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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・悪夢録 3

晴奈の話、83話目。
黒の中の黒。
 
 
 

3.
(克、大火が、ここに……!?)

 その名を聞き、晴奈の心はひどく高揚する。

「明奈……。悪いが、付いてきてくれ」

「お姉さま?」

「ここに置いていけば、危険だ。……でも」

「でも?」

「……」

 無意識に、足が動く。明奈の手を引いたまま、燃え上がる野原に歩き出す。

「お姉さま……?」

 不意に、免許皆伝の試験を受けた時、重蔵と話したことが思い出される。

――意味も無く戦えば、無為――

――無意味な戦いは、失わせる――

――戦いを繰り返せば、行き着く先は修羅の世界――

(だが、見てみたい……! 克大火は無双の剣豪と聞く。本当にいるのなら、一体どのような奴なのか、この目で確かめたい。

 そして、機、あらば――戦ってみたい)

 晴奈の剣士としての興味、誇りが刺激される。

 すでに明奈はここにいるし、安全な場所に逃げれば、それで終わる話だ。戦う意味は、無い。それでもこの先にいると言う剣豪を、この目で見てみたい。そんな思いが、晴奈を突き動かしていた。

 

 意味の無い戦いであるとしても、晴奈はなぜか、戦いに惹かれるのだ。

 理性では無駄な戦いはしてはならないと考えていても、心のどこかで戦いへの欲求がある。だがそんな欲求など、今まで師匠や友人たちと一緒にいる時、表面に出したことは無い。それどころか、自分自身もそんな恐ろしい感情は、今の今まではっきりと自覚してはいなかった。

 しかしこの時、晴奈ははっきりと己の心の中に潜む「戦うこと自体への欲求」があふれ出るのを、ひしひしと感じていた。

(私は、修羅になりかけているのかな)

 

 

 

 目の前に、それはいた。

 爪先から髪、皮手袋、衣服や肌の色まで全身真っ黒な男が、そこら中に倒れた剣士たちから流れるおびただしい血と、周囲の草木やあばら家を焼く炎が撒き散らされた焼け野原の前で、エルフの老人を背後から突き上げている。

「俺に敵うと思っていたのか?」

「が、ふ……」

 男は老人をゆっくりと――周囲を焼き、何人もの人間を惨たらしく殺した者が、同時にこれほど優雅な動きを見せるのかと、晴奈は怖気を感じた――地面に横たわらせる。老人は背中から胸にかけて、老人が使っていたであろう魔杖で貫かれている。どう見ても、致命傷だ。

「まあ力量は、認めてやろう。……俺としたことが、少し手間取ってしまったからな」

 男はそう言うと老人の前で屈み込み、両手を合わせた――彼なりの、弔いなのだろうか。

 老人は、ナイジェル博士その人だった。

 

 いつの間にか、明奈はいない。どうやら怯え、どこかに逃げたようだ。だが――あれほど妹を心配した者とは同一人物と、自分でも思えないくらい――晴奈は安心していた。

(邪魔は、消えた)

 晴奈は一歩、前へ踏み出す。

「……克、大火殿とお見受けする」

 屈み込んでいた男が、背中を見せたまま立ち上がる。背の高い晴奈よりさらに頭一個ほど高い、かなりの長身。ただ立つ、それだけで胃をつかまれるような凄味がある。

「いかにも」

「た……」

 晴奈は何か言葉を発しようとしたが、胸中が定まらない。自分でも何を言おうとしたのか分からないまま、言葉が途切れてしまった。

「た?」

 大火が何の感情も込めない声で聞き返してくる。晴奈は何とか頭を動かし、口上を作る。

「……そこの御仁は、私の妹の恩人だ。それを殺したお前は、私の仇……」「ほざくな、戯言を」

 その一言に、晴奈は身震いした。大火はクックッと、鳥のように短く笑う。

「お前な。嘘はもう少し、うまくつけ」「……!」

 大火はくるりと身をひるがえし、顔を見せた。細い目と、その中にある暗黒の瞳からにじみ出る、冷たく重苦しい眼光が、晴奈を射抜く。

「口では仇だの、敵だの言っているが、心は燃えている。とても怒りや悲しみ、雪辱の念を抱いているとは思えんな」

「で、ではっ、どうだと言うのだ!?」

 心の中に、一歩、また一歩と踏み込まれていく感触を覚える。

「喜んでいる。まるで世紀の財宝を見つけた冒険者だ。俺に会えたのが、それほど嬉しいか」

「ち、違う! 私は……」「いいや、違わない」

 大火は実際に一歩、晴奈に向かって踏み出す。その一歩が、晴奈にとっては心の奥底に踏み込まれるような印象を受けた。

「隠すな、『猫』。狩猟動物の血が、お前には流れているのだろう? お前は今、俺と戦いたがっているのだ。

 そう、『これほど手ごたえのある獲物は、二人といない。例えこの戦いが意味を持たずとも、ただ純粋に、当代最高の剣士と仕合ってみたい』と、考えている」

「あ、う……」

 一言一句に至るまで心のうちを読まれた晴奈は、全身を何百、何千もの針で突き刺されるような恐怖を覚えた。

(ダメだ……! 勝てない! 彼奴は私のはるか上から、私を見下ろしているのだ!

 どうやって地上を這う猫が、天空を翔ぶ大鴉を仕留められよう……!)

 みるみる、晴奈の気力が削がれる。抜こうと手をかけていた刀が、抜けなくなる。足がガクガクと震え、立っているのさえやっとだ。その様子を眺めていた大火は足を止め、またクックッと笑った。

「臆したか。ならば戦う理由は何もあるまい。こちらとしても、この地での『散策』に概ね満足したのでな。

 では、失礼する」

 

 

 

 気が付けば、晴奈は博士の骸の前に座っていた。後ろから、声をかけられる。

「セイナ、タイカはどこ!?」

 リストの声だ。晴奈は振り向こうとしたが、できなかった。

 泣いていたからだ。

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