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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・大徳録 6

晴奈の話、80話目。
大徳=超、いい人。



業務連絡。
小説のストックが非常にたまっております。
現在のペースで投稿を続けると、
恐らく完結するのが来年の中頃になってしまいます。
もうちょいサクサクっと進めたいので、
しばらく毎日投稿しようかと思います。

なお、たまーに更新が止まるのは以下のような原因があります。
1.話が一段落する。
2.更新忘れてた。

…今日の更新が26時前になったのも、2が原因だったりします。
たまーにやっちゃいますが、大目に見てください(´・ω・)



6.
エルスは茶をすすりながら、ゆっくりとした口調で語り始めた。

「お父さんは家族に不自由させたくないと思って、床の中でも仕事のことを考えていたんじゃないかな」

「そうかしら……? あたし、小さい頃からずっと、お父さんに構ってもらった覚えがあんまり無い。たまに遊んでくれたけど、帰ると大抵すぐ寝ちゃうし、いつも『少しは休ませてくれ』って怒られたし……」

 エルスは茶を飲み干し、人差し指をピンと立てた。

「あの家を買って、あれっと思ったことがあるんだ。最初君の家、小さめで2階は無かったんじゃない? で、改築したのは多分10年くらい前で、君がまだ小さい時かな。それに弟さんか妹さんもこの頃、生まれてるんじゃないかな」

「え? ええ、そうだけど。確かに妹もいるけど、何で分かったの?」

「まず、階段に手すりが大人用と子供用、2つあった。君が子供の時に改築してなきゃ、子供用の手すりなんか付けたりしない。しかも階段自体、かなり緩やかに造ってある。安全に気を遣った構造だよ。しかも緩やかにしようとすればするほど階段は長くなるし、最初にあった家では到底造れない大きさだった。だから、お金が入った後で敷地をかなり多めに増やしたんだろうと推察できる。

 それからお風呂。最初のサイズより、随分大きくなってたみたいだね。しかも、家の壁を一度壊してまで拡張した跡が見られた。きっと家族が増えて、みんなで入れるようにと思って造ったんだろうね。他にもかなり大幅に改築した跡が――それこそ、新しく造ったんじゃないかと思うくらいに――見られたし、相当手を加えてたと思うよ」

「うそ……、そんなことまで分かるの、エルスさん」

「さらに推理すると、君のお父さんは多分、10年くらい前にかなりの大成功を収めたんじゃないかな。最初は小さく、狭い家が、十数年で2倍、3倍もの大きさになってる。そして成功してからは、できるだけ広くて住みやすい家にしようと頑張った跡が、あちこちにあった。

 家族のことを考えた、いい家だよ。多分、最期まで商売のことを考えていたのも、自分が放っている間に失敗して、また貧乏になりはしないかって、不安だったんだと思うよ」

「……そっか。そうかも知れない。全然、気にとめてなかったけど」

 柳花は茶の入った湯のみを両手で抱えたまま、目をつぶった。

「……最後にもう一回だけ、家を見ていい?」

「いいよ。……エドさん、いなきゃいいんだけど」

「え?」

「ああ、何でもない。こっちの話」

 と、奥から老夫婦が並んで戻ってきた。

「できたぞ」

「はい、どうぞ」

 老婆は老人から銀と金の輪が絡み合った腕輪を受け取り、柳花の左腕にはめた。

「まあ、ぴったりね。すごく似合うわ」

「そ、そうですか? ありがとうございます」

 柳花は顔を赤くして、ぺこりと頭を下げた。

 

 

 

 数日後、柳花が黄海を離れてしばらく経った頃。

「はーぁ」

 黄海の道端で、珍しくため息をつきながら歩いているエルスを見て、晴奈が声をかけた。

「どうした、らしくない」

「ああ、セイナ。いやね、ちょっと寂しいなーって」

「うん? ……ああ、柳花のことか」

 エルスは空を見上げ、またため息をつく。

「折角できた友達が遠くに行っちゃうって言うのは、いつでも切ないね」

「ああ、確かにな。分からなくは無い」

 晴奈もエルスの横に立ち、空に浮かぶ雲を眺める。

「元気にしてるかなぁ」

「しているといいな」

「うん……」

 晴奈は寂しそうにするエルスの横顔を見て、思わず尋ねてみた。

「なあ、エルス」

「んー?」

「何故、お主はそれほど人懐っこいのだ?」

「え?」

 エルスが晴奈に顔を向け、首をかしげる。

「どう言う意味?」

「初めて出会う人間にほいほいと声をかけ、すぐに慣れ親しみ、数日過ごしただけでそれほど気にかける。大したお人好しだよ、お主は」

「そっかなぁ」

 エルスは頭をポリポリとかきながら、腕を組んで考えこむ。

「まあ、僕は人が好きだから」

「それも、不可思議ではあるな」

「何で?」

「頭がいいから」

 エルスは晴奈の返答を聞いて、また首をかしげる。

「ゴメン、頭いいって言ってもらったけど、ちょっと意味が分からないなぁ」

「私の中では、策を弄する者は人を陥れるのが楽しみ、と言う印象がある。お主が柳花と最初に会った時も、不慣れな者の振りをして近付いていたし、あれは策を弄していると言えないだろうか」

「はは……、確かにあれは策略と言えば策略かなぁ。でも、人をいじめるのが快感だなんて、そんなのエドさんみたいに因業な人だけだよ。

 そう言う人は人の痛みを知ったらそれにつけ込むけど、僕は人の痛みを知ったら、その痛みを和らげてあげようと思っちゃうから。それに、分からない振りをしたのは何も、彼女を苦しめるためにやったことじゃないしね。あくまで友達になろうと思ってやったことだよ」

「……まったく、おかしな奴だ」

 晴奈はクス、と笑って、エルスの肩をポンポンと叩く。

「何だか気に入った、お主のことが」

「はは、それはどうも」

 エルスもクスクスと笑いながら、晴奈に背を向けて歩き去った。



 

 独特の感性、思想を持つ変人でありながら、他人と深く接する「変わり者の中の変わり者」。

 それが「大徳」エルス・グラッドと言う人物である。

 

蒼天剣・大徳録 終

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