインを棚に戻そうと、手を伸ばした。

 

 ところがコインはおばさんの手からするっと落ちて、床にチン、と音を立てて落ちる。

「あら、また逃げ出そうとしてはるわ……もうっ」

 おばさんはコロコロと転がるコインを追いかける。コインはどこまでも転がっていき、棚の下に入り込んでしまった。おばさんは膝を付き、手を伸ばしてコインを取ろうとするが見つけられないらしく、苦戦しているようだ。

「むー……うー……取れへんなー……」

 おばさんは小さくうなり、懸命に棚の下を探っている。

「……あれ?」

 俺はその時、信じられないものを見た。

 

 おばさんがうなればうなるほど、彼女の耳にふさふさとした毛が生え、伸びていく。お尻の辺りからも尻尾がふさっと生え、まるで……狐が人間に化け損ねたみたいな感じになってしまった。

「え、あ、あの……し、しっ……」

「ん? どうしはりました?」

 おばさんが振り返る。ふさふさした耳と尻尾はそのままだが、おばさんは気がついていないようだ。指摘する勇気がわかず、俺は何とかごまかそうとした。

「あ、あの……あ! コイン、コイン!」

 俺はおばさんが探っていた棚の横にさっきのコインが落ちているのに気付き、それを指差す。

「あ、ホンマや……」

 おばさんはコインをぎゅっとつかみ、両手で元あった棚に戻した。

「いややねぇ、もう……えらい恥ずかしいとこ見せてしまいまして」

 おばさんはパタパタと着物の膝を払う。まだ耳と尻尾に気付いた様子はなく、俺は言い出すタイミングを完璧に失った。

 

 

 

 おばさんは狐耳と尻尾を出したまま、色々と棚に置いてある品物の説明をしてくれた。だが狐耳と尻尾、その2つが気になってしまい、俺の耳にはおばさんの話が入ってこない。俺はいづらくなり、何か適当に商品を買って店を出ることにした。

「あ、あの……」

「はい?」

「えーと、その……あのコイン、売ってもらえませんか?」

「へ? あの子? ……うーん、売り物のつもりやあらへんのやけど……」

 おばさんはちょっと悩んだが、やがてコクリとうなずいた。

「……まあ、その……うちも持て余してたさかい、何かと交換やったらええけど……」

「あ、じゃあ……このカラビナ……じゃダメですか?」

 俺は昼、四条河原町のデパートで買ったカラビナ――結構高かったのだが、リングでつながれた兎のアクセサリが、買った後になって気に入らなくなってしまったので、これならあげちゃってもいいやと思って――を腰のベルトから外し、おばさんに差し出す。

「ええよ。それじゃ……はい」

 おばさんはカラビナを受け取り、棚からもう一度コインを取って俺に渡してくれた。

「ありがとうございますっ! そ、それじゃ……」

 俺は短くお礼を言い、すぐに店を飛び出した。後ろの方でおばさんが「あらぁ……しもたわ」と言っている。一瞬だけチラッと目をやると、自分の尻尾をつかんで目を丸くしていた。

 ようやく気付いたのか、おばさん……。

 

 

 

 その後は無我夢中で細道を走り回り、何とか脱出できた。運よく山鉾に出くわし、とりあえず所期の目的は達成できた。

 それから3年……京都にも慣れ、またあの美人なおばさんに会ってみようと思い細道を歩き回ってみたが、どうしてもあの店を見つける事ができない。あの時買ったコインも、山鉾を見終わった後、もう一度確認しようとポケットを探っていたが、その時にはすでに無くなってしまっていた。本当にコインは、俺から逃げてしまったようだ。

 今では、友人たちと飲みに行き、酔った勢いでしか、俺がこの話をすることは無い。自分でもこの話は現実と思えないし、すれば必ず、友人はこう言ってバカにするからだ。

「そりゃお前、『狐』に化かされたんだよ」

祇園祭、細道、コイン 終

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