[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2.
「アンタら、何遊んでんのよ!」
囲碁の対局が進み、5戦目を迎えたところでリストが呼びに来た。
「ん、何かあったの、リスト?」
「あった、じゃ無いわよ! 敵がもう、すぐそこまで来てんのよ!」
「ありゃ、そっかー……。折角、2勝2敗ってところだったのになぁ。じゃ、また後で続き、やろっか」
「そうだな。きっちり、片を付けたいところだ」
晴奈とエルスは少し名残惜しさを感じながらも、リストの後に続いた。街の南西部へ進みながら、リストに状況を確認する。
「ざっと説明するとね――街の南西門から、約10キロ西南西のところに敵の先発隊が3~4隊いるらしいわ。そこからさらに、南に3キロほど下ったところに本隊が陣を構えてる、って」
説明しているうちに、南西門へ到着する。
「そっか、なるほど。……よし、みんなを呼んで」
エルスは短くうなずくと、周囲の剣士たちを呼び集めて輪を作った。
「それじゃ作戦を説明するから、よく聞いておいて。
敵は恐らく街を囲んでいる壁を崩し、そこから侵入するつもりだろう。でも、あえてそれは放っておこう」
エルスの言葉に剣士たちは驚き、どよめく。
「な、何故?」
「一体、どう言うつもりだ?」
「ま、落ち着いて聞いて、聞いて。
簡単に言うとね、それらと戦っても、相手にはまったく痛手が無いんだよ、『下っ端』だから。それに相手の数は半端じゃない。いくらみんなが体力自慢、力自慢って言っても、数があまりにも多すぎる。全部相手してたら、屈強な剣士といえども、力尽きて倒れるのがオチだよ。
それよりももっと効果的で、敵に大きな痛手を負わせる方法がある」
エルスは懐から書類を取り出し――先ほど書いていた兵法と地図だ――皆に見せる。
「報告によれば、敵の本陣はここから13キロ離れた場所にあるらしい。そこには間違いなく、この大部隊を指揮している者がいるはずだ。で、それを倒す」
「なるほど、頭を叩くと言うわけか」
晴奈の相槌に、エルスは大きくうなずく。
「そう言うこと。教団は人海戦術や物量作戦を得意とする、大掛かりな組織。そう言った組織は得てして『上』の権力が非常に強く、『下』の意思が希薄だ。
だから指揮官を倒してしまえば、残った大部隊は混乱し、その結果、最も執りやすく被害の少ない作戦――撤退を選ぶだろう」
協議の結果、エルスは南西門周辺での指揮を担当し、晴明姉妹とリスト、そして手練の剣士十数名が敵本陣に忍び込むことになった。
晴奈たちは黄海のもう一つの出入り口、南東門から先発隊に気付かれないようにそっと抜け出し、街道を横切って森の中に入り、そこから敵本陣に向かって進み始めた。
「敵が壁を崩すまで、恐らく3~4時間はかかる。それまでに敵本陣に攻め込み、頭を獲るぞ! 全速、前進ッ!」
「おうッ!」
晴奈の号令に、剣士たちは拳を振り上げて付き従う。森の中を分け入り、一直線に西へと進んでいく。
だが、はじめの頃は黙々と付いてきた剣士たちも、時間が経つに連れて段々と、不安を口にし始める。
「本当に、街を放っておいて良いものか……?」
「もし間に合わなかったら、えらいことになるぞ」
「やはり、戻って防衛に努めた方が……」
ブツブツと騒ぐ剣士たちに、晴奈とリストの特徴的な耳が、ピクピクとイラつき始める。その耳に、決して彼女らに言ってはならない一言が飛び込んできた。
「大体あの外人、信用できるのか?」
聞こえた途端、二人はギロリ、と後ろを睨んだ。
「アンタら、ふざけたコトくっちゃべってると、その軽い口ごと、頭吹っ飛ばすわよ!」
「くだらぬ妄想をほざくな、お前らッ! 黙って進め!」
剣士たちはその剣幕に圧され、それきり不安を口にすることは無くなった。
ほぼ同じ頃、ウィルバーはほんのわずかながら、ぞくりと殺気を感じた。
(……? ん……、何だ、今の『気』は?)
くるりと辺りを見回すが、それらしいものは何も見えない。
「おい」
不安を感じ、横にいた従者に声をかける。
「はい、何でございましょう?」
かけたものの、それほど強く不安を感じたわけではないため、やんわりと命じる。
「……ん、まあ、念のため、見回りを強化するよう、皆に指示しておいてくれ」
「はあ……?」
従者は首をかしげ、ウィルバーの言葉を繰り返す。
「見回りの強化、ですか?」
「そうだ。少し、気になってな。まあ、簡単なものでいいんだ」
「必要ないと思われるのですが……。奴らは街を守るので、精一杯でしょうし」
従者の言葉にうなずきかけたが、そこでまた、ウィルバーの心中に不安がよぎる。
「ん……。まあ、確かに、そうかもしれん。だが、少しだけ気になってな。頼んだぞ」
「はあ、そうですか。では、まあ、伝えてまいります」
従者はのそのそとウィルバーの側を離れる。残ったウィルバーは、心の中で毒づいた。
(はっ! まったく、気の無い素振りだな! このオレが、『やれ』と言ってるだろうが!)
ウィルバーから離れた従者は、途端に態度を変えて愚痴をこぼす。
「フン、まったく心配性なお坊ちゃんだ!」
ポットを乱暴につかみ、直接口に付けて飲みだす。
「来るわけない! あんな馬鹿で粗雑な剣士どもが、目先の敵、先発隊を相手にしないわけが無いんだ! 無駄だ、無駄! だーれが、見回りなんかするかっての!」
周りに誰もいないため、従者の愚痴は止まる気配が無い。もう一度ポットを上げて、二口目を飲んでから、さらに愚痴を続けようとした。
ところが顔の上に上げていたポットが、パンと言う音と共に突然、破裂した。当然、中の液体とポットの破片が従者の顔に降り注ぐ。
「ぎえ……!? っちゃ、熱ちちちっ!」
顔を押さえ、何が起こったのか分からずもがく。
だが、その途中で意識が飛んだ――鳩尾を、内臓が飛び出すかと思うほど強く蹴っ飛ばされたからだ。
11 | 2024/12 | 01 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 | 31 |