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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・大徳録 5

晴奈の話、79話目。
もう一度デート。
 
 
 

5.
「仲が悪いのか、エルスと博士は?」

 リストから「碁を打つ音がうるさくて眠れなかった」と言う愚痴を聞いた晴奈は、そう尋ねてみた。

「ん、いや、悪いってワケじゃないんだけどね」

 リストは明奈が淹れてくれたお茶をすすりつつ、話を続ける。

「じーちゃん、ああ見えて口悪いし、結構無神経なトコあるし。で、エルスもいっつもヘラヘラ笑ってるけど、割と頑固で強情なところあるもん。

 だから時々、ケンカするのよ。まあ、普段は仲いいんだけどね」

「ケンカするほど仲がいい……、と言うことですね」

 晴奈にお茶を出しつつ、明奈が相槌を打つ。

「ま、そんなもんね」

 

 

 

「ふあ、あ……」

 深夜遅くまで博士と碁を打ち続けたエルスは、しきりに生欠伸をしながら、郊外の丘に寝転んでいた。

「エドさん、しつこいんだよなぁ……」

 目をつぶると、夕べの棋譜が浮かんでくる。

「あー……、あそこはもうちょっと、抑えて打つべきだったなぁ」

 目を開け、棋譜を思い出しながら、空を指差して検討する。

「あと、ここももうちょい、早めに打っていれば……、ふあぁ」

 夕べ満足に眠れなかったため、次第に眠気がやってきた。

「……ちょっと、寝ようかな」

 もう一度目をつぶり、エルスは昼寝し始めた。

 

「エルスさん、エルスさん……」

 誰かがエルスを呼んでいる。エルスはすっと目を開け、上半身を起こした。

「誰かな?」

「こっち、こっち」

 後ろを振り向くと、あの少女――柳花が座っていた。

「ああ、こんにちは」

「こんにちは、エルスさん。お昼寝?」

「ああ、うん」

「ごめんね、起こしちゃって」

 謝る柳花に、エルスはパタパタと手を振る。

「いや、いいよ。どしたの、何か用かな?」

「うん、あのね……」

 柳花の顔が曇る。

「明日、黄海を出るの」

「……そっか。それで、僕にお別れの挨拶を?」

「うん。エルスさんや博士さんには、色々お世話になったし。出る前にもう一度、挨拶しておこうと思って」

「ふむふむ。……でも、博士は今、寝てると思うな。夕べからちょっと、具合が悪かったし」

「あら……」

 エルスは博士に会わせたくない――むしろ、自分が会いたくないので軽い嘘をついた。

「それよりも、もう一度買い物に行かない?」

「買い物に?」

「そう。最後の記念にね」

 

 エルスは柳花を連れ、繁華街へと入る。

「今日はどこに行くの?」

「ちょっと裏に入ったところに、いい店があるんだ」

 そう言うとエルスは柳花の手を引き、細道へと入る。

「ちょ、ちょっと。危なくない?」

「大丈夫、大丈夫。僕がいるんだし」

 細い路地をすり抜け、エルスはある店の前で立ち止まった。

「ここだ。良かった、開いてるみたいだ」

 トントンと戸を叩き、先にエルスが店の中に入る。

「いらっしゃい」

 奥で新聞を読んでいた初老の猫獣人が、顔を上げて挨拶する。

「こんにちは。あのー、作ってもらいたいモノがあるんですが」

「んー?」

 老人は新聞をたたみ、のそのそとエルスのところまで歩いてきた。

「何を作ってほしい?」

「この子に似合う、うーん……、腕輪かな」

「あいよ」

 老人はそう言うと、柳花の腕を取って手首を握った。

「きゃ……」

「ああ、すまん。見ないと作れんから」

「は、はあ」

 老人は柳花から手を離し、またのそのそと奥へ消える。程なくして、カンカンと言う短く、高い音が聞こえてきた。柳花は握られた手首をさすりながら、エルスに向き直る。

「ああ、ビックリした。いきなりつかんでくるんだもん」

「ゴメンね、あのおじいさん、ぶっきらぼうな人だから。でも腕は確かだから。金属細工の職人なんだ」

「ふうん。あ、でも腕輪って、作るのに時間がかかるんじゃない?」

「ああ、それは大丈夫。この前、……っと」

 エルスは胸元から鎖でつないだ、2つの銀輪と1つの金輪が絡んだ首飾りを取り出す。

「これ、作ってもらったんだけどね。すごく早かったんだ。確か、2時間くらい」

「へえ……」

 柳花は奥の工房に目をやり、すぐにエルスへと視線を戻す。

「ずっとこの街に住んでたけど、こんなお店があるなんて全然知らなかった。エルスさんって、すごいね」

「はは、僕は昔から、物を探すのが得意だから。それでご飯食べてたしね」

 エルスと柳花が談笑していると、老人の奥さんらしき人間が茶の乗った盆を持って、奥からひょこひょこと歩いてきた。

「グラッドさん、でしたっけ。良かったらできるまで、ゆっくりしていってくださいな」

「あ、すみません。それじゃ遠慮なく、いただきます」

 エルスは茶を手に取り、傍らに置いてある長椅子に腰かけた。

「さ、そちらのお嬢さんもどうぞ」

「あ、はい」

 柳花も茶を手に取り、エルスの横に座る。座ったところでエルスが、柳花の事情を伝える。

「この子、明日引っ越すんです。それで、思い出作りにと思って」

「まあ、そうなんですか。じゃあ、急がせないといけませんね」

 お盆を傍らに持ち、老婆はいそいそと奥へ戻っていった。すぐに奥から、ボソボソと話し声が聞こえてくる。

「あなた、聞きました?」

「ああ、1時間もあればできる」

「そう、それならゆっくりしてもらってもいいかしらね」

「俺にも茶をくれ」

「はい、すぐに持ってきますね」

 老夫婦の話を聞いていた柳花は、クスクスと笑う。

「なんか、いい雰囲気ね」

「そうだね。落ち着くんだ、ここ。大通りから離れてて静かだし、ちょっと暗めだけど綺麗な店だし」

「それもあるけど、あの二人がすごく仲良さそう」

 そう言って柳花はため息をつく。

「はあ……。もしお父さんが生きてたら、あんな風に老けていったのかしら」

「どうかな、商売人だったそうだし……」

「そうね。死んじゃう直前まで、ずっと布団の中で『店は順調か?』ってお母さんに尋ねてたもの。……だから、死んじゃったのかな」

 柳花の顔が曇り、今にも泣きそうな声になる。

「なんで落ち着いて休んでくれなかったんだろう。そしたら、病気も治ったかも知れないのに」

「……うーん」

 柳花の悲しそうな横顔を見て、エルスは買った家について発見したことを思い出していた。

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