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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・琴線録 1

晴奈の話、58話目。
逆鱗、ふたたび。
 
 
 

1.
双月暦513年、秋。柊と良太の仲が公認になり、半年が過ぎた。

 初めはお互い恥ずかしがって、手も握らないような状態だったが、今では紅蓮塞の下部、宿場町を散策するなどして、その仲を深めていた。

「何だか、あっと言う間」

「え?」

 良太の横にいた柊が、どこかから流れてくる温泉の湯気を見てぽつりとつぶやいた。

「どうしたんです、雪乃さん?」

「あなたと付き合うようになって、春から夏、秋まで。あっと言う間に過ぎてしまったわね」

「そうですねぇ。楽しい時間は早く過ぎる、って言いますけど、本当だったんですね」

「……うふふっ」

 柊は良太の腕を取り、抱きしめる。

「こんなに幸せで、いいのかしら」

 恋人の甘えてくるような言葉に、良太もにやけてくる。

「あはっ、いいんじゃないですか? 何か、後ろめたいことが?」

「……そうね。幸せで、いいのよね」

 柊の、腕を抱く力が強くなる。

「……? ええ、いいですよ」

 だが、盛り上がれば盛り上がるほど、柊の言葉の端に何か、捉えがたい感情が見え隠れする。それを感じる度、良太はある思いを抱いていた。

 

 良太は――心底幸せなのだが――何か、不安のような、違和感のようなものを感じていた。

(何だろう、この気持ち……?

 雪乃さんの温かさが、本当に心地よくて。話す言葉の一つ一つが、きらめく宝石のようで。本当に、幸せ一杯、……なんだ、けど。

 なぜだろう、なぜ、こんな気持ちに――まるで、遠い遠い世界にぽつんと立つ、街灯のように――一瞬、ほんの一瞬だけ、雪乃さんがはるか遠くに感じてしまう……)

 だが、生来の気弱さのせいと、柊が過去に触れることを嫌うために、良太はずっと、何も聞かずに済ましていた。

 柊と一旦離れ、午後の仕事である書庫の整理に向かうまでは。

 

 

 

「また、ラ行にカ行の本が……。ちゃんと片付けてほしいな、もう」

 良太は間違った場所に納められた本を抱え、元の場所に戻そうとしていた。書庫は焔流の者たちが図書館として使っているため、しばしば乱雑な使われ方もされたりする。

「あー、まただ。今度はマ行に、タ行。こんな適当な入れ方してたら、本が見つけられなくなるじゃないか」

 ブツブツ文句を言いながら、別の場所に納められていた本を、元の棚に戻す。

「『毎日の鍛錬』。何でこれをカ行に入れるかなぁ。こっちもだ。『名士録・央南編(510年度版)』。図鑑の分類に入れるなら、まだ分かるけどさぁ……」

 と、その名士録を棚に戻そうとして、ふと興味がわく。

「……名士録、かぁ。おじい様も、載ってるのかな?」

 他の本を机に乗せ、何となくそれを開いてみる。

「ふん、ふん……。あ、あった。『焔重蔵(ほむら じゅうぞう) 短耳 男性 436~ 焔流剣術家元、剣術家』。そっか、もう70越えてるんだ、おじい様。

 あ、もしかして姉さんの家のも、あるのかな? ……あるある。『黄紫明(こう しめい) 猫獣人 男性 461~ 黄商会代表、実業家』。へぇー……。結構、面白いかも」

 良太はパラパラと、名士録をめくっていく。

「『天原桂(あまはら けい) 狐獣人 男性 475~ 天原財閥宗主、第41代央南連合主席』。やっぱり載ってた、はは。

 ……僕の知ってる名士って言えば、これくらいかな?」

 一通り読み終えて、本を閉じようとしたその時。目の端に、ある文章が映った。

「『柊雪花……』」

 恋人とほぼ同じ名前に指が思わず反応し、す、と差し込む。

「……まあ、関係ないだろうけど」

 そうは言いつつも、読まずにはいられない。指を差し込んだ頁を開いて、先ほどの名前を確認する。

「『柊雪花(ひいらぎ せっか) 長耳 女性 443~485? 古美術商、資産家』。……485年、没なのかな? だとしたら何で、510年度版に載ってるんだろう?」

 少し気になったので、良太はこの女性について調べてみることにした。

 

 書庫なので、資料はいくらでも出てくる。この雪花と言う人物も、調べ始めて30分もしないうちに詳細が判明した。

 柊雪花、エルフ。元々は父親から古美術商を受け継ぎ、細々と商売していたのだが、20代の終わり頃から希少価値の高い小物を多数手がけるようになり、一代で巨額の財を築いた。晩年には央南でも十指に入る資産家となったが――。

「485年に、行方不明。あ、だからまだ載ってるのか。……行方不明になった資産家、かぁ。何だか、想像を掻き立てられるなぁ」

「何の想像をしてるんだかな」

 不意に後ろから声をかけられる。振り返るとかつての姉弟子、晴奈が立っていた。

「あ、姉さん」

「何を見てるんだ?」

「あ、ほら。この柊雪花って人、雪乃さんに名前が似てると思って」

 良太は読んでいた本を晴奈に手渡す。

「ほう……」

 晴奈は渡された本を、ペラペラとめくる。

「……485年に、行方不明か。ふむ」

「何だか気になるでしょ?」

「それだけじゃないな」

 晴奈はある頁を指差す。

「小物の売買、と言うのも師匠と似ている。あの人は、小物を集めるのが好きだから」

「あ、なるほど。……エルフで、小物好きで、名前も似てる。偶然、でしょうか?」

「どうかな……? 私に聞くより、師匠に聞いてみた方が早いと思うが」

「……ですよねぇ」

 

 書庫整理を切り上げ、良太は雪花について書かれた本を持って柊の部屋を訪れた。

「こんにちは、雪乃さん」

「あら、良太? どうしたの?」

 嬉しそうな顔で、柊が戸を開けて出てくる。

「えっと、そのですね。あ、中入ってもいいですか?」

「いいわよ」

 柊はニコニコしながら、部屋に戻る。良太も部屋に入り、中を見回す。

(確かに、小物が多いな。狐の置物とか、観葉植物とか。それに良く見ると、何個か古ぼけてるのがある)

「どうしたの?」

 入口で立ち止まっている良太を見て、柊が首をかしげる。

「あ、いえ」

 いぶかしがられ、良太は慌てて座り込んだ。

「どうかしたの?」

「あ、えっとですね。実は、こんなの見つけたんですよ」

「ん?」

 良太は持って来た本を開き、柊に見せる。

「ほら、この雪花って人、雪乃さんに良く……」「……」

 頁を見た柊の顔が、無表情になっている。

「……雪乃さん?」「……」

 突然、柊が立ち上がった。そして――。

「な、何を?」

「……ダメ」

「え?」

 柊は、傍らに置いていた刀を握りしめている。今にも刀を抜きそうな気配を漂わせ、あまりにも冷たい声で、命令する。

「この話は、もう、しないで」

「ゆ、雪乃さん?」

「いい? もうこの話は、絶対にしないで」

 無表情のまま、異様に殺気立っている柊に、良太の額からボタボタと冷や汗が走る。

「……わ、分かり、ました」「……」

 良太は本を閉じ、慌てて部屋を出た。

 

 

 

 一人きりになった柊は、ぽつりとつぶやく。

「何で……、良太が、あれを」

 刀を握りしめたまま、柊はぽろぽろと涙を流した。
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