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3.
全員、真っ青になっている。口も開けない。
「……」
重蔵の部屋に集められた晴奈、良太、柊、橘は重蔵の前に並んで座らされ、重蔵と向かい合っていた。
「……何と、したことか」
始めに口を開いたのは、重蔵である。
「うーむ、そうか、うーむ。
まず、そうじゃな。確認しておこうかの。雪さん」
「は、はいっ」
柊が指名され、半ば裏返った声で返事をする。
「あ、いやいや。落ち着きなさい。まあ、ともかく。わしは怒ったりせんよ」
「そ、そうですか」
「……今のところは、じゃけどな」
「……」
柊ののどが鳴るのが、そこにいた全員に聞こえた。
「まず聞こうかの。……雪さん、良太のことを、好いておると。これは、相違ないな?」
「……はい」
「自分の弟子だと言うことを、分かっておるのかの?」
「そ、それは重々……」「晴さんは黙っとれ!」「……」
師匠の弁護をしようとした晴奈を、重蔵が一喝してさえぎった。
「……分かっています。いえ、分かっているつもりです。ですが己の心情に嘘は、つけません」
「わしの孫と言うことも、承知しておろうな?」
「はい。しかしわたしは、家元の孫としてではなく、一人の人間として、良太を見ています」
「そうか。……良太」
「はい……」
良太も小さい声で、重蔵に答える。
「声が小さい!」「はっ、はいっ!」
「雪さんのことを、真剣に想うておるのか?」
「はい!」
「自分の師じゃぞ?」
「師であろうと無かろうと、僕はせんせ、……雪乃さんのことが好きなんです!」
「……はー。参ったのう。参った参った」
良太の答えを聞くなり、重蔵は残り少ない髪を撫で付けるように頭をかいた。
「良太、お前さんを見とると思い出すわい。お前の、お母さんのことを」
「え?」
「昔、お前の母さんに腕飾りを贈ってやったんじゃ。ガラス細工の、風流な一品でな。大層喜んで、ずっと手放さなかった。
しかしある日、割れてしまってのう。わしが新しい物を買ってやる、と言ったら――『私はこれが好きなの。他に、どんなに綺麗なものがあっても、私はこれがいい』と答えたんじゃ」
その話を聞いた途端、良太の目から涙がこぼれ出した。
「それ、母さん持ってました。初めは割れたままだったそうですが、職人だった父と出会った時、接いでもらったと」
「そうか……。あの場に無かったと言うことは、盗られてしまったようじゃな」
「はい……」
「む、話が逸れてしまったな。ともかく、『師であること関係無しに、雪さんが好きだ』と言う精神は、お前の母さんそっくりじゃ。そんな、意固地と言うか、頑固なところが後に、わしとのいさかいの原因となってしまったが……。
思えば、昔のわしも頑固じゃった。自分の意を曲げなかったために、話し合えなかった者、決別した者の多いこと、多いこと……。ここでもし、お前たちの仲を認めねば、きっと同じことになるじゃろうな」
重蔵の言葉を聞き、晴奈たち四人はそれぞれ驚いた。
「それじゃ、おじい様……」
「認めて、くださるのですか!?」
「家元!」
(話わかるじゃん、家元さん!)
「ただし」
沸き立つ四人に掌を向け、重蔵は提案した。
「良太、お前さんの志を一つ、捨てなさい」
「……?」
何のことか分からず、良太は戸惑う。
「志を、一つ……?」
「仇討ちじゃ。この理由、分からないでもないじゃろう?」
良太の目が、せわしなく動く。その様子は、迷っているとも、理由が分からないとも取れる。
「分からんか?」
「え、っと、その……」
「良太。その意味が分かるまで、この話はお預けじゃ。雪さんを除いて、下がってよい」
その言葉に、晴奈と橘はほっとした。
「は、はい」
「それじゃ、失礼しました」
晴奈たちはぺこりと頭を下げ、呆然としたままの良太の肩を叩く。
「良太、出るぞ」
「……え、あ、はい。失礼しました」
残された柊と重蔵は、晴奈たちが部屋を出た後、しばらく無言で向かい合っていた。
「……雪さん」
また、重蔵が先に口を開く。
「はい」
「率直に言うとじゃな」
「はい」
また、ポリポリと頭をかく。
「意外じゃった。まさか雪さんが、良太とくっつくとは思わなんだ」
「そ、そうですか」
「まあ、しかしじゃな。……雪さんと良太なら、確かに良縁かも知れんのう」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます」
柊は深々と頭を下げる。
「ほれ、雪さん」
顔を上げたところに、お猪口が差し出される。
「義父ならぬ、義祖父と一緒に呑もうじゃないか」
「……ありがたく、頂戴します」
柊はとても美しい笑顔で、お猪口を受けた。
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