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2.
「め、明奈っ」
7年ぶりに見る、成長した明奈を見て、晴奈は思わず彼女を抱きしめた。
「きゃ、お姉さま?」
「ああ、良かった! 本当に良かった! 良く無事に、帰ってきてくれた!」
「お姉さま、あの、苦しい……」
「もう二度と、絶対に、黒炎に渡したりしない! 絶対に、姉ちゃんが守ってやるから!」
「……はい、お姉さま。お久しゅう、ございます」
明奈も戸惑いつつ、晴奈を抱きしめた。
明奈が黒鳥宮から助けられた経緯は、次の通りである。
エルスは元々、北方大陸にある王国の諜報員だったのだ。ある任務のため部下を連れ、黒鳥宮に潜入していたところ、偶然明奈を発見し、保護したのである。
一旦は北方に連れ帰ったが、エルスの師匠に当たるエドムント・ナイジェルと言う老博士のエルフがある事件に巻き込まれたため、そこから師弟ともども亡命。
その亡命先として明奈の故郷であるここ、黄海を選んだ、と言うわけである。
「本当に、大変でしたわい」
あごひげを生やし、丸眼鏡をかけたエルフ、ナイジェル博士はニコニコと笑いながら、晴奈への説明を終えた。ちなみに師匠と言っても、詳しく聞いてみれば教官と教え子の関係らしい。
「なるほど……、そのような経緯があったのですか。私にとっては真に、行幸と称すべきお話です」
晴奈は深々と、博士に向かって頭を下げた。
「あ、いやいや。そうかしこまらず。
……ふーむ、セイナさん、と申されましたか。なるほど、妹さんと顔立ちが似ていらっしゃる。じゃが少し、精悍な顔つきをされていらっしゃいますな」
「そ、そうですか?」
そう言われて、思わず頬に手を当てる。言われてみれば、子供の頃はあまり気が付かなかったが、傍らの成長した明奈を眺めると、顔立ちは確かに、良く似ていると思う。そして博士の言う通り、明奈の方が少し、おっとりした印象を感じる。
「ふむ……。身長も高く、一挙手一投足ごとに、着実に鍛えられた筋肉が出す、力強さが見受けられる。そしてその、落ち着いた気配と所作。なかなか、高度な精神修練と、高密度の修行を積んでいらっしゃるようですな。
ズバリ、セイナさんは――焔流の剣士、それも師範か、師範代程度の手練。違いますかな?」
博士の推察に、晴奈は目を丸くした。
「い、いかにも、焔流の免許皆伝です、が……」
自分の素性を初見で言い当てられ、晴奈はさすがに博士を不気味に思った。それも見抜いたらしく、博士はゆっくり手を振って説明する。
「ああ、いやいや。驚かせるつもりは無かったのですが。小生はこう言ったことを生業としておりまして。
祖国では戦略研究を行っておりました。敵の動向をいち早く察することが重要なため、こうした洞察力をよく使います」
博士は横に座っているエルスの肩を叩き、話を続けた。
「こちらのエルス君も、人を見抜くのが得意でしてな。元々は魔術を教えておったのですが、そちらの方も割合筋が良かったので、小生の戦略思考術と洞察力をそっくり受け継がせております。
さ、エルス。ちっと力を見せてやりなさい」
話を振られたエルスはヘラヘラ笑いながら、とんでもないことを――晴奈がこの直後、顔を真っ赤にして「無礼者!」と怒り出し、リストから「このバカ!」としこたま殴られるようなことを――言った。
「うーん。……上から、77、51、79かな。すらっとしてるね、はは」
ひとしきり殴られ、頭に大きなコブを作ったエルスは、ヘラヘラ笑いながら謝った。
「ははは……、ゴメンゴメン。ちょっとしたギャグのつもりで言ったんだけどね」
「どこがギャグよ!? 思いっきり、ど変態なコトを白昼堂々……! 本気で頭のネジ、飛んでんじゃないの!?」
リストはまだ怒っているらしく、エルスにまくしたてている。
「ホントに、このバカがとんでもないコトを……」
リストはしきりに謝っている。少し気の毒になってきたので、晴奈は怒りを抑えた。
「……いや。減るものでも無し、構わんさ」
口ではこう言いつつも、晴奈は内心かなり頭にきている。
「ま、そのですな。ちと、遊びが過ぎましたが、ともかくエルス君は、武術や魔術の腕も相当ですが、頭の方も良く回ります。しばらくこちらに滞在する予定なので、色々と央南の事情、常識をご指導、ご鞭撻いただければと」
場を取り繕う博士の心情も察し、晴奈は大人しく振舞う。
「……構いませんよ。まあ、こちらも北方の話を色々、お聞きしたいところです。よろしくお願いします」
晴奈は落ち着き払い、手を差し出す。エルスも手を差し出し、普通に握手した。
きっとこの時も、エルスは何かするつもりであったのだろう。ただ、それは彼の右側でにらんでいるエルフ二人に阻まれ、さすがに諦めたようである。
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