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2.
「夢みたい……」
宿場街と修行場の境にある催事場の3階、新婦控え室。白無垢の装束を羽織った雪乃が、側にいた晴奈につぶやいた。
「わたしの、結婚」
「大丈夫です。夢ではありません」
晴奈も普段の道着姿とは違い、振袖を着ている。
「……そうね、ふふ」
髪をとかしてもらいながら、雪乃は幸せそうに笑っている。
「ところで、……師匠」
「ん?」
「今後は、どうされるのですか?」
晴奈はためらいつつも、雪乃の今後について尋ねる。
「刀は、置かないわ。それは確か」
「そうですか」
てっきり、結婚を機に剣士の道を降りてしまうのではと危惧していたので、晴奈は内心、ほっとため息をついた。
「あら、やめちゃうと思ってた?」
「えっ」
だが、晴奈の内心は見透かされていたらしい。動揺する晴奈を見て、雪乃はクスクス笑う。
「剣士の道は、わたしの人生そのものだもの。それを捨てたら、わたしと言う人間が一気に、ぼやけてしまいそうだから」
「……そうですね。私も、刀を置いた師匠と言うのは想像もつきません」
「あら、わたしはそんなに無骨な女かしら?」
いじわるっぽく笑う師匠に、晴奈は困った顔で笑い返した。
「はは……、そんなこと、ないです。私にとって師匠は、理想の女性です」
「あら、ありがと」
身だしなみが整った雪乃は化粧台から立ち上がり、窓の外を見た。
「……わたしたちのために、こんなに人が集まってくれるなんて」
眼下に広がる宿場街と、そこにある人だかりに、雪乃は小さく、頭を下げた。
一方、良太は。
「じゃからな、夫婦と言うものは、すべからく……」
「は、はあ」
式に浮かれ、酔っ払った重蔵の、20周目に入った話を、困った顔で聞いていた。
「うーん」
細道を何度見回しても、先ほどの女性は見つからなかった。
「絶対、雪乃だと思ったんだけどなー」
完全に見失ったため、諦めて大通りに戻ろうとした、その時。
「はー、ここなら落ち着いて歩ける」
「本当に、大騒ぎになってしまいましたからね」
大通りからバタバタと、人が入ってきた。あごひげの男と、白狐の女。その子供と、茶縞虎の青年。
「おまんじゅう、もうないの?」
「狐」の女の子が指をくわえながら尋ねている。
「こら、指をくわえてはいけませんよ。……ごめんなさいね、あの騒ぎで落してしまったみたいなの」
「えー」
無いと言われてもなお、子供はねだる。
「たべたいー」
「あんまり無理を言っては行けませんよ、桃。もう少し騒ぎが収まってから、また買いに行きましょう」
「……たべたいのー」
まだぐずっている子供を見て、橘は思わず自分が買っていたまんじゅうを差し出した。
「あの、良かったらどうぞ」
「あら、いえいえ、お構いなく」
母親らしき女性が上品に遠慮してきたが、橘自身も甘すぎるまんじゅうはこれ以上、食べる気にならない。
「いえ、あたしももう、お腹が一杯で。どうぞ、いただいてください」
「そうですか? それじゃ、ありがたく……」
母親がまんじゅうを受け取り、父親に背負われている子供に食べさせた。
「おいしー。ありがと、おねえちゃん」
「いいのよいいのよ、美味しく食べてちょうだい」
大通りの騒ぎはまだ落ち着きそうになく、橘たち五人は細道を進んで催事場に向かうことにした。
「じゃあみんな、雪乃の知り合いなのね?」
全員が雪乃の関係者と知り、橘は少し驚く。
「ええ、柊先生には大恩があります」
柏木は深々とうなずく。続いて謙が思い出を語る。
「雪乃とは俺が若い頃、一緒に修行してたんだ。んで、小鈴さんはどんな関係で?」
「あたしは旅の仲間。昔から良く、あっちこっち旅してたの」
橘の話を聞き、謙は合点が行ったようにうなずく。
「あー、そういやちょくちょく姿を見せなかったこと、あったなー」
と、こんな風に雪乃の思い出話を語っていると――。
「……!」
「ん? どうかしたんですか、橘さん」
柏木が、橘の様子に気付く。
「やっぱり、いた!」
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