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10分ほど後、晴奈たちはある修練場に集められた。
晴奈は真剣を持って、柊とは別の、エルフの女性と対峙している。エルフの名は橘。少し前の柊と同じく、諸国を渡り歩いて修行を積んだ女性である。
ただし、橘は焔流の者では無い。たまたま紅蓮塞へ修行に来ていたところを、重蔵が「ズルをしていると思われんように」として、連れて来たのだ。だから剣術よりも、むしろ魔術――中央大陸の北中部などを初めとして、世界中に広く伝わっている、欧風の趣がある術――を用いて戦うのを得意としている。
そのせいか、晴奈の剣道着姿とは違い、橘は巫女服姿で、鈴の付いた杖を武器として持っている。
「これから二人に、戦ってもらう。分かっていると思うが、二人とも、真剣に仕合うこと。負けたと思ったら、潔く降参すること。
それでは……、開始ッ!」
重蔵が手を打った瞬間、橘は杖を鳴らし、攻撃を仕掛けた。
「突き刺せッ!」
鈴の音と共に、地面から石の槍が伸びる。晴奈はばっと飛び上がり、槍から離れる。
「わ、わあっ、晴奈!?」
「まあ、じっと見ていなされ」
うろたえ、叫ぶ紫明を、重蔵がニコニコ笑いながらいさめる。その間に、晴奈は石の槍をかわし切り、橘に斬りかかる。
「やあッ!」
「『マジックシールド』!」
だが、晴奈の刀が入るよりも一瞬早く、橘が防御の術を唱える。橘の目の前に、薄い透明な壁が現れ、晴奈の刀を止めた。
「子供かと思っていたけど、なかなか気が抜けないわね」
「侮るなッ!」
晴奈はもう一度、壁に向かって刀を振り下ろす。と同時に、晴奈の刀に、ぱっと赤い光がきらめく――焔流の真髄、「燃える剣」である。魔術とは源を同じくする技のためか、橘の作った壁はあっさりと、切り裂かれた。
「う、そ……!?」
未熟な子供と思って、まだ油断のあった橘は、自分の術が破られたことに、驚きを隠せないでいた。だが、すぐに気を取り直して、晴奈と距離を取り、もう一度魔術を放つ。
「『ストーンボール』!」
(どうも魔術と言うものは、聞き慣れない言葉が多いな)
と、晴奈は心の中でつぶやいた。
(いつか私も、央中や央北へ行くことがあるのかな。そうなると、こんなけったいな名前の術を耳にすることも、多くなるのだろうか?
うーん、何だか調子が狂ってしまいそうだ)
動揺している橘とは逆に、晴奈はとても、冷静に立ち向かっていた――1年欠かさず続けた精神修養の成果であろう。橘の魔術によって発生した、無数のつぶても難なく避けて、晴奈はもう一度、橘を斬りつけようとした。
「くッ……!」
橘は何とか杖を盾にして、晴奈の攻撃を防ぐ。ギンと言う、金属同士がぶつかり合う鋭い音が、修練場にこだまする。どうにかしのいだ橘は、もう一度魔術を放とうと、また距離を取った。
「甘いッ!」「え……」
橘が後ろに飛びのいた瞬間を狙って、晴奈が踏み込んだ。刀の腹で、ばしっと橘を叩く。体勢を崩され、橘は尻餅をついてしまう。
「あ、きゃあっ! ……あっ」
橘が起き上がろうとした時には、すでに晴奈が彼女の首に、刃を当てていた。
「勝負、あったな」
「何だか、自分にがっかりしてしまったわ……。あたしの半分も生きてないような子に、あっさりやられるなんて」
対決の後、がっくりと肩を落としている橘を、柊が慰めていた。
「まあまあ……。もう一度、修行を積んで再戦すればいいじゃない」
「うー……」
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