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3.
晴奈たちはその日から妖怪討伐に参加した。
夕暮れになってから天神川のほとりにたむろしていた討伐隊に合流し、謙と柊、晴奈、良太の4人で捜索することになった。
「魔術まで使うと言うからな。気を付けろよ、みんな」
「ええ」
「分かりました」
柊と晴奈は戦い慣れしているせいか、割と落ち着いている。
「りょ、了解です」
良太はやや怯えがちに、晴奈の袖をつかんでいる。
「良太、動きにくい」
「す、すみません」
謝りながらも、袖から手は離さない。その様子を見ていた謙はぷっ、と吹いた。
「はは、しっかり者の姉と気弱な弟、って感じだな」
「ふふ、そうね」
「勘弁してくださいよ……」
晴奈は片袖をつかまれたまま、左手をパタパタ振る。その様子を温かい目で見ていた謙は、深々とうなずいている。
「いいなぁ、そう言うのも。次は男の子もいいなぁ」
「謙、本当におじさん臭いわよ、クスクス……」
「へへ、そりゃおじさんだしな。お前だって、もう30じゃなかったか?」
柊はすまし顔で、謙に返す。
「エルフは長生きなの。あと20年は若者よ、うふふ」
「はは、そりゃうらやましい」
二人の笑い声で、良太も緊張がほぐれてきたようだ。晴奈から手を離し、話に加わる。
「本当に、先生は綺麗な方ですよ」
「え?」「へ?」
突然、会話が止まる。晴奈は心の中で呆れている。
(こいつ、空気読んでないな。突拍子が無いにもほどがある)
「ああ、どうも、ありがとね」
とりあえず、柊は礼を言う。謙はニヤニヤしている。良太もとりあえず笑ってはいるが、空気がおかしくなったことに、ここでようやく気付いたようだ。
と――遠くから、叫び声が聞こえてきた。
「な」
「何だこりゃ?」
「凍って、……る」
「大丈夫ですか!?」
叫び声を聞きつけた4人が現場に向かうと、辺りはすでに惨状となっていた。暮れとは言え、まだ雪の積もらない時期である。ところがその一帯は氷に覆われ、凍り付いているのだ。辺りにはチラホラ人が倒れており、その体には霜が分厚く降りている。
「た、大変! 助けなきゃ!」
「ええ!」
「待った!」
凍りついた者たちを助け出そうとする柊と良太を、謙が止める。
「……いる。すぐ、近くに」
晴奈もその気配を感じ取り、刀を抜いて構える。良太はまだ、うろたえたままだ。
「え、え?」
「良太、わたしの後ろにいなさい。……来るわ」
柊がそう言った瞬間、木々を裂いて、巨大な狐が飛び込んできた。全体的に白く、耳と尻尾の先や手足がわずかに桃色を帯びた、体長2メートルはあろうかと言う大狐だった。
「ひゃああっ!?」
叫ぶ良太を気にとめず、晴奈が斬り込む。
「そらッ!」
「ギャアアッ!」
晴奈の刀を避け、大狐はボソボソと何かを「唱えた」。
「……『アイ、ス……、ジャ、ベリ……、ン』!」
「な……!?」
柊が驚き、叫ぶ。晴奈は着地直後で、動けない。大狐の背中辺りに氷の槍が形成され、晴奈に向かって飛んできた。が――槍は晴奈から大きくはずれ、後ろの木に当たる。
「……え?」
てっきり飛んでくると思い、身構えていた晴奈はあっけに取られる。
「……グルルル」
「また来るぞ!」
今度は大狐の周囲に、拳大の雹が十数個現れ、四方に飛び散る。
「うわああ!?」「動かないで、良太!」
今度も、命中精度は低い。ほとんど四人に向かうことなく、地面や木々にぶつかり、はじけていく。
「何だ……?」
「使えはするが、当たるまでは行かないらしい。っと、またかよ!?」
大狐は謙に向き直り、また氷の槍を発射した。
「チッ……! 『火射』!」
いち早く反応した謙が焔流の炎でその槍を溶かし、消滅させる。
「グア!」
大狐は舌打ちをするように吠え、ぴょんと跳んでその場から消えた。
「な、何なの……!? 今の、魔術だったわ、よね? まさか本当に、魔術を使うなんて」
「まあ、あの通りだ。使うんだ、本当に。
……っと、こんなこと話してる場合じゃない! まだ助かるかも知れない」
謙は刀をしまい、周りに倒れている者の救助に向かった。
結局大狐は捕まらず、また、凍傷によるケガ人こそ出たものの、凍死した者はいなかった。
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