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黄輪雑貨本店 別館

黄輪雑貨本店のブログページです。 小説や待受画像、他ドット絵を掲載しています。 その他頻繁に更新するもの、コメントをいただきたいものはこちらにアップさせていただきます。 よろしくです(*゚ー゚)ノ

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蒼天剣・因縁録 1

晴奈の話、86話目。
3度目の戦い、始まる。
 
 
 

1.
「僧兵長、間もなく黄海に到着します」

「ん、そうか」

 馬車の中から、狼獣人の青年がのそっと、首を出す。

「のどが渇いた」「あ、ではお持ちします」

 兎獣人の従者が、いそいそとどこかに走り去る。僧兵長と呼ばれた青年は、その間に馬車を降り、肩や首の関節をポキポキと鳴らして体を解す。程なくして従者が、ポットとカップを持って戻ってきた。

「お持ちしました」「ん」

 青年は横柄にうなずき、従者からカップを受け取って、中の飲み物を一息に飲み干す。

「ふう……。やはり、眠気覚ましにはコーヒーが一番だな。特に、悪夢を見た時には」

「悪夢、ですか?」

 青年はカップを従者に返し、伸びをしながら応える。

「ああ、昔の話だ。焔の砦に攻め込んだ時、不覚を取ってな。その時の夢を見ると、いつも気が重くなる。今でも夢の中で、忌々しく蘇ってくる」

「そんなことが……。では、今回は雪辱戦、と言うことですね」

「ああ、そうなるな」

 青年――ウィルバーはもう一度カップを受け取り、無造作にあおった。

「特に、オレを愚弄したあの『猫』と、その仲間。あいつらだけは絶対、仕留めてやる」

 

 

 

「確かか?」

「はい、黒荘に住む同門が、確かに馬車に乗る姿を確認したと。ほぼ確実に、指揮官役であろう、との、……黄先生?」

 伝令の報告を受け、晴奈は腕を