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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・邂逅録 3

晴奈の話、73話目。
スパイを尾行するスパイとサムライ。
 
 
 

3.
折角の再会であるし、晴奈は最初、何日か黄海に滞在することにしようと考えていた。だがエルスのせいで、晴奈はずっと不愉快な気分を抱えていた。

「まったく、ろくでもない」

 黄海を散策しつつ、晴奈は「あのバカ」のことを考えていた。

「忌々しい……。私が、明奈を助けたかったのに。何であんな軟派な奴が助けるんだか」

 普段の晴奈らしくない文句をブツブツと唱えながら、ある通りに差し掛かったところで――。

「ん? あの青い髪は」

 少し前を、青い髪のエルフが歩いているのが見えた。そっと、声をかけてみる。

「もし、リスト殿?」

「……! あ、セイナさん、でしたっけ」

 振り返ったリストは、晴奈の顔をじっと見ている。

「あの、何か?」

「……いや、ただ声をかけただけ、ですが」

「そう。悪いわね、忙しいから、また後でっ」

 そう言ってリストは、また前に向き直って歩き出す。良く見ると、その少し先に――「あのバカ」が、妹、明奈を伴って歩いているのが見えた。

「もしや、エルス殿と明奈を尾行されているのですか?」

「な、何で分かったの!?」

 また、リストがこちらを向く。

「いや、何故と問われても。一目瞭然では……」「と、とにかく! 邪魔しないで!」

 リストは早歩きで、エルスたちを追いかける。

「あ、私も同行します、気になるので」

 晴奈もリストに並んで尾行を始めた。

 

「しかし、一体何故、リスト殿はこのようなことを?」

 尾行を続けて10分ほど経ち、そこで初めて晴奈はリストに尋ねてみた。

「あのスケベ、メイナを連れてあちこち回ってるのよ! きっとメイナを落そうと狙ってるんだわ!」

「何と……!?」

 晴奈はその言葉に、また不機嫌になる。

「おのれ、渡してなるものか……!」

「でしょ!? だから、こうやって後を尾けてるのよ。もし手を出そうとしたら、コイツで無理矢理にでも止めるわ」

 そう言って、リストは腰に提げていた銃――近年開発された、新種の武器だそうだ。どのようにして使うのか、晴奈にはまったく見当が付かない――に手を添える。

「ぜひとも、助太刀させていただきたい!」

「ええ、その時はお願いね、セイナさん!」

 妙な連帯感が、二人を包んだ。

 

 その後も2時間ほど、エルスたちはあちこちを回っていた。そのほとんどが商店や露店めぐりで、どうやら女物の小物を買い集めているらしかった。

「何よあれ、完璧にデートじゃないの!」

「でえ、と?」

「えっと、その、何て言ったらいいかな。……イチャイチャしてる、ってコトよ」

「む、確かに……!」

 言われてみれば、確かに二人の雰囲気は、知らない者が見れば、恋人のようにも見える。晴奈たちにもそう見えており、二人の怒りはますます燃え上がっていた。

 やがて日も傾き、エルスたちはもと来た道を引き返していく。どうやら、黄家の屋敷へ戻るつもりらしい。

「っと、隠れて隠れて」

 リストが物陰に晴奈を引っ張り込む。そのまま隠れてエルスたちが通り過ぎるのを待ち、また後をつける。と、エルスが急に立ち止まり、明奈に何かを話しかける。

「……メイナ、これ……」

 二人の話し声は完全には聞き取れないが、どこか楽しそうにしている。

「ほら、……見せたら、……きっと……」

「そうかしら? ……それじゃ……」

 エルスが抱えていた袋から何かを取り出し、明奈に手渡す。遠目には良く分からないが、どうやら髪飾りのようだ。

「おー、可愛い。これは……、似合う……」

「まあ、エルスさんったら」

 エルスの言葉に嬉しそうに笑う明奈を見て、晴奈はいよいよ爆発した。

「も、もう……、我慢ならん!」

「えっ、セイナ?」

 リストがその声に反応した時にはすでに、晴奈はエルスたちの、すぐ後ろに迫っていた。

 

