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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・鞭撻録 4

晴奈の話、53話目。
意外な告白。
 
彼女にこの辺りを読ませたところ、
「学園モノに例えると、剣道部の先輩後輩みたい」
との感想をいただきました。

つまり、
1年生(新入部員):良太 2年生(エース):晴奈 3年生(部長):柊
と言うことらしいです。
……じゃあウィルバーはライバル高の不良役?
 
 

4.
結局奇襲戦法も実らず、教団は今年もすごすごと引き上げた。

「くそ、南から攻めろなんて叔父貴め、適当なこと言いやがって」

 ウィルバーはブツブツ文句を言いながら、帰路についていた。まだズキズキと痛む鳩尾をさすりながら、ウィルバーは晴奈のことを思い返す。

「いてて……。あの猫女め、今度は真っ向から邪魔しやがったか。前みたいに頭カチ割ってやろうと思ってたのによ。

 ……セイナか。覚えておいてやる――今度こそ、ボッコボコにしてやんよ」

 

 

 

 ケガ人の治療や修行場の修繕作業による喧騒を避け、晴奈と良太はまた、書庫の中で話をしていた。

「怖かった、本当に……」

「まあ、そうだろうな」

 今日ばかりは流石に、良太も本を読んではいられない。ずっと、両手を堅く組んだままだ。

「多くの人間は修羅場など、そうそう遭うものではないからな。それでも一度や二度で慣れるものでは無いし、私だっていまだに、平静にはなり切れない。あそこで奮い立つことができるだけ立派だよ、良太」

「……そう、ですかね」

 良太の顔は青ざめ、意気消沈していることが伺える。

「本当に、怖かった。前と違って、少しは力が付いたはずなのに、やっぱり怖くてたまらない。僕は本当に、仇を討てるんでしょうか……」

「それは私が出すべき答えでは、無いな」

 晴奈は良太に向き直り、昔聞いた、ある言葉を伝えた。

「これは、ある者の言葉なのだが。

 『敵を倒すならば、倒される覚悟を持て』。仇を討つと言うことはそのまま、敵を倒すと言うことだ。であるならば、倒されること、返り討ちに遭うことも、考えなければならぬ。

 良太、いつかお前に強さを問われたことがあったが、それが答えのひとつだ。その覚悟が、本当に持てるのかどうか。自分の意志を貫くために、死ぬ覚悟、何か大きなものを失う覚悟があるか。

 その覚悟が持てるのなら、仇を討ちに行けばいい」

 良太は晴奈の言葉を、黙って聞いていた。その目には深い、諦めの色が浮かんできていた。

 

 

 

「元気にしてる、雪乃?」

 柊の部屋を、橘が訪れた。

「あら、小鈴? ひさしぶり……」「何言ってんのよ。お風呂で会ったじゃない」

 橘の一言に、柊の表情が凍った。

「甘いわね。知ってたわよ、アンタがあたしと晴奈ちゃんの会話、聞いてたの」

「そ、そう」

 橘はイタズラっぽく笑い、柊の横に座り込む。

「で、どうなのよ?」

「どう、って?」

「良太くんのコト」

 橘が尋ねた途端、柊の顔に、赤みが差す。

「な、何にも? 大事な弟子としか……」「またまたぁ」

 言いかけた柊の長耳を、橘がくいくいと引っ張る。

「いたっ、何するのよ?」

「嘘、下手くそねぇ。顔に書いてあるじゃないの。『わたしは良太君のことが……』」「言わないで!」

 長耳を真っ赤にし、顔を伏せる柊を見て、橘はため息をつく。

「ホント、柊一門は恥ずかしがりやばっかりねぇ。もっと素直になればいいじゃないの」

「そう言う問題じゃ、無いの」

 顔を伏せたまま、柊はブツブツとつぶやく。

「だって、家元から任されたお孫さんよ? それに、わたしの弟子だし。年も、離れてるし。ここでもし、結ばれたり、なんか、したら、焔流の師範として、他の剣士に示しが付かなくなるじゃない」

「……雪乃ぉ」

 橘はもう一方の耳もつかみ、ピコピコ揺らす。

「アンタ、好きなんでしょ? で、向こうが好きだってコトも分かってる。他の要素なんか、どうだっていいじゃないの」

「そうは、行かないわよ……」

「なら、どうにかしなさいよ!」

 橘の一喝に、柊はビクッと震える。

「アンタ、そんな言い訳ばっかりするから、恋が実らなかったんじゃないの? 前に聞いた、初恋の人にも結局告白しないで、それっきりだったんでしょ? もういい加減、動いてみたらいいじゃない。じゃなきゃこの先もずっと、片思いばっかりしちゃうわよ」

「……」

 耳をつかまれたまま、柊はじっと、橘の顔を見つめていた。その目はまるで、助けを求めているように見える。

「良かったら色々、手伝ってあげるわよ」「……うん」

 

 紅蓮塞に今、春の嵐が吹こうとしていた。

 

蒼天剣・鞭撻録 終

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