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2.
「あいたたた……」
客間に運ばれたエルスは首と後頭部をさすりながら、ヘラヘラ笑っている。
「セイナ、ひどいじゃないか」
「元はと言えば、お主の行いが原因だろうが」
「ま、そりゃそうだけどさ」
リストはエルスを踏みつけた後も一通り怒り倒し、そのまま屋敷を出て行ってしまった。
「まったく、何度怒らせれば気が済む?」
「しょうがないさ、これは『趣味』の問題だし。ま、あの子は薬缶みたいな子だから、そのうちケロッとして戻ってくるさ」
「……下衆な趣味だな。お主の頭に公序良俗と言う言葉は無いのか?」
「うーん」
エルスはそっぽを向き、両手を挙げる。
「綺麗なご婦人がいたら、声をかけるのが紳士の礼儀かな、って」
「大馬鹿者」
今度は晴奈がエルスを叩いた。
「あいたっ」
「女をたぶらかして、何が紳士か」
「そうですよ、エルスさん」
明奈が洗面器と手拭を持って、客間に入ってきた。
「あ、わざわざゴメンね、メイナ」
「いえいえ。……本当にいけませんよ。北方ではどうなのか、良くは知りませんけれど。色恋に雑な方は、央南ではあんまり歓迎されませんよ」
水にひたした手拭を絞りながら諭してくる明奈に、エルスはまた苦笑する。
「あはは……、雑にしてるつもりはないんだけどね。誰であっても、真面目に付き合ってきたつもりだし」
「それなら、リストさんとはどうなんですか?」
「うん?」
明奈から手渡された手拭を頭に当て、エルスは短くうなる。
「んー……、どう、って?」
「え……?」
「僕が恋愛を楽しむことと、リストと何の関係があるの? あの子とは別に、付き合ってるわけじゃないんだけど」
今度は明奈が憮然とした顔になる。
「付き合ってない、って……。どう見てもリストさん、嫉妬してますよ」
「そんなわけ無いじゃないか、はは」
エルスは軽く笑い飛ばし、明奈の見解を否定する。
「あの子とは一緒に仕事して、結構長い。それなりに信頼関係もあるし、嫌ってないのは確かさ。でも、いつも僕に向かって罵詈雑言を放つし、どう考えてもあの子が僕に恋愛感情を持ってる、って言うのはちょっと、無理じゃないかなぁ。
それにあの子が僕と一緒に来たのは、僕の仕事に加担したからだよ。それに、博士のお孫さんでもあるし、どっちかって言うと付き添いって感じだ。怒るのはきっと、博士に恥をかかせないようにと、彼女なりに配慮してるからじゃないかな」
「そう、ですか……?」
まだ腑に落ちないと言う面持ちの明奈に、エルスはへら、と笑いかけた。
「そう、だよ。第一、本当に僕のことが好きなら、足蹴にしないだろ? ほら、このコブ」
「……ま、そうだな」
エルスの後頭部の腫れを見た晴奈は、エルスの意見がもっともらしく感じた。
「しかし……。お主、それだけ他人の洞察ができるのに、何故神経を逆なでするようなことばかりするのだ?」
「んー、……他人の理解を得るより、自分の考えを実行に移すことを優先してるから、かな。
確かに僕のやってることは、周りに理解を得られないとは思う。でも、何に対してもそう言うことはあるんじゃないかな」
「……?」
エルスの言葉の意味が分からず、晴奈も明奈も顔を見合わせてきょとんとする。
「えっと、例えばね。
僕はセイナじゃ無いから、セイナがいま何を考えて、何を大事にしてるかってことは、予想は付いても、完全に読みきれるわけじゃない。同じようにセイナも、僕の趣味や好きなものは分かっても、僕がいま何を考え、何をしたいかってことは、僕から言わないと分からないだろ?」
「それは……、まあ」
「もちろんそう言うことは、仲良くなっていくうちに自然と分かったりもするだろう。でも、そうなるまでには非常に時間がかかる。すべての人間関係においてそんな過程を経ていたら、その人と一緒にやりたいと思ってることは多分、何もできなくなる。
理解には時間がかかるし、時には到底無理だって言うこともある。莫大な時間をかけてただ理解しようと考えるだけじゃ、時間の無駄遣いさ。だから、理解は二の次。先に、行動を取った方がいいと思うんだ。
第一、行動してその結果を見せた方が、理解も早いだろうしね」
「ふむ……」
感心する晴奈を見て、エルスはまた笑った。
「ま、博士の受け売りだけどね」
それから2時間後。
エルスの言う通り、リストは何事も無かったように夕食の前に戻ってきた。
「ただいまー」
「ああ、おかえりリスト」
エルスが挨拶すると、リストはパタパタと手を振って会釈する。二人があまりに平然としているので、晴奈は思わずリストに尋ねた。
「もし、リスト」
「ん?」
「怒ってないのか?」
「ああ、さっきのアレ?」
リストはまた、手をパタパタ振る。
「毎度のコトだし。そりゃ、ムカッと来るけど蹴っ飛ばせば気、晴れるしね。
アイツのやるコトに一々まともに相手してちゃ、気狂っちゃうわよ。アイツ、頭いいけどバカだし」
「……そうか」
リストの言い草に、晴奈は少し不愉快になった。
(それは、あんまりでは無いだろうか)
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