[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2.
紅蓮塞は大小50程度ある修行場と、その倍ほどの宿場・居間が連なっている。普段はその字面の通りに、修行の場、居住区として機能している。だが有事の際には、その様相は一変し、要塞としての働きを見せる。
それが紅蓮塞の、「塞」たる所以である。
襲撃の報せから数日も立たないうちに、紅蓮塞の守りは堅固なものとなった。塞内のいたるところに武器・薬品が積み上げられ、要所には数人の手練が詰めた。
当然、師範格の柊も駆り出され、紅蓮塞北西側の修行場、嵐月堂の境内に、晴奈を伴って護りに付くことになった。
「師匠、黒炎の者たちは一体、どこから……?」
「そうね、ここからの侵入は――境内の垣を乗り越えるか、それとも破るか。もしくは、山肌から降りて来るか……、いずれにしても、油断は禁物よ。敵は、克直伝の魔術を使うと言われているから」
「なるほど。……直伝、とは? 200年前の人間が現代に直接、伝えたと?」
そこで柊は一瞬、言いよどんで、言葉を選ぶようにポツポツと、答えた。
「その、ね、うーん、何て、言ったらいいかな。
克、は――まだ、生きている、らしいの。それも、若々しい、青年の、姿で」
「まだ、生きている……!?」
現実離れした話に、晴奈は思わず、声を高くした。
いかに長寿と言われるエルフでさえ、寿命は120~150年程度であるし、それ相応に歳も取り、老けていく。それを大幅に上回る時間を、若者のまま過ごす克――その悪魔じみた話に、晴奈は少し、寒気を覚えた。
まさに、悪魔――克の通り名は、「黒い悪魔」と言うのだ。もっとも、この名を晴奈が知るのは、もっと後のことになる。
突然、山肌の一部が、爆ぜた。いくつもの岩塊が山肌から飛び散り、晴奈たちに向かって飛んでくる。
「わ、わあっ!」
「怯むな、焼けッ!」
そこにいた何人かは一瞬、たじろいだが、年長者や手練の者たちは臆することなく、「燃える刀」で飛んでくる岩を叩き落し、防いだ。
「黒炎だ! 攻めてきたぞーッ!」
どこかから、大声で叫ぶ声が――あちこちで、聞こえてきた。どうやら、黒炎教団はかなり大規模に人員をばら撒き、攻め落とそうとしているようだ。
ほどなくして、嵐月堂にも教団員たちが、山肌を滑るようにして侵入してきた。いや、実際に何人か、「本当に」滑っている。駆け下りるような感じではなく、わずかに空中に浮き上がり、するすると空を走っているのだ。
「あれは……!?」
晴奈の目には異様な光景に映り、さすがにうろたえる。
「魔術よ。確か、名前は……」「『エアリアル』。風の魔術よ。魔術が盛んな地域では、わりと有名な術ね」
二人の後ろから、聞き覚えのある声がかけられる。振り向くと、かつて晴奈と戦った相手、橘が杖を手に立っていた。
「橘殿、来られていたのですか」
「うん、つい1週間ほど前にね。そしたら、『何卒お力を貸していただきたく候』なーんて、丁寧に頼み込まれちゃったのよ。
まあ、ココは修行するのにはいい場所だしね。手伝うわ、雪乃、晴奈」
「かたじけない、橘殿!」
ぺこりと頭を下げた晴奈に、橘は手を振って返す。
「アハハ……、そう堅くならないでよ、コドモのくせに。
さ、それじゃ――迎え撃つと、しましょうか!」
そう言うと橘は、杖に付いた十数個の鈴をシャラ、と鳴らし、何かをつぶやいて魔術を放った。
「『ホールドピラー』! 阻めッ!」
地面を駆け下りていた教団員たちの何人かが、岩肌から突然飛び出した石柱に突き飛ばされ、また、ガッチリと四肢をつかまれる――7、8人は橘の術で、戦闘不能になったようだ。だが、「エアリアル」と言う術で空中を飛んでいた者たちは、事も無げにすっと、避けてしまう――魔術に長けた者たちは皆、素通りしてしまったようだ。
が、魔術が得意な分、近接的な戦闘は不得意らしい。侵入してきた端から、剣士たちがねじ伏せているのが、山肌を見つめていた晴奈の視界の端に映っていた。
(これが……、戦い、か。戦い、か!)
晴奈の中で、何か、激しく燃えるものが、噴き出し始めていた。
11 | 2024/12 | 01 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 | 31 |