[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
1.
「どけ、そこの木炭!」
目の前にいる「狼」からの、いきなりの罵倒。男は少し、戸惑ったような挙動を見せる。だが拒否する理由は無いので、男は素直に横へ退く。
「フン」
その黒い狼獣人は肩を怒らせ、男の前を通る。
「一つ聞く」「……ああ?」
問いかけた男に対し、罵倒した「狼」、ウィルバーは横柄な態度で返す。
「余程いらついていると見えるが、それを俺に振る理由があるのか?」
「知るか、ボケ!」
ウィルバーは男を押しのけ、半ば吠えるように怒鳴りつけて去っていく。男は真っ黒な外套に付いた手形をはたき落とし、ポツリとつぶやいた。
「なるほど、な」
「ウィリアム。お前が俺を、遠い央北からわざわざ呼んだ理由をつい先刻、把握した」
「は……」
黒い男は目の前にいる、いかにも宗教家と言った風体の狼獣人に向かって、足を組んだまま話を始める。
「大方、あの『差し歯』の小僧はお前のせがれだろう?」
男よりはるかに老けた容貌の、一見こちらの方が年長者と思われる「狼」が、へりくだったしぐさで男にコーヒーを注ぎながら、質問に応える。
「お気付きでしたか」
「何と言ったか――ああ、そうそう。ウィルマ、だったか――お前の先祖にそっくりだ。その父親は、本当にいい奴だったんだがな」
「は、は……。開祖からご存知だと、家人の話をするのは気恥ずかしくて、どうも……」
「ククク……。何故ウィルソン家は、『極端』なのだろうな」
男は「狼」の注いだコーヒーをくい、と飲み込む。
「極端、と言うと?」
「大体、3タイプに分かれている。
一つ、お前のように、素直で親しみの持てる奴。
一つ、ワーナー、それと最近では、ワルラスだったか――狡猾で、打算的な奴。
そしてお前のせがれのように、粗暴でやかましい奴。……何年経っても、この手の輩は相手が面倒でたまらん」
男はまた、鳥のようにクク、と笑う。
「本当に、不肖のせがれでして……」
平身低頭し、恥ずかしさを紛らわせていた「狼」は、そこで男のカップが空になっていたことに気付いた。
「あ、タイカ様。お代わりは、如何でしょう?」
「ああ、ぜひいただこう」
黒い男――克大火はニヤリと笑って、カップを差し出した。
「もし開祖が1番目のタイプで無かったら、俺はこうしてここで、うまいコーヒーを飲むことは無かっただろうな、クク」
516年初めの黄海防衛戦に端を発した央南抗黒戦争は、焔流の実力とエルスの優れた戦略、黒炎教団の豊富な資産と人員が拮抗し合い、半年が過ぎた516年夏になってもなお、続いていた。
焔流剣士たちの実力、またエルスの手練手管をもってしても、この膠着状態から抜けられずにいたため、エルスと晴奈、紫明の3人は黄屋敷にて、打開策の検討を行っていた。
「やっぱり、こちら側の一番のネックは、人員の少なさにある。みんな、かなり疲労の色が濃い」
「そんなことは無いはずだ。我々は鍛え方が……」「そう言う問題じゃないよ、セイナ」
卓から半立ちになった晴奈を、エルスが抑える。
「若手や壮年の剣士たちの中には、ほとんど身動きできなくなっている人もいるらしいじゃないか。この半年ほとんど、休むことなく戦い続けているんだからね。
言い方は少し悪いけど、『手駒』がいない。教団の下っ端みたいに、いわゆる『歩』の役割をしてくれる人がいないから、将や班長クラスの人間を、歩兵と兼用で使っている状態だ。人使いの荒い今の状況じゃ、優秀な人材もいずれ潰す羽目になって、押し切られてしまうよ」
「ふむ……」
話を聞いていた紫明は、少し考え込む様子を見せる。
「父上、何か策が?」
「ああ、うむ。晴奈、私が央南連合の一員であることは、知っているだろう?」
「央南連合? 確か央南の、政治同盟……、でしたね?」
エルスの問いに、紫明はうなずく。
「うむ。そこに人員を貸してもらうよう、頼んでみるのはどうだろうか」
「なるほど。確かに連合の軍なら、かなりの戦力になりますね」
「黒炎と戦っていると告げれば、手も貸してくれるだろう」
晴奈も賛成する。エルスはうなずき、その案を採った。
「よし、それじゃ早速、お願いに行きましょう」
12 | 2025/01 | 02 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |