[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2.
「くそ……。何故あんなに、人が並ぶものか? おかげで30分も待たされてしまったではないか。明奈も待ちわびているだろうし、早く戻らないと」
昔からのクセか、晴奈は歩きながらブツブツと文句を言っている。そんな具合で菓子袋を抱え、黄屋敷に戻ると――。
「……!?」
妙に黄屋敷の周りが騒がしい。そして、平和な街中に似合わぬ臭いが漂ってくる。
(血の臭い!?)
何が起きたか瞬時に察し、晴奈は血の気がざーっと音を立てて引いていくのを感じた。
(おいおい、冗談だろう!? 何故、私のいない時に限って!)
人をかき分け、屋敷の門を潜って中に押し入る。
庭や屋敷の広間、そして応接間などに剣士たちが固まっている。現状を把握しようと、彼らの声に耳を傾けたが――。
「黄大人の娘御がさらわれたそうだ! 相手は黒炎の奴らに違いない!」
「早く助け出さねば!」
「助け出した者には褒美があるとか」
「何? 金か?」
「いや、この事態だ。ご令嬢を……、かも知れんぞ」
「おお、まことか!?」
「そうなれば、家督も……」
彼らの勝手な話に、晴奈は憤慨した。
「このたわけッ! 金や女目当てでここに来たのか、お前らッ!」
「うひゃ……、あ、先生」「とっとと散れッ!」「は、はいっ」
(人の妹を褒美だと!? モノ扱いするとは、馬鹿者どもめ! まったく、修行が足らぬ!)
心の中で怒り散らしながら、晴奈は剣士たちを押し分けて応接間に入る。騒ぎを聞きつけたらしく、そこにはエルスとリスト、そして博士の三人が、頭に包帯を巻いた紫明と向かい合って座っていた。
外の様子を眺めていたエルスが晴奈に気付き、苦笑しつつ指摘する。
「なーんかさ――確かに敵だからって言うのもあるけど――よく見ると、騒いでるのは男ばっかりだよね。もしかして……」
「そう。明奈狙いだ」
晴奈はそれに憮然とした口調で答えた。
「どこから広まったのか……。『ここで明奈を助け出せば、自分が婿になれる』とか言った奴がいたらしくて――確かに可愛いから、明奈――しかも、婿になれば黄家の財産も手に入る」
「美少女と家督狙いか。さもしいのう」
博士もエルス同様、呆れた目で剣士たちを眺めていた。と、ここでエルスが、晴奈が今まで不在だったことに気付く。
「あれ、セイナはいなかったの?」
「ああ、用事から戻ってきた途端にこの騒ぎだ。まったく、私も明奈もつくづく運が悪いよ。何だって、私のいない時にばかりさらわれるんだか」
エルスの問いに、晴奈は自嘲気味にため息をついて答えた。
紫明の話では、教団員たちは明奈だけを連れて逃げ去ったと言う。だが、つい数十分前の話であり、焔流の剣士たちも街の自警団と共同で、厳戒態勢を敷いて街中を巡回している。
この警戒の中、まだ日の高いうちに街の外に出るのは難しいため、黄海のどこかに潜んでいるだろうとの博士の予測により、何班かに分かれて街を捜索することにした。
(明奈、無事でいてくれ……!)
晴奈も焦る気持ちを押さえながら、街に繰り出した。
街のあちこちで、焔流の剣士と黒炎教団の者が戦っている。
晴奈たちの班も、戦っている者たちに手を貸して教団員たちを追い払い、また、襲ってくる教団員たちを蹴散らしていく。だが教団お得意の人海戦術により、いくら倒してもどこからか現れる。
「ええいッ! しつこいッ!」
さらわれてから既に1時間ほどが経ったが、教団員たちがワラワラと沸いてくるため、思うように捜索ができない。
(こいつら、一体何人いるんだ!?)
斬りつけ、蹴倒し、投げ飛ばし――晴奈一人だけで、すでに20名近く倒している。周りの剣士とも合わせれば、その倍以上は相手しているはずだ。
(毎度毎度、こいつらはワラワラと……!)
そうして文句を心の中で唱えながら、あちこちを捜索していると――ドン、と言う重たい炸裂音が南の方、町外れの方角から聞こえた。
「な、何だ!?」
「一体……?」
争っていた剣士も教団員も、その爆発に一瞬動きを止める。
「……今だ!」
晴奈は我に返り、まだ呆然としている者たちを突き飛ばし、かき分けて、その方向へと走って行った。
街外れへとたどり着くと、そこには轟々と火柱が立っていた。その火柱を背に、こちらへかけてくる者がいる――明奈だ。
「明奈!」「お姉さま!」
明奈は晴奈を見るなり、晴奈の胸に飛び込んできた。
「大変、大変なの! 博士が、ナイジェル博士が、黒炎様に……!」
「……何だって?」
「黒炎様……、大火様が、博士と……!」
明奈の話を聞いた瞬間、晴奈に戦慄が走った。
11 | 2024/12 | 01 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 | 31 |