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7.
「……さて。今日はもう、店じまいだね」
モールが手を拭きつつ、何やら唱える。何かの呪文のようだ。
《わたしも、帰らないと》
「うん、そろそろ時間だね。……雪花」
詠唱の途中で、モールは雪花に声をかけた。
「今日は客引き、ありがとね。おかげで――あのじーさんのタダ飲みがなきゃ――ボチボチ儲かったね」
《いえいえ。……今度は、いつ戻ってくるの?》
雪花に応える前に、モールは手を二度叩く。すると店の照明が落ち、椅子や机、調度品は色あせ、喫茶店はただのあばら家になった。
「んー、4、5年したらもう一回、こっちに来るつもりだね。何で?」
《……わたしのために、無理すること無いのよ》
店が消えると同時に、雪花の姿も少しずつ薄れていく。
《風来坊のあなたが、こんなことで手を煩わせること、無いのよ。わたしはもう、生き返るのを諦めているんだし》
「ま、そう言うなってね。魔術師として、この件から手を引く気にならないんだよね。
そもそもあの本、雪花は自分の楽しみのために利用したけどね、使い方によっては央南全域を魔物の巣窟に変えることもできちゃう、ヤバい代物だからね。ほっといたら、何が起こるか。
それを防ぐためにも、私はあの本を手に入れなきゃいけない。キミを助けるのは、そのついでだからね」
大仰に両手を挙げるモールに、雪花は口に手を当てて、クスクスと笑い出した。
《モール、あなた本当に素直じゃないわね。本当におせっかいな、ひねくれ者》
「フン。勝手に私を美化しないでほしいね。私は正義の味方でも何でもないからね。
……と、もうすぐ消えるね。それじゃまたね、雪花」
完全に姿が消える直前、雪花はコクリとうなずいた。
《……またね、モール。一応、期待しておくから》
雪花の姿が、完全に消える。一人残ったモールは、ぽつりとつぶやいた。
「やれやれ……。次は、ドコを探そうかねぇ」
先ほどまで可愛らしい椅子だった角材に腰掛け、ぼんやりと次の行き先を考える。
「ドコに行こうかねー……。もう央南は飽きたし。かと言ってバカみたいに寒いトコや暑いトコも、後100年は行きたいと思わないし。
どーこーがーいーいーかーねー……。たまには、占いでもしてみようかね」
どこからか取り出したくじ束を、先ほどまで流麗な造りの机だった木箱の上にばら撒く。
「へぇ? 戦乱の相、革新の相、そして混立の相か」
占いの結果を見て、モールは腕を組んでうなる。
「んー、央南にこの三相か。しかも世の中が乱れるほどの、大戦乱。
……こりゃ、とんでもない凶兆だね。近いうち、この央南で戦争が起きるらしいね。……もう少し、占うか」
もう一度、くじ束を木箱に撒く。
「西の方角、海の気配、……あれ? 女難? くじが混ざっちゃったか」
女難の相を示したくじを取り除こうとしたその瞬間、モールに悪寒が走った。
「……! いや、コレは――英傑の相に代わって、女難。どうやらかなりの女傑が、現れると見た」
くじを何度も束ねては撒き、最初に出た三相の答えを探る。
「戦乱の相には、央南西部の港町に関係がある女傑の登場が示唆されている。
革新の相には、央南の外――外国から現れる、智将の登場。
混立の相には、その二人が立ち向かう、数多の強敵。
……まずいね、コレは。央南で本探し、するどころじゃないかもしれない。近い将来、間違いなく央南は戦火にさらされる」
モールの顔に、深い嫌悪の色が浮かんだ。
モールの予言は2年後の双月暦516年、現実のものとなった。
この年から央南の歴史、世界の歴史――そして晴奈の人生が、大きく動き出すこととなる。
蒼天剣 夢幻録 終
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