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1.
エルス・グラッドと言う人物は、色々な意味で晴奈にとって不可解、不思議であり、初めて見る類の人間だった。
考え方も、性格も、それまで出会ってきた者たちの中でも異質と言っていいほど、他人との隔たり、差異がある。無論、晴奈も「独特の性質を持つ者」なら数名ほど見たことはある。大抵そんな者たちは偏狭、偏執な性分で、人との交わりを極力避けていることが多い。
ところがエルスはその点においてもまた、違う面を持っていた。
「ねえねえお姉さん、ちょっと道、聞いてもいいかナ?」
「あ、はい。何でしょうか?」
故郷、黄海を散歩していた晴奈が、道端を歩いていた人間の女性に声をかけ、道を尋ねているエルスを見かけた。
「えーと、港はどっちかナ? 僕、この街に着たばかりだかラ、良く分からなくテ」
エルスのしゃべり方と話の内容に、晴奈は首をかしげた。
(何だ、その片言は……? しゃべれるだろう、普通に。いや、普通どころか央南人と見紛うほど流暢に。
それにお主、海路でこの街を訪れたと言っていたではないか。お主ほどの頭があれば道くらい、一度通れば簡単に覚えられるだろう?
そもそも聞くなら私や明奈に聞けばいいものを、何故見ず知らずの者に尋ねる?)
「あ、外国の方なんですね。えっと、そうですね……、あの大通りを右に進んで、3つ目の筋を左に入って……」「あ、あ、ちょっと待ってくださイ」
エルスは慌てた素振りを見せ、女性の説明をさえぎった。
「口だけじゃ、ちょっと分からないデス。良ければ、案内してほしいナー」
「え、……うーん。それじゃ、付いてきてください」
女性は少し困った顔を見せたが、エルスの頼みを了承した。エルスはニコニコ笑い、お礼を言う。
「あー、ドモドモ。ありがとうございまス」
そう言うなり、エルスは女性の手を握って引っ張っていった。
「えっと、こっちの方でしたネ。それじゃ、行きましょウ」
「え、あ、あの? あ、そっちなんですけど、手、あの、何故握られて……」
「だって、もしはぐれたラ僕、迷子になっちゃいますかラ」
「は、はあ……」
そのままエルスは女性とともに、雑踏の中に消えた。
「ただいまー」
それから3時間後、エルスは仮住まいの黄家屋敷に戻ってきた。
「おかえり、エルス」
晴奈とともに大広間にいたリストが声をかけ、エルスはにこやかに返す。
「いやー、央南っていいね。エキゾチックだ」
「……?」
唐突な感想に、晴奈はまた首をかしげる。と、エルスの襟元に何か、赤いものが付いている。
「エルス、襟に……」
「うん? ……っと」
エルスは襟に手を当て、すぐに引っ込めた。
その仕草を見て、リストが尋ねる。
「どしたの、エルス?」
「ああ、ゴミが付いてたみたいだ」
「ふーん」
リストはそれだけ返して、広間から離れた。それと同時にエルスが晴奈に近づき、耳打ちする。
「セイナ、困るよ~」
「は?」
エルスは少し恥ずかしそうにささやく。
「口紅なんか見つかったら、またリストに殴られちゃう」
「……ようやくピンと来た。お主、昼間に出会った女を誘ったな?」
晴奈のやや侮蔑が混じった問いに、エルスはにべもなく答える。
「あれ、見てたんだ。……はは、大正解」
「妙な片言まで使ってたぶらかすとは、本当に軟派な奴だな」
「いいじゃないか。向こうだって喜んでたし」
あっけらかんと返され、流石に晴奈も気分が悪くなる。
「……」
晴奈は憮然とした顔で、リストの去った方向を向く。
「どしたの、セイナ?」
晴奈はすーっと息を吸い、大声でリストに伝えた。
「リスト! またエルスの悪い虫が出たぞ!」
「ちょ」
エルスの笑顔が青ざめると同時に、なぜか1階にいたはずのリストが2階、大広間吹き抜けの廊下から襲い掛かってきた。
「エルスーッ! また、アンタはーッ!」
「ぎゃーッ!?」
エルスはリストに頭を踏みつけられ、床に顔をめり込ませた。
独特の感性、思想を持つ変人でありながら、他人と深く接する「変わり者の中の変わり者」。
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