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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・大徳録 2

晴奈の話、76話目。
大人物の人生哲学か、ナンパ男の言い訳か。
 
 
 

2.
「あいたたた……」

 客間に運ばれたエルスは首と後頭部をさすりながら、ヘラヘラ笑っている。

「セイナ、ひどいじゃないか」

「元はと言えば、お主の行いが原因だろうが」

「ま、そりゃそうだけどさ」

 リストはエルスを踏みつけた後も一通り怒り倒し、そのまま屋敷を出て行ってしまった。

「まったく、何度怒らせれば気が済む?」

「しょうがないさ、これは『趣味』の問題だし。ま、あの子は薬缶みたいな子だから、そのうちケロッとして戻ってくるさ」

「……下衆な趣味だな。お主の頭に公序良俗と言う言葉は無いのか?」

「うーん」

 エルスはそっぽを向き、両手を挙げる。

「綺麗なご婦人がいたら、声をかけるのが紳士の礼儀かな、って」

「大馬鹿者」

 今度は晴奈がエルスを叩いた。

「あいたっ」

「女をたぶらかして、何が紳士か」

「そうですよ、エルスさん」

 明奈が洗面器と手拭を持って、客間に入ってきた。

「あ、わざわざゴメンね、メイナ」

「いえいえ。……本当にいけませんよ。北方ではどうなのか、良くは知りませんけれど。色恋に雑な方は、央南ではあんまり歓迎されませんよ」

 水にひたした手拭を絞りながら諭してくる明奈に、エルスはまた苦笑する。

「あはは……、雑にしてるつもりはないんだけどね。誰であっても、真面目に付き合ってきたつもりだし」

「それなら、リストさんとはどうなんですか?」

「うん?」

 明奈から手渡された手拭を頭に当て、エルスは短くうなる。

「んー……、どう、って?」

「え……?」

「僕が恋愛を楽しむことと、リストと何の関係があるの? あの子とは別に、付き合ってるわけじゃないんだけど」

 今度は明奈が憮然とした顔になる。

「付き合ってない、って……。どう見てもリストさん、嫉妬してますよ」

「そんなわけ無いじゃないか、はは」

 エルスは軽く笑い飛ばし、明奈の見解を否定する。

「あの子とは一緒に仕事して、結構長い。それなりに信頼関係もあるし、嫌ってないのは確かさ。でも、いつも僕に向かって罵詈雑言を放つし、どう考えてもあの子が僕に恋愛感情を持ってる、って言うのはちょっと、無理じゃないかなぁ。

 それにあの子が僕と一緒に来たのは、僕の仕事に加担したからだよ。それに、博士のお孫さんでもあるし、どっちかって言うと付き添いって感じだ。怒るのはきっと、博士に恥をかかせないようにと、彼女なりに配慮してるからじゃないかな」

「そう、ですか……?」

 まだ腑に落ちないと言う面持ちの明奈に、エルスはへら、と笑いかけた。

「そう、だよ。第一、本当に僕のことが好きなら、足蹴にしないだろ? ほら、このコブ」

「……ま、そうだな」

 エルスの後頭部の腫れを見た晴奈は、エルスの意見がもっともらしく感じた。

「しかし……。お主、それだけ他人の洞察ができるのに、何故神経を逆なでするようなことばかりするのだ?」

「んー、……他人の理解を得るより、自分の考えを実行に移すことを優先してるから、かな。

 確かに僕のやってることは、周りに理解を得られないとは思う。でも、何に対してもそう言うことはあるんじゃないかな」

「……?」

 エルスの言葉の意味が分からず、晴奈も明奈も顔を見合わせてきょとんとする。

「えっと、例えばね。

 僕はセイナじゃ無いから、セイナがいま何を考えて、何を大事にしてるかってことは、予想は付いても、完全に読みきれるわけじゃない。同じようにセイナも、僕の趣味や好きなものは分かっても、僕がいま何を考え、何をしたいかってことは、僕から言わないと分からないだろ?」

「それは……、まあ」

「もちろんそう言うことは、仲良くなっていくうちに自然と分かったりもするだろう。でも、そうなるまでには非常に時間がかかる。すべての人間関係においてそんな過程を経ていたら、その人と一緒にやりたいと思ってることは多分、何もできなくなる。

 理解には時間がかかるし、時には到底無理だって言うこともある。莫大な時間をかけてただ理解しようと考えるだけじゃ、時間の無駄遣いさ。だから、理解は二の次。先に、行動を取った方がいいと思うんだ。

 第一、行動してその結果を見せた方が、理解も早いだろうしね」

「ふむ……」

 感心する晴奈を見て、エルスはまた笑った。

「ま、博士の受け売りだけどね」

 

 

 

 それから2時間後。

 エルスの言う通り、リストは何事も無かったように夕食の前に戻ってきた。

「ただいまー」

「ああ、おかえりリスト」

 エルスが挨拶すると、リストはパタパタと手を振って会釈する。二人があまりに平然としているので、晴奈は思わずリストに尋ねた。

「もし、リスト」

「ん?」

「怒ってないのか?」

「ああ、さっきのアレ?」

 リストはまた、手をパタパタ振る。

「毎度のコトだし。そりゃ、ムカッと来るけど蹴っ飛ばせば気、晴れるしね。

 アイツのやるコトに一々まともに相手してちゃ、気狂っちゃうわよ。アイツ、頭いいけどバカだし」

「……そうか」

 リストの言い草に、晴奈は少し不愉快になった。

(それは、あんまりでは無いだろうか)

 とは言え、そう思ったことを口にはしなかった――恐らく、理解してもらえないので。
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