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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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扇子、子狐、二つ目の結末

深草さんのお話、17話目。
葛葉ちゃんサイドも、これでおしまい。



今さらですが。
これら一連の話に、ちゃんとタイトルを付けました。
(1話目ができてから、すでに半年と言う遅さは、ご容赦いただきたいところです)
これからは、「京都環屋奇譚」で、よろしくお願いします。

そもそも、なぜ16話一気に訂正しなきゃいけない事態に、自分を追い込むのか。
なぜなら、次の小説があるから。
全部ひっくるめて「小説」カテゴリじゃ、読みづらいかなと思いまして。

と言うわけで、黄輪先生の次回作にご期待ください(t

   扇子、子狐、二つ目の結末

 

 千穂騒ぎも終わり、あたしはようやく、神奈川に帰れた――たった一泊二日の出来事なのに、まるで何週間も過ごしたような気分だった。

「ほな、さよなら、葛葉ちゃん」

 円ちゃんが、京都駅まで付き添いと、見送りをしてくれた。夕べの騒ぎから、あたしたちはとても仲良くなっていた。深草さんのお家に泊まり、一晩過ごしたことで、何だかもう、親友のようになっていた。

「ありがと、円ちゃん。……本当に、ありがと」

「うん、……うん」

 ホームにベルの音が鳴り響く。間も無く、出発だ。いよいよ、円ちゃんとも、お別れだ。

「その、……また、来ても、いい?」

「ええよ、また来て。うち、ずっと待ってるさかい」

 円ちゃんは涙目になっている。あたしも、気を抜くと泣きそうだ。と、円ちゃんが着物の袖から、何かを取り出した。

「あ、これな。お母さんから、渡して、って」

 円ちゃんが渡したのは、長方形の小箱だった。中身を聞こうとしたが、タイミング悪く、新幹線の扉が閉まってしまう。そしてゆっくりと、動き出す。

 円ちゃんは、突っ立ったまま、ブンブン手を振っていた。あたしも扉に張り付きながら、目一杯手を振った。

 

 京都駅が見えなくなったところで、あたしはとぼとぼと車内を歩き、席に着いた。

「何だろ、これ」

 小箱をそっと開けると――扇子が入っていた。開いてみると、竹林と、とても可愛い、子狐の絵が描かれていた。

「これも、きつね、ごせん、かな?」

 パタパタと、自分の顔を扇いでみる。心地のいい風と、白檀の香りが、あたしの心を和ませる。

 そしてそのまま、すうっと、眠りに就いた。

 

 

 

 夢の中で、あたしは竹林にいた。いかにも「和」って感じの、静かな場所だった。竹林の間を通っている細い道を、何気なく歩いてみる。さらさらと、風で竹が揺れる音が心地よかったが、その反面、なぜだかとても、切なくさせた。

「誰か、いない?」

 声をかけるが、応えてくれる人はいない。ただ、さらさらと、竹の音だけが聞こえる。不安になって、もう一度、呼びかける。

「誰か、いないの?」

 返事は、返ってこない。

 

 あたしは途端に心細くなり、細道を走った。でも、どこまで行っても、終わりが無い。ずっとずっと、竹林ばかりが続いている。

「誰か、返事してよ!」

 たまらず叫ぶ。返事は無い。

「誰か、いないの!?」

 さらさらと、竹の音。

「誰か!」

 さらさら。

「誰か……」

 やがて風も止まり、音がやんだ。あたしは泣いていた。

「誰か、いてよ……」

 

 きゅう。

 背後で、何かの鳴き声が聞こえた。振り向くと、そこには子狐がいた。

「あ……」

 子狐はじっと、あたしを見ている。近づくと子狐は、前を向いたままで、器用に一歩、後ろに下がる。

「待って」

 待ってくれない。また一歩、下がる。

「待ってよ」

 子狐は後ろを向いてしまう。

「待ってってば!」

 あたしは走り出す。子狐も走る。

 

「待ってよ、待ってったら!」

 今来た細道を、走って戻る。子狐はドンドン走って、距離が開いていく。

「待ってよ、助けてよ!」

 あたしを一人にしないで。こんな寂しいところに、一人は嫌だ。

「待ってってば、マジで、待ってよぉ」

 嫌だ、嫌だ!

「待って、待って!」

 さらに距離が開く。とうとうあたしは、子狐を見失ってしまった。もう、辺りは暗くなっている。真っ暗な竹林の中で、あたしは一人、佇んでいた。

「待ってよぉ……」

 

 くい、とあたしのジーンズが引っ張られる。足元を見ると、さっきの子狐がいた。

「あ……」

 今度こそ、逃がさない。あたしは素早く、子狐の体をつかんだ。

「捕まえた!」

 ガッチリとつかみ、その体を抱きしめる。すると子狐は、ぽつりとつぶやいた。

「寂しいのは、嫌じゃ」

 子狐はしゃべりながら、嗚咽をあげる。

「一人ぼっちじゃ。なぜわしは、こんな寂しいところにおるのじゃろ。一人でこの竹林を、さまようておる」

「あんた……」

 このしゃべり方。まさか――。

「姉上、ずっと抱きしめてたもれ。寂しいのは、嫌じゃ」

 その時、どこからか、くぐもったような声が、いくつか聞こえた。

 

(何でそんな風に……?)

(さっぱり分からへんなぁ)

(体の方はどうなってます?)

(アカンなぁ、完璧にただのケモノや。元に、戻らんのとちゃうか?)

(どないしましょう、こっちは)

(子狐の絵に憑いたんやろし、子狐になっとるんやろ。害も無いやろ、多分)

(ああ、何か泣いてますわ)

(子狐になったから、甘えん坊さんになっとるんかも、しれへんな)

(うーん。どないしましょかねぇ)

(そや、あの子に持っててもらうんは、どや?)

 

 

 

 そこで、目が覚めた。どうやら、扇子を抱きしめて、眠っていたようだ。ふたたび扇子を開くと、さっき見た時と同じように、子狐が描かれているのが目に入った。

「あれ?」

 でも、絵柄が少し、違う――さっきは立っている絵だったはずだ。でも今は、少し悲しそうな顔で、丸まって眠っている。

「……あははっ」

 笑いが、こみ上げてきた。そうか、こんなに可愛くなっちゃったのか。

「……今度は悪さ、しないでね」

 

 この扇子は、それからずっと、あたしが肌身離さず持っている。少しでも放っておくと、夢の中で大泣きしてくるからだ。

 百穂扇――そう名前を付けた扇子は、今でもお守りとして、大事に持っている。

 

扇子、子狐、二つ目の結末 終

橋本葛葉と狐護扇 完

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