[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
3.
それから数日後。晴奈の予測が、現実になった。
「また、黒炎が攻めてきそうだ……!」
「またか!? まったく、面倒くさくてかなわん!」
「焼き払ってくれるわ!」
黒炎教団襲来の報せを受け、にわかに塞内が騒々しくなり始めた。
「来るんですか?」
騒ぎを聞きつけた良太は、柊に詳しい話を聞いていた。
「ええ、そのようね。……でも良太、あなたは中にいなさい。まだ、戦いに出られる腕では無いわ」
「そんな! 晴奈姉さんだって、15で戦いに出たと言うではないですか!?」
柊は大きく首を振り、良太の肩に手を置く。
「いいえ、晴奈は剣の素質があったから、15で出られたの。でもあなたには、そこまでの才は無い。大人しく、安全な場所でじっとしていて」
「……そうですか。分かりました」
良太はうつむいたまま、素直に返事をした。
「晴奈、準備はできた?」
「ええ、万端、整いました」
晴奈と柊はがっちりと武装し、前回と同じく嵐月堂で敵の襲来を待った。
「師匠、あの」
「ん?」
晴奈は柊に、良太が柊を想っていることを打ち明けようかと迷った。
「……いえ。何でもありません。生き残りましょうね」
「勿論よ。……そろそろ来るわ。気を引き締めましょう」
「はいっ」
5年前と同様に堂の壁が破られ、教団員が侵入してきた。晴奈は目を凝らしてみたが、今回はあの「狼」、ウィルバーの姿は無かった。
(これは残念。雪辱の機会は無しか)
ともあれ、晴奈は教団員に飛び掛り、バタバタとなぎ倒していく。前回同様、まるで修羅のような豪快さを持って、敵は次々と倒されていった。
(5年前に比べれば、何とぬるく感じることか)
晴奈自身はまったく冷静に、敵を切り捨てている。柊の方も、晴奈同様苦戦することなく、ひらりひらりと戦場を駆け巡っている。
3時間ほど戦ったところで、教団員たちは撤退していく。勝利を判断し、周りの剣士たちの緊張が、次第にほどけていった。
「……ふう。後はこのまま、きっちり抑えていれば勝ちね。後もう少し頑張りましょう、晴奈」
「はい!」
額の汗を拭いながら、柊師弟はほっとした表情を見せた。ところが――。
「大変だ! 雨月堂が破られたらしい!」
背後から、他の場所を守っていた剣士が飛び込んできた。
「雨月堂だって!? あんなところ、今まで狙われなかったじゃないか!」
「それに、あそこには門下生たちが避難して……!」
「くそ、もしかしてここを襲っていたのは囮、陽動作戦だったのか!?」
この報せに、剣士たちは一斉に青ざめた。そして柊師弟も同様に、冷や汗を垂らす。
「雨月堂、って……」
「まずい、良太がいる!」
晴奈たちは急いで、雨月堂に走っていった。
(そりゃ、ぬるいわけだ! 相手は本気で、かかって来なかったのだから!)
晴奈も柊も、全速力で塞内を走り抜ける。重たい武具を脱ぎ捨て、道着と胸当て、鉢金、刀大小二本の軽装になって雨月堂を目指す。
「無事でいろ、良太!」
軽装になったおかげで、他の剣士たちより若干早く、雨月堂に着くことができた。
雨月堂は紅蓮塞の中で最も南にある修行場である。通常、教団は北西から攻め込んでくるため、南側にある修行場はまず、狙われない。だから教団が襲ってきた際は、この辺りに非戦闘員を非難させていたのだが――。
「わああっ!」
「来るな、来るなーッ!」
「ひいーッ!」
予想外の強襲に、多くの者が逃げ惑っている。門下生も半分ほどは、怯えて隅に縮こまっている。だが、残りの半分は勇気を奮い起こし、懸命に教団員と戦っていた。だが――。
(逃げてくれた方がいい。半端な実力では、到底太刀打ちできる相手では無いのだ。蛮勇を奮ってどうにかなる相手ではない。……だが、半ば遅かったか)
すでに数名、門下生が血を流して倒れ、事切れている。皆、手に刀や木刀を持ち、正面から斬られていた。
(良太はまだ、無事か!?)