「あ、そうだ。メイナ、これ今付けてみない?」

 帰り道に差し掛かったところで、エルスが袋を足元に下ろし、中を探る。

「え?」

 エルスは袋の中から髪飾りを取り出し、明奈に差し出す。

「ほら、お揃いって言うのを見せたら、お姉さんきっと喜ぶよ」

「そうかしら? ……そうですね。それじゃ、付けてみますね」

 明奈は丸まった白い狐があしらわれた髪飾りを前髪に留めてみる。それを見たエルスが口笛を吹いてほめちぎった。

「おー、可愛い。これは買って大正解だったね。きっとお姉さんにも、良く似合うだろうなぁ」

「まあ、エルスさんったら」

 髪留めを付けた姉を想像し、明奈はクスクス笑っていた。

 そこに、怒り狂った晴奈が割り込んできた。

「エルス・グラッド! 今すぐ、明奈から離れろッ!」

 いきりたつ晴奈とは正反対に、エルスはのほほんと笑っている。

「うん? ああ、セイナさん」

「ああ、では無いッ! 成敗してくれるッ!」

 ヘラヘラと笑うその顔が癪に障り、晴奈の怒りはさらに膨れ上がった。

 その怒気を察したのか、エルスはヘラヘラ笑いながらも――後に聞いたところによると、どんな時でも笑ってしまうのは彼の「病気」であるらしい。どうやっても、笑い顔を直せないのだそうだ――すっと、拳法の構えを取る。外国の人間とは思えない、見事に隙の無い、完璧な構え方だった。

「えっと、どうして怒ってるのか、良く分からないけれど……。何にもせずに、やられるわけには行かないよねぇ、あはは」

「どうして、だと!? 本気で言っているのか、貴様ッ!」

 晴奈が先に刀を抜き、仕掛ける。ところが――。

「えいっ」

 パンと、手を打つ音が響く。あろうことか、白刃取りである。

「そん、な、……馬鹿な!?」

 焔流免許皆伝の、晴奈の刀が――「燃える刀」ではないし、本気を出してはいなかったのだが――あっさりと防がれてしまった。

「ねえ、落ち着いて話し合おうよ」

「だ、黙れッ!」

 晴奈はエルスの腹に蹴りを入れて、弾き飛ばそうとした。だが、その行動も読んだらしく、エルスはぱっと、刀から手を離して飛びのく。

「やめて、お姉さま!」

 明奈が悲鳴じみた声を上げるが、晴奈の耳には入らない。二太刀、三太刀と繰り出すが、すべてひらりひらりとかわされる。

(この男……、思っていたよりも、ずっと手強い! 『猫』の私と、遜色ない身のこなしだ)

 四太刀目を放とうとして、一瞬踏みとどまる。

(どうする……? 焔を、使うべきか?

 格下相手に使うのは、恥ではある。だが、彼奴はどうやら、私に並ぶ強さだろう。使っても、恥にはなるまい)

 心の中を整理し、精神を集中させる。自分の両手に、熱いものが溜まっていくのを感じる。程なくして、晴奈の刀に炎が灯った。

「火、か。それが焔流の真髄、ってやつかな。

 ねえ、セイナさん。本当にもう、やめにしない? 不毛だと、思うんだけど」

 エルスは笑い顔を曇らせて――それでも、「苦笑」と言った感じだが――和解を提案する。だが怒り狂った晴奈は、それを却下した。

「断るッ! 勝負が付くまでだッ!」

「そっか。じゃあ、うん。やるよ」

 エルスはふたたび構え直し、晴奈の攻撃に備えた。そのままにらみ合ったところで――。

「お姉さまッ!」

 明奈が二人の間に入り、晴奈の頬をはたいた。
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