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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・逢妖録 8

晴奈の話、44話目。
三人旅の終わり。

この世界の暦について補足説明。
基本は太陰暦(月の満ち欠けで日にちを数える暦)です。
また、この世界には白い月と赤い月の二つが存在し、
両方の月が満月になる日が「双月節」、つまり元旦です。
うるう年もあります。

2008.7.15 修正。



8.

 確かめるまでもなく、イチイは死んでいた。

 この惨劇と、想像を絶する天原家の「死刑執行」に恐れをなした自警団員たちは、緘口令を敷いた。妖怪が出たこと自体は隠さなかったものの、この地で捕まえたこと、また、その正体については、一切口を閉ざすことにしたのだ。

 晴奈も良太も不満ではあったが、家屋を気配も無くぶつ切りにする相手では、手も足も出ない。いずれ何かの機に恵まれるよう、口をつぐむしかなかった。

 イチイの死体は、秘密裏に埋葬された。

 

 

 

 イチイの墓の前で、良太は泣いていた。

「イチイさん……」

 ぐすぐすと鼻声で、ずっと名を呼んでいる。と、そこへ誰かがやってくる。

「あ……」

 それは棗だった。棗は良太と同じように墓の前に座り、手を合わせた。

「あの、何故泣いていらっしゃるのですか?」

「え?」

 棗は手拭を差し出しながら、不思議そうな、そして悲しそうな顔で尋ねる。

「この、櫟と言う方はあなたにとって、縁もゆかりもない人ですよ。それなのに、何故?」

「イチイさんは、僕を襲いませんでした。それに、鎖を解いた時、ありがとうと言ってくれましたし、名前も、覚えてもらって……」

 良太は手拭を受け取り、涙と鼻水を拭く。その様子を見ていた棗は、悲しげな顔のまま、くすりと笑う。

「……お優しい方ですね。うちの人も優しいけれど、あなたの優しさは一層、骨身に染み入るよう」

 棗は墓に手を添え、涙を流した。

「この方の言葉が正しければ、この人はわたくしの従兄弟でした」

「え……」

「この方もお優しい方で、幼い頃から良くしていただきました。頭も良く、きっと次の天原家当主はこの方になるだろうと、囁かれていました。

 ……きっと、この方を妖怪に仕立て上げたのは兄の、天原桂おじ様。櫟おじ様と同じくらい頭は良かったのですけれど、とても偏狭なお方でした。わたくしも櫟おじ様も、桂おじ様を嫌っていました。

 ですからわたくしは天玄を出たのですけれど、おじ様は、逃げることができなかったのでしょうね」

 棗は立ち上がり、その場を後にしようとした。

「あ、あの、棗さん」

「はい?」

「……その、何と言えばいいか」

 棗は振り返り、ふるふると首を振って、優しく返した。

「いいえ、お気になさらないで。櫟おじ様もようやく楽になれたのですし、わたくしももう、天原棗ではございません。呪われた血筋とは、無関係です」

 そしてまた、踵を返す。良太に背中を向けたまま、棗はこう、言い残した。

「そっと、しておいてくださいませ」

 

 

 

 

 たった二日、三日の滞在だったが、晴奈たちにとってはとても、中身の濃い旅になった。

「何だか、どっと疲れてしまいました」

「そりゃ、昼夜逆転してた上に鼓膜破れて頭痛めて、ってなれば疲れもするわよ」

「そうですよね、はは……」

 帰路に着いた晴奈たちは、途中で良太の元気が無いことに気付いた。

「良太、どうした?」

「……いえ、何でも」

「無いわけないじゃない。顔、青いわよ」

 柊がぺた、と良太の額に手を当てる。

「……あら、今度は赤くなった。風邪?」

「い、いえ、それは、先生が」

「あら、わたしが、……どうしたの?」

 柊はいじわるっぽく笑っている。傍目に見ればこれも、弟をからかう姉、と見えなくも無い。しかし晴奈は、柊のわずかな不自然さを見抜いていた。

(……師匠も、何だか顔に赤みが。旅の疲れで熱、出たんじゃないだろうか)

「あ、晴奈。置いてかないでよー」

 いつの間にか、晴奈が二人の前に出ている。それに気付いた柊が、またもイタズラっぽい声を出す。

「おっと、失礼しました。……みんな疲れていることですし、早めに帰りましょう。双月節も間近ですし」

「あら、そう言えばそうだったわ。早くしないと年が明けちゃうわね。

 よーし、急いで帰りましょ、晴奈、良太!」

「はいっ」

 駆け足になる柊に応え、晴奈と良太も走り出した。

 

蒼天剣・逢妖録 終

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