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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・悪夢録 5

晴奈の話、85話目。
本物の、夢のお告げ。
 
 
 

5.
目を覚ました晴奈は辺りを見回した。明奈はいない。どうやら自分より早く起きて、自分の部屋に戻って行ったらしい。

(あの夢は一体……?)

 ぼんやりとしながら、着替えを始める。と、衣装棚にあった水色の着物が目に入る。

(水色の着物、か。まあ、夢だろうが)

 あまり信じてはいなかったが、どうしても気になったので、晴奈はそれを着た。

 素早く着替え、部屋を出る。出たところで丁度、隣にある明奈の部屋の戸も開く。

「ああ明奈、おは……」「あ、お姉さま。おは……」

 挨拶しかけて、二人は絶句した。二人の目には互いが着ている、水色の着物が映っていた。

 

 朝食の後、晴奈と明奈――晴明姉妹は父、紫明に呼ばれた。

「どうされたのですか、父上?」

「うむ、実は……」

 紫明は浮かない顔で、懐から一通の手紙を取り出した。

「今朝早く、文が投げ込まれたのだ。どうやら黒炎教団からのものらしい」

 

 

 

「黄海及び黄商会の宗主、黄紫明殿へ

 

 昨日、我らが同志、メイナ・コウの身柄引き渡しを願い出ようとしたところ、そちらの友軍である焔流一派に妨害され、多数の被害者を出した。

 その責を問うため、3日後にふたたび身柄確保に乗り出す所存である。万が一、焔流の者がその席にいた場合、我々は実力を以って、そちらに用件を受諾していただくように対処するであろう。

 無論我々は、円満な話し合いによって交渉がまとまることを望んでいる。そちらでも、央南西部の平和と黄商会の利益の観点を鑑み、十分に検討していただくよう、考慮されたし。

 

黒炎教団 央南方面布教活動統括委員長 大司教 ワルラス・ウィルソン2世」

 

 

 

「これは……」

 手紙を読んだ晴奈は思わず、手紙を破り捨てそうになった。だが何とかこらえて、父の話を聞く。

「ああ、字面では穏やかな話し合いを望んでいるとのことだが、十中八九、明奈を強奪するつもりなのだろう」

「『願い出ようとした』だの、『被害者を出した』だの……、嘘もいいところだ!」

 憤慨する晴奈に対し、紫明は浮かない顔をしている。

「私としては、その……」

「父上?」

 言いにくそうにする父を見て、明奈は父の胸中を察する。

「前回同様、わたしの身柄でこの街と商会の平和が保たれるならば、交渉に応じようと、そうお答えするつもりでしょう?」

「あ、いや、その……」

 明奈は落ち着き払った、堂々とした態度で応対する。

「昔とは違って、わたしも大きくなりました。自分の身の振りは、自分で決めさせてください」

「いや、しかし……」

 一方、紫明は言葉を濁し、明奈の言葉にうなずこうとしない。そんな父の態度を見て、晴奈は歯噛みする。

(なぜだ父上、どうして一言『分かった』と言わない?

 ……ああ、この人はいまだ昔と変わらぬのか。娘は自分の所有物だと言う、その考えがまだ抜けていないのか)

 そう悟り、晴奈の怒りはますます燃え上がる。たまらず声を上げようとした、その時。明奈が先に、姉の心中を代弁した。

「昔ならば、わたしはお父さまの言う通りに従ったでしょう。

 しかし、わたしも大人になりました。この先お父さまの考えに従い、そのまま教団に渡ったならば、一体どうなると思います?」

「どう、って」

「恐らく教主のご子息が無理矢理に、わたしを娶ろうとされるでしょう」

 この一言に、紫明は「う……」と声を漏らす。

「もしそれが実現すれば、きっと黄家は絶えてしまいます。教団にすべてをむしりとられて」

「……」

 明奈はなお、毅然とした態度で父を説得する。

「ねえ、お父さま。重ねて申し上げますが、昔とは違うのです。

 今なら剣を極めたお姉さまがいらっしゃいます。エルスさんたちも、協力してくださるでしょう。戦う力は、十分にあるのです。

 今、相手の要求をはねつけなければ、10年後、20年後の黄海と央南西部はきっと、黒く染まってしまいます。わたしは嫌ですよ、黒海などと言う地名になってしまっては。

 敵の言いなりになって1年、2年の安息を得るより、今こそ決別、打倒して10年、20年、いえ、100年の繁栄を勝ち取る方が、懸命な判断です」

「……そうだな」

 明奈の説得に紫明はようやくうなずき、もう一通懐から手紙を出した。

「これは?」

「お前の言う通りかもしれないな、明奈。教主の息子から、こんな手紙が来ていたのだ」

 紫明は晴奈に手紙を渡し、読むよう促した。読み始めた晴奈は、途中で――今度はこらえる気など毛頭無く――手紙を破り捨てた。

「……下衆が!」

「お姉さま?」

「まったくウィルバーめ、どこまで色狂いか! 明奈と自分は、前世から夫婦になる定めだとか、明奈の自分に対する気持ちは分かっている、自分は全力を以ってそれに応えるだとか、滅茶苦茶なことを書いているんだ!」

「何ですって……!」

 冷静だった明奈も、この時ばかりは流石に嫌そうな顔をした。紫明は一瞬、顔を伏せてため息をつき、そして決意に満ちた目を二人に見せた。

「明奈、お前の話で、私の目は覚めたよ。……断固、黒炎と戦おう」

 

 紫明の決意も固まったため、晴奈たちはエルスに助太刀を願い出ようと、彼の住んでいる屋敷へと向かっていた。

「ねえ、お姉さま」

「ん?」

「水色の着物、エルスさんへの用事。これって」

「……やっぱり明奈も、あの夢を?」

 明奈はコクリと、小さくうなずく。

「ええ、白猫さんの夢よね。もし、あの方の言ったことが本当なら」

「5万の軍勢が攻めてくる、か。ぞっとしないな」

「きっと本当でしょうね。

 彼女の言葉はとても風変わりだったけれど、内容はとても真面目でした。わたしたちの身を案じてくれる気持ちは、真実だと思います」

「ああ、私もそう、……彼女?」

 晴奈は頭の中で白猫の姿を思い返す。

(言われてみれば、確かに女とも取れる顔立ちと声をしていたが……)

「いや、しかし白猫殿は、自分のことを『ボク』と、呼んでいたような。男では無いのか?」

「え、そう……、だったかしら。……どっちでしょうね?」

 二人は夢の内容を思い返し、やがてクスクスと笑い始めた。

「くく、考えれば考えるほど、分からない」「そうね、クスクス」

 

 

 

 この後、エルスは晴奈たちの願いを聞き入れ、協力することを快諾してくれた。また、白猫の助言に従って、彼を対黒炎部隊のリーダーに据え、晴奈がその副官となった。

 そしてこれより――黒炎との戦いが、始まる。

 

蒼天剣・悪夢録 終

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