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3.
床に置かれた鍵を見つめたまま、良太が尋ねる。
「他に、倉ってありましたっけ?」
同じように、鍵を睨んだまま晴奈が答える。
「私の知る限り、無いな」
「……本当に、これにはまる鍵があるんでしょうか?」
「まさか、家元が嘘をついたとでも?」
「そうは言ってませんけど、でも……。鍵が合う箱が、無いんじゃ」
良太の言葉に、晴奈もうなるしかない。
「うーむ」
「……待てよ?」
その時、良太は自分の言葉であることを思いついた。
「どうした?」
「鍵、って言っても、かけるものって一杯ありますよね」
「……?」
良太は鍵をつかみ、立ち上がる。
「ほら、机とか、金庫とか、……他には、扉とか」
良太の意見に従い、晴奈たちは次に、鍵のかけられた扉を探すことにした。
「まあ、考えてみれば確かに、箱に使う鍵、とは言っていないな。どこか、開かずの間になっている部屋の鍵かも知れぬ」
「でしょ? ……それに、『倉を探し終わっても無かったから、おじい様の勘違いだった』って口実も作れるし、雪乃さんにこれ以上付き合わせなくて済みます」
「それも、そうだな。一時はどうなることかと思ったが」
二人は同時に安堵のため息を漏らしつつ、捜索を続けた。
だが、その二人の陰で。
(何なの……? わたしに、これ以上付き合わせなくて済む、って。
……わたし、除け者? ま、まさか良太、この前怒ったことでわたしを嫌いになって、晴奈と……!? ダメ、そんなの!)
柊がハラハラしながら、二人を尾行していた。
隠れている柊に気付かないまま、晴奈たちはあちこちにある扉に、鍵をはめてみる。
「……入らない」
「ここも、違うみたいですね」
扉の方もすでに2棟ほど当たっているが、依然見つかる気配が無い。二人は軽くため息をつきながらも、次の修行場に向かうことにした。
「えっと、次は……」
「心克堂だ。ここは、飛ばそう」
「え?」
良太は何か引っかかるものを感じ、反対する。
「いや、ここも行ってみた方がいいんじゃないですか?」
「何故だ? この中は私も入ったし、お前も中は知っているだろう? 何も無いぞ」
「うーん、何て言うか、何だろう……、何か、気になるんですよ」
「はぁ?」
要領を得ない意見に、晴奈は首を縦に振らない。
「その、うーん……、調べるだけ、調べてみませんか? そんなに時間、かかることでも無いですし」
「……そんなに言うなら、まあ」
結局晴奈は折れ、伏鬼心克堂も当たることにした。歩きながら、良太は考えをまとめてみる。
「何て言うか、あそこは魔術がかかっているんですよね」
「ああ。入門試験は鬼を見せられ、免許皆伝の試験でもまた、別のものを見せられる」
「へぇ、卒業試験でもですか。まあ、それも含めて、あそこには何か、仕掛けが残ってるような気がするんですよ」
「そんなものかな……?」
話しているうちに、二人は伏鬼心克堂の前に着いた。
(果たして、どうかな?)
