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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・夢幻録 6

晴奈の話、69話目。
式もたけなわになりまして。



6.
「……面妖な」

 式の合間に話を聞いた晴奈は、橘たちから聞いた雪花の話に眉をひそめていた。

「確かに、師匠の母上は雪花と言う名前ですし、それを知る者はいないはずです。橘殿の話ですし、信じるには十分なのですが……、うーん」

 霊能関係を嫌う晴奈としては、なかなか信じられる話ではない。

「まあ、式が済んだら、師匠に話をしてみましょうか」

「そうね。お母さんからの祝辞も預かってるし」

 話を聞いていた柏木は、真っ青な顔をしていた。

「あ、あれ、幽霊だったんですか……」

「やっぱり、気付いてなかったんだな」

 謙は今頃怯え出す柏木を見て、笑っていた。

 

 

 

「はい、ただいま……、って。先生、また飲んでたね?」

 戻ってきた店主、モールが一人席でいびきをかいている重蔵を見て、呆れた声を出す。

《珍しいわ、いつもは先生、こんなに飲む人じゃないのに。よほど、嬉しいのね》

「だろうね。人の酒、こんなに飲むなんてね。……げ、これ『白狐』じゃない。たっかい酒、こんなにガブ飲みするかね、普通?」

 モールは口をとがらせつつ、重蔵が抱えていた酒瓶を取り上げ、棚にしまおうと戸を開ける。

「げ」

 棚の中にあったはずの酒が半分ほど、無い。

《ごめんなさい、モール。……だいぶ、開けてしまわれて》

「人の隠れ家、飲み放題の酒蔵か何かだと思ってるのかね、まったく。……はぁ。『猫桜』も、『雪兎』も残ってない。いくらすると思ってるんだかね、もう」

 空になった酒瓶を恨めしそうに眺めるモールを見て、雪花は頭を下げる。

《ごめんなさいね、本当に。……美味しかったわ》

「そりゃそうだろうねぇ、秘蔵の逸品だったし。

 ……と、そろそろ戻ってもらわなきゃ。あんまり魂を引っ張ったまんまじゃ、体に悪いね」

 モールは酔いつぶれた重蔵の肩を叩き、起こそうとする。

「ほら、先生。そろそろ起きてくださいね」

「うう……む」

「ほら、起きて」

 何度か肩をゆすり、ようやく重蔵が頭を上げる。

「おお、すまんのう」

「すまんじゃないですって、先生。ほら、帰りますね」

 重蔵はフラフラと立ち上がるが、足取りがおぼつかない。見かねたモールが、肩を貸す。

「うっげ、酒臭っ。……ほら、帰りますって、ね」

「……柊先生」

 重蔵はよたよたと歩きながらも、雪花に話しかける。

《はい、何でしょう?》

「また、会いましょう」

《ええ。また、今度》

 重蔵は小さくうなずき、モールとともに店の奥へ消えた。

 

「……お?」

 新郎控え室の、畳の上。重蔵はようやく、目を覚ました。

「いかん、寝てしもうた」

 周りを見ると、自分の世話をしていたらしい門下生が一人、うたた寝している。そして視界に入った時計は、すでに4時を回っている。

「……しまった!」

 慌てて立ち上がり、式場へと走ろうとして――。

「……う、え」

 口を押さえ、反対側にある手洗い場へ逆走した。

 

 

 

「いかんいかん、飲みすぎたわい。まったく、この歳にもなって酒に呑まれるとは」

 式場へと急ぎつつ、自分の悪酔いを恥じていると――。

「あ、おじい様!」

「おう、良太。……しまった、間に合わなんだか」

 良太と雪乃、晴奈、他友人たちがぞろぞろと、式場から出てきた。

「気分の方は大丈夫ですか?」

「ああ、ちと酔いが残っておるが、まあ、悪くは無い。

 ……すまんかったのう、よりによってお前の式に行きそびれるとは。一生の不覚じゃ」

 がっくりとうなだれる重蔵を見て、棗に背負われていた桃がなぐさめの声をかける。

「だいじょうぶ、おじいちゃん? おげんき、だして」

「……はは、心配いらんよ桃ちゃん。式が無事済んだのなら不満なんかありゃせんよ」

 重蔵は自分の失敗を笑い飛ばし、場を和ませようとした。だが、その場にいた桃を除く全員が、不気味なものを見るような目で重蔵を見ている。

「……ん? どうかしたかの、みんな?」

「な、何で家元、俺の娘の名を、ご存知なんですか? お会いするのは、初めてのはずなんですが?」

 謙が恐る恐る尋ねてくる。桃が何てこと無い、と言う感じで答えた。

「おみせで、あったもん」

「おう、そうじゃ。『狐』の店で、な」

 

 今日起こったことのすべてを聞き、雪乃と良太は目を丸くしている。

「小鈴たちがわたしの母さんと会って」

「おじい様と桃ちゃんが、同じ店にいた、と」

 二人は顔を見合わせ、笑い出す。

「クスクス……、今日はみんな、大変だったのね」

「そうみたいですねぇ、ふふ」

 橘たちもつられて笑い出す。

「あはは……、不思議な日だったわ、ホント」

「なかなか無い体験だった、うん」

 重蔵も嬉しそうに腕を組み、うなずいている。

「めでたい日にこれだけ、不可思議なことが起こる。間違いなく、吉兆じゃな。

 ……これは式で言うつもりじゃったが、すっかりすっぽかしてしもうた。名誉挽回のつもりも兼ねて、ここで言うておくかの」

 重蔵は真面目な顔になり、雪乃と良太に祝辞を述べる。

「良太。雪さん。おめでとう。相思相愛で何よりじゃが、時には……」

 重蔵の長い祝辞に、良太は心の中で辟易していた。

(……これ、さっき何回も聞かされたのと同じ内容だ)

 その様子を察した雪乃が、片目をつぶって目配せする。

(いいじゃない、おじい様がわたしたちを大事に思ってくれている証だから)

(そうですね)

 良太も片目をつぶって、雪乃に応えた。

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