晴奈と柊は、良太の姿を探す。
「あ、いました!」
良太は隅で震える者たちの前に立ち、木刀を構えて教団員と対峙していた。だが、良太自身もガタガタと震え、今にも木刀を取り落としそうになっている。
「良太、今助けに……」「おっと、待ちな」
走り出そうとした刹那、晴奈の目の前を棍がかすめた。
その棍を、晴奈は一日たりとも忘れたことは無い。何しろ、自分の頭を割られた武器である。忘れられるはずもない。
「貴様、は……!」
晴奈の真横に、黒い髪の狼獣人がニヤニヤと笑いながら立っていた。
「ウィルバー! ウィルバー・ウィルソンか!?」
「へぇ、覚えてたのか」
5年ぶりに見るウィルバーはたくましく成長し、晴奈よりも頭一つほど背が高い。戦闘服の袖から見える腕にも、精強と言うべき筋肉がたっぷり付いている。
「えーと、何だっけお前? 名前、聞いて無かったよな。……ま、いいや。ここで殺せば、忘れていいな、うん」
自分勝手にそうつぶやくなり、ウィルバーは三節棍を構え、振り上げた。
「馬鹿も休み休み言え!」
晴奈は向かってきた棍を、勢い良く弾く。キン、と甲高い音を立てて、棍の先端が宙に浮く。
「お、っと」
ウィルバーは棍の末端をくい、と引っ張り、浮いた棍を手元に収めた。
「悪い悪い、なめてた」
「愚弄するか、私を。ならば私も乗ってやろう、犬め」
犬、と呼ばれてウィルバーの顔が凍りつく。
「前にも言ったろうが。……このオレを、犬と呼ぶんじゃねえッ!」
瞬間、三節棍がうねり、風を切って、何度も晴奈に襲い掛かる。晴奈は無言でそれをすべて、弾き落とした。
「……速ええ。昔より断然、動きも速いし、見切るのも速い」
ウィルバーは警戒の色を見せ、トン、と短く跳んで後ろに下がり、間合いを取ろうとした。
「……5年前の借り」
「え?」
ウィルバーが後ろに跳ぶと同時に、晴奈もそれを追う。
「今ここで、返させてもらうぞッ!」
ウィルバーが着地した瞬間を狙い、晴奈は突きを入れた。
「ぐあ!?」
器用に三節棍で防御している部分をすり抜け、刀がウィルバーの脇腹に刺さる。が、戦闘服の下に鎖帷子(くさりかたびら)でも着込んでいたのか、刀は貫通せずに途中で引っかかった。
「っぐ、……甘い、甘いぜ、『猫』! 通るかよ、こんなもん!」
「ならば!」
脇腹に刀を刺したまま、晴奈は刀から手を離し、ウィルバーの鳩尾に拳をめり込ませた。
「ごふ……っ」
ウィルバーの顔が一瞬で真っ青になり、そのまま仰向けに倒れ、気を失った。晴奈は帷子に絡んだままの刀を引き抜き、涼やかに言い放った。
「この黄晴奈、侮ってもらっては困る」
晴奈とウィルバーが戦っている間に、柊は良太に加勢した。良太を囲み、ニタニタ笑っていた教団員の背後から次々に斬りつけ、あっと言う間に全員打ちのめした。
「大丈夫、良太!?」
「あ、あ……、先生!」
柊の顔を見た途端、良太は木刀を落し、その場に崩れるように座り込んだ。柊は良太の体を抱きしめ、安堵のため息を漏らした。
「良かった、死んでなかった……!」
「せ、先生」
傍から見れば、弟子の安否を気遣う師匠と見える。だが、良太にとっては恋心を抱く者からの抱擁である。当然顔を赤くし、戸惑った。
「あ、あのっ、その、だ、だ、大丈夫、です」
「……心配かけて、もう」
そこへ、ウィルバーを倒した晴奈が戻ってきた。
「お、……お、っと」
晴奈と良太の目が合った。
(もう少し、放っておいてやる。役得だな、良太)
(す、すみません)
11 | 2024/12 | 01 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 | 31 |