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4.
2日歩き通し、晴奈はようやく、街道を進んでいた柊に追いついた。
「……!?」
あちこち土で汚れ、擦り傷だらけになった晴奈に会い、柊はとても驚いていた。
「晴奈ちゃん、なの?」
「はい。柊さん、私を、……弟子に、してください!」
晴奈はいきなり柊の前に座り込み、深々と頭を下げた。
「ちょ、ちょっと、晴奈ちゃん。あの、困るわ。私も、修行中の身だから」
「お願いします!」
「いや、あの、うーん……。あ、そうだ、お家の方と相談して……」「縁を、切りました」「え!?」
晴奈の言動に、柊は目を丸くし、言葉を失ってしまった。
柊は何とか説得しようとしたが、結局、晴奈の熱意と意気込みが伝わり、「私も修行中の身であるし、私が稽古を付けることはできない。ともかく、私の師匠の所へ行きましょう。その人なら、十分晴奈ちゃんが納得するように、修行を付けてくれる」と柊に説得され、晴奈はそれを呑んだ。
そして2人で街道を南へ下り、1週間後――2人は岩山に建つ、巨大な館の前に立っていた。
「ここが、私の属する剣術一派、焔流の総本山であり、央南各地の剣士が修行の場にしている場所――通称『紅蓮塞』よ」
「ここ、が……」
その建物を見上げ、晴奈は思わず息を呑む。建物全体から、ビリビリと迫力が伝わってくる。そこはまさに、霊場と言っても、過言ではなかった。
「さ、入るわよ」
「あ、は、はい!」
雰囲気に圧倒されながらも、晴奈は勇気を奮い立たせて、柊に付いていった。
紅蓮塞の中には修行場があちこちにあり、どこを見ても剣士たちがたむろしている。何年もここで修行をしていた柊は動じていないが、初めて入った晴奈は、不安でたまらなかった。
「あ、あの……」「ん?」「……いえ、何でも」
だが、その不安を口にすれば、最初は柊に反対されていたのだから、「やっぱり無理よ」と言われ、引き返してしまうかもしれない。じっと黙って、柊の後を付いていった。
やがて、柊は大きな扉の前で立ち止まり、晴奈に振り返った。
「ここが、私の師匠――現焔流の家元、焔重蔵先生のお部屋よ。気さくな方だけど、礼儀には厳しいから、気を付けてね」
「はい……」
柊は少し間を置き、すっと扉を開いた。
部屋の奥で、人間の老人が正座して、本を読んでいた。
「ん……?」
柊たちに気付き、老人は眼鏡を外して顔を上げる。一見、ただの好々爺のようだが、目が合った瞬間、晴奈はダラダラと冷や汗を流した。
(『熱い』……!?
何だろう、この人――まるで、燃え盛る炎が、すぐ近くにあるみたい)
「おお、久しぶりじゃな、雪さん」
「ご無沙汰しておりました、家元」
柊は深々と頭を下げ、師匠、重蔵に挨拶した。重蔵は座ったまま、ニコリと笑って応える。
「おう、おう、そんな大仰にせんでもいい。……ところで、その『猫』のお嬢さんは?」
「はあ、実は……」
柊は重蔵に、晴奈が焔流に入門したい旨を告げた。すると重蔵は、何も言わず、あごを撫でながら空を見つめている。
「ふむ……」
「どうでしょうか、家元」
「まあ、そうじゃな。まずは、試験を受けさせて見なければ、何とも言えんなぁ。何をおいても、まず資質が無ければ、うちの剣術を身に付けることは、できんからのう」
そう言って、重蔵はすっと立ち上がり、背後に飾っていた刀を手に取った。
「まあ、魔力が高いと言われておる『猫』さんじゃったら、その資質も、申し分は無いじゃろうけども――これは、最初に言っておかなければのう」
重蔵はそこで言葉を切り、柊と晴奈を手招きした。2人は部屋の真ん中に座り、重蔵をじっと見る。
「うちの流派は、その名も『焔流剣術』――読んで字のごとく、焔、つまり火を操る剣術なのじゃ。……このように、な」
重蔵の構えた刀の切っ先に、ポン、と火が灯った。
「……!?」
晴奈は声も出せないほど驚いた。灯った火はそのまま、するすると刀を走っていき、刀全体が火に包まれる。そのまま重蔵は、上段に剣を構え、振り下ろした。
「やあッ!」
振り下ろされた刀から火が飛び、そのまま床を走る。ジュッと床が焦げる音がし、壁際まで火が走り、燃え広がることも無く、すぐに消えた。
「あ……、あ……」
「これこそが焔流剣術の真髄――刀に火を灯し、剣閃に炎を乗せ、敵を焼く。もちろん、本来の剣術の腕も、不可欠。
剣を極め、焔を極める。晴さん、君にその覚悟は、あるかな?」
重蔵は刀を納め、晴奈に笑いかけながら問いかける。晴奈は黙ったまま、コクリとうなずいた。
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