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3.
その後も大火はウィルバーに気付かれること無く、監視を続けた。
(あいつ、本当にウィルソン家の人間か? これほどの愚物とは……)
兄弟や親、親類のいる前ではそれなりにへつらっているが、その目の届かないところでは途端に態度を変える。いばりちらし、女を口説き、おまけに教団で堅く禁じているはずの酒も隠れて飲んでおり、やりたい放題であった。
「そうですか……」
教主、ウィリアム・ウィルソン4世は大火の報告を聞いた途端顔を覆い、がっくりとうなだれる。
「では、契約の履行と……」「ああ、それについてだが」
頭を垂れかけたウィリアムを、大火が止める。
「せがれの不祥事を、親のお前が尻拭いするのは解決にならんだろう? あいつ自身で、その債務を払わなければ、反省には結びつくまい」
「と、言うと」
「自分が出したツケは、自分で支払わせるのが筋と言うものだ。
契約は、あいつに履行してもらうとしよう。まあ、何を支払ってもらうかはいずれ、本人に伝えておく」
「契約って、タイカの口癖なんですよねー」
エルスは検討のために用意された個室で、話を切り出した。
「教団の教義にもなっています。曰く、『契約は公平にして対等の理』とか。今どきそんなことを言うのは真面目な商人か、教団員くらいです」
「話が見えないのですが」
紫明がけげんな顔をしている。
「ああ、はい。アマハラって人は、怪しい。
僕らの頼みをあれこれ言い訳して、すんなり聞いてくれないこと。
わざと仕事を長引かせ――あれらはちょっと仕事のできる人なら、とっくに終わっているような簡単な作業でした――連合の活動を停滞させていること。
参謀の僕を引き抜こうとしていること、それから教団みたいな、交換条件と言う回りくどい手を使うこと」
「では、まさか……」
晴奈には、エルスが言わんとすることが察せられた。
「教団員じゃないかと、アマハラさん」
「ば、バカな!」
紫明がバンと、卓を叩いて否定する。
「か、彼は連合の主席ですぞ!? も、もしも彼が教団の者だと、言うのならば」
「それに、そう考えると納得が行くんです――昔、加盟州である黄海を占領された時、連合がまったく手助けしなかった、その理由が」
「あ……!」
エルスの論拠を聞き、紫明の顔が青ざめる。
「ま、まさか……、そんな」
話を聞いていた晴奈の顔が、そこでより険しくなる。
「そう言えば昔、天原氏についてある話を聞いたことがある」
晴奈の脳裏に、4年前の事件が蘇ってきた。
「昔遭った妖怪が、天原某と言う人物の成れの果てで、この天玄から来たとか。そしてその時、……確か、あれは良太か」
「リョータ?」
「私の元、弟弟子だ。良太はその妖怪から、『兄に呪いをかけられた』と聞いたそうだ。そしてもう一つ、天原家の跡目争いがこの事件の前に起こっていたそうだ」
エルスは一瞬あごに手をあて、指を立てる。
「跡目争いって……、もしかしてお兄さん、つまりケイさんが弟に呪いをかけて、妖怪にして追い出して天原家を継いだ、……ってこと?」
「ああ、まあ……、うわさだがな」
「はー、そっか。……はは、ドロドロした話だなぁ」
エルスは苦笑しつつ、困った声を出した。
とりあえず天原には「話がまとまらないので、もう一日協議する時間を欲しい」と返答し、晴奈たちは天玄館を後にした。
「もしかしたら連合を操って、政治的にも央南を支配しようと企んでいるのかも」
「何と……!」
エルスの推察に、紫明はうなるように嘆く。
「うーん。こんなこと考え付くのは多分、ワルラス卿かな」
「知っているのか、エルス?」
晴奈の問いに、エルスは手を振って否定する。
「ああ、名前と、評判くらいしか知らないけどね。
ワルラス・ウィルソン2世。黒炎教団教主の弟で、いま52、3くらいの狼獣人。央南方面の布教を任されてる大司教だよ。かなり頭が良くて、非常に狡猾な性格だとか」
「ワルラス……? ああ、そう言えば昔、うちに送られた文で見た覚えのある名だな」
「兄上。何か隠しごとをなさっておいでですな」
「な、何を言うんだ、ワルラス」
大火が帰った後、ウィリアムは弟、ワルラスに問いつめられた。根が正直なウィリアムは傍目に分かるほど動揺する。
「大方、ウィルバーのことで何か画策しているのでしょう。確かに彼に対して、あまりいい評判を聞きません。最近では何か、手痛い敗北を喫したとか。最近の荒れ様もきっと、そこに原因がある」
「まあ、そうだろうな。だが最近のあいつは、少々目に余るところが……」「まあ、まあ」
嘆くウィリアムを、ワルラスがなだめる。
「人間、時には勢いを落とし、愚かしく惑う時期もあるでしょう。大成する者なら、なおさら。きっとウィルバーも、そんな時期に入っているのですよ」
「そう、だろうか」
「そうですとも! これは彼に与えられた試練、そう思って気長に見ておやりなさい」
「……うーむ」
ウィリアムは小さくうなずき、その場を後にした。
ウィリアムの姿が見えなくなってから、ワルラスは静かに眼鏡を直しながら、ぼそっとつぶやいた。
「……アンタは黙って、おろおろしてりゃいいんだ。どうせ大したことも、できやしないんだから」
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