晴奈は鍵を、扉の鍵穴に当ててみる。すると、かちゃ、とわずかに音を立てて、鍵は鍵穴に入ってしまった。
「……!」
「あ、当たり?」
「ま、待て。……回してみないことには」
手首をひねると、すんなり回る。そしてかち、と鍵穴から響き、扉は開いた。
「開きました、……ね」
「ああ。……開いたな」
二人は一瞬顔を見合わせ、同時にうなずく。そして中に、足を踏み入れた。
次の瞬間。二人の足から、接地感が消えた。
「わ、わあっ!?」
「穴!?」
二人はそのまま、下へと落っこちた。晴奈は「猫」らしく、音も無く着地したが、良太は尻からどす、と地面にぶつかった。
「あ、あたた……」
「大丈夫か、良太?」
「ちょっと、痛いけど。大丈夫です」
良太は晴奈に手を貸してもらいながら、よたよたと立ち上がる。
「何がなんだか……。お堂に、落とし穴?」
「と言うか、私たちが勝手に落っこちたようだな。ほら、はしごもついてる。どうやら、地下道のようだ」
「あ、本当だ」
後ろを振り返ると、木のはしごがしっかりかかっている。二人は顔を見合わせて、苦笑した。
「はは……、やっちゃいましたね」
「ふふ、私としたことが。……ともかく、あの鍵でここに来れた、と言うことは」
「この先に、雪花さんの手がかりがある、ってことですね」
「そうだな。奥に行ってみよう」
晴奈たちは地下道の先に、進むことにした。
「む……。少し、暗いな」
「あ、大丈夫ですよ。僕、雪乃さんにこう言う時に役立つ魔術、教えてもらいましたから」
「ほう」
「見ててくださいよー。……照らせ、『ライトボール』!」
良太が手をかざすと、その手の先に光球がポン、と現れ――すぐ、消えた。
「あれ? おかしいなー……。 えい! ……えい!」
何度やっても、光球は一瞬現れ、消えるのを繰り返す。見かねた晴奈は、良太に手を差し伸べる。
「……私の袖をつかんでいろ。私は『猫』だから、暗いところでも多少は目が利く」
「す、すみません」
しゅんとする良太を見て、晴奈はまた苦笑した。
地下道を歩いて間もなく、松明があるのを発見した。
「良太、火種はあるか?」
「あ、はい。確か、……ありました。はい」
良太は持っていた火打石で、松明に火を点ける。辺りが照らされた瞬間、二人は息を呑んだ。
「お……?」
「こ、これ……!」
壁中に、幾何学的な紋様が張り巡らされている。良太はその紋様をまじまじと見つめ、ポンと手を打った。
「これが、伏鬼心克堂の正体か……!」
「うん?」
「これ、全部『魔方陣』ですよ! めちゃくちゃ大量に描いてありますけど、多分全部、幻術関係のやつです」
晴奈は意味が分からず、聞き返した。
「まほうじん、って何だ?」
「あ、えーとですね、簡単に言うと魔術を使いやすくするために、紙や壁に呪文を羅列するんですよ。で、言葉で唱えるよりもっと簡潔にするために、図形を用いたりするんです。
鬼を見たりするのは、この幻術系の魔方陣が作動してたせいですね」
「ほう……」
晴奈は何の気なしに、壁に触ろうとする。それを見た良太が、慌てて止める。
「あ、触っちゃダメです! 下手に触ったら、誤作動を起こしちゃいます!」
「お、おお?」
良太の剣幕を見て、晴奈は手を引っ込めた。
「まずいか?」
「下手すると、魔力をとことんまで吸われて倒れちゃいますよ」
「なるほど、まずいな。……先に進もう」
さらに奥へ進むと、扉があった。魔方陣も、そこで途切れている。
「……開けるぞ」
「はい」
二人ともゴクリとのどを鳴らし、その扉に手をかける。扉はギシギシと音を立て、引っかかりつつも、開いた。
中を覗くと、そこには――。
「……に、人間!?」
「いや、あれは……」
人間と同じ大きさの人形が、小さな机の前で座っていた。
人形は、どうやら木製であるらしい。松明のぼんやりとした灯りの下で見ると、本物の人間かと見紛うほど精巧にできている。深緑の着物を羽織り、央中風の小さな椅子に腰かけたその体は、今にも動き出しそうな雰囲気をかもし出している。
そして、その顔は――。
「雪乃さん、そっくりだ」
「……机の上に、何か乗っている」
晴奈はそっと手を伸ばし、机の上に乗っている本を取った。
「日記だ。持ち主はどうやら、……柊雪花」
「読んで、みますか?」
「ああ」
晴奈と良太は地面に座り、日記を開いた。
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