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3.
「よし!」
倒れこみ、ピクリとも動かなくなった兎獣人を確認し、晴奈は満足げにうなずく。
「全員、集合だ」
晴奈は刀に火を灯し、森の中で待機している剣士たちを呼び寄せる。集合後、明奈とリストが晴奈の元に駆け寄った。
「どう、すごいでしょ?」
リストが自慢げにクルクルと銃を回して見せびらかす。晴奈はその様子に苦笑しながらも、素直にほめる。
「ああ、あれほど遠くから攻撃できるとは。なかなか便利な武器だな、銃と言うのは」
「アンタも使ってみたくなった?」
晴奈はまた苦笑して、刀の柄を叩いた。
「いやいや、私にはこれが一番だ。……さてと」
皆が集合し終えたところで、晴奈が次の行動を命令する。
「雑魚には構うな! 頭を探して討て!」
敵陣と言うこともあり、剣士たちは声を上げることなく、2、3人ごとに固まって四方に散った。残った晴奈と明奈、リストも同様に敵将、ウィルバーを捜索し始めた。
できる限り隠密行動を、と指示してはいたのだが、敵の数が多いためか何班か見つかってしまったらしく、陣内は次第に騒がしくなり始めた。晴奈たちも例外ではなく、何度か教団員たちに囲まれ、その都度応戦しなくてはならなかった。
「くそ……、面倒だ!」
痺れを切らした晴奈は、目の前にいた教団員に向かって飛び掛る。
「どけッ!」
目前まで迫っても勢いを殺すことなく、そのまま突っ込んでいく。
「ぎゃ……!?」
棍を構えていた教団員の腕に脚をかけ、踏み台にして跳び――ついでに頭も蹴って、倒しておく――敵の包囲網を抜けた。
「どけどけッ、邪魔立てすると刀錆にするぞッ!」
寄ってくる敵をかわし、斬り捨て、晴奈は陣内を駆け回る。
「どこだ、ウィルバー! 出て来い! この黄晴奈が相手になるぞ!」
名乗りを上げていると、横からそれに、応える声が飛んできた。
「そんなにオレと勝負したいのか、『猫』ッ!」
晴奈が横を向くと同時に、ウィルバーが駆け込み、棍を放つ。晴奈はそれをかわし、刀を払う。ウィルバーもこれを避け、二人は間合いを取って対峙した。
「久しぶりだな。つくづく、因縁が深いと見える」
「ああ、確かにな。何だかんだ言って、会うのはこれでもう3回目だ」
ウィルバーは妙に、嬉しそうに笑っている。
「2度の戦いで、オレの考え方は劇的に変わった。女と見て侮ることは、もうしない。お前は間違いなく、オレの好敵手、オレの目標だよ」
妙なことばかり言うウィルバーを晴奈は不審に思い、刀を構え直す。
「何のつもりだ、ウィルバー? 一体何が言いたい?」
「ククク……、単刀直入に言おう。オレと組まないか、セイナ?」
「何?」
「お前の妹、メイナのことは良く知っているし、娶りたいとも考えている。もし結ばれればセイナ、お前はオレの縁者になる。そこで黒鳥宮に来れば、お前も教団の権力者だ。さらにオレの片腕になってくれれば、何でも思いのまま、一生栄華を極めていられるぞ。
どうだ、悪い話じゃないだろう?」
そう言って、ウィルバーはニヤリと笑って、右手を差し出す。握手を求めてくるウィルバーをしばらく見つめた後、晴奈はフン、と鼻を鳴らした。
「笑止。お前如き犬っころにくれてやるほど、妹は安くない。何よりお前の右腕などと言う肩書きは、私には吊り合わぬ。地位が低すぎて、食指がピクリとも動かんな」
晴奈の言葉に、ウィルバーの笑顔が凍りついた。
「ク、クク、ク……、そうか、ああ、そうか。あくまでオレに、たてつくと言うんだな?
なら――話は終わりだ! ここで果てろ、セイナ!」
ウィルバーは棍を振り上げ、飛び込んできた。
ウィルバーの初弾を、刀をかざして防ぐ。瞬間、晴奈の両手に重たい衝撃が走り、刀と棍の間から火花が飛び散る。
「む、……ッ!」
受けきれず、体をひねって棍を左に流す。すかさずウィルバーが蹴りを放ち、晴奈のあごを狙ってくる。
「甘いッ!」
向かってきた左脚を紙一重で避け、刀から左手を離し、右手を利かせて刀で鋭い山を描く。その軌跡がわずかにウィルバーの脚を捕らえ、さくさく、と二度斬る。
「……ッ、速いな!」
ウィルバーの僧兵服が避け、ふくらはぎと太ももに赤い筋がにじむ。だがウィルバーはその傷を気にかける様子も無く、棍を手首だけで振って、鞭のようにしならせて突いてきた。
「っと!」
晴奈は刀を構え直して縦一直線に振り下ろし、棍を叩き落す。棍は当たらずに済んだが、刀から金属同士がぶつかる鋭い音と、何かがこすれるような、気味の悪い音が響く。その音が耳に入った瞬間晴奈は舌打ちし、ウィルバーはほくそ笑んだ。
「ハハ……、どうしたセイナ、今の音は何だ?」
「チッ、なまくらめ」
晴奈の刀の、その中ほどの刃が欠けてしまっていた。
「ホント、アンタのお姉ちゃんってこーゆー時、無鉄砲ね!」
「すみません、本当に」
リストたちも敵の包囲を切り抜け、晴奈を探していた。突然晴奈が走り去ってしまったため、リストたちは2人で敵を倒さなくてはならなくなった。この点はリストが射撃の名人であったことと、教団員たちが銃の存在や、その対処法を知らなかったこともあって、難なくこなせたのだが、自分と明奈を無闇に危険な目に遭わせたとして、リストは若干怒っていた。
「大体さ、『メイナは絶対守ってやる』とか何とかカッコつけてたくせに、この前だってアンタをほっといて、タイカと戦おうとしてたんでしょ?
言うコトとやるコトが違うなんて、そこからしてろくなヤツじゃないわ、ホント」
姉の悪口を言われ、温厚な明奈には珍しく、頭に血が上る。
「そんな言い方、無いんじゃないですか? お姉さまは確かに、一人で動くことが多い方ですけれども、心の中では皆さんのことをきちんと考えていらっしゃいます。
リストさんこそ人のことを簡単に悪く言って! それこそ人をろくに見ない、いい加減な方です!」
「何ですって……!」
明奈とリストの間に、険悪な空気が立ち込める。
と、その時。少し離れたところから、強烈に鋭い金属音が響いてきた。
「……!?」「何、今の!?」
まるで分厚い鋼板に散弾を放ったような異様な音で、2人のケンカは中断させられる。すぐに2人は、音のした方に走っていった。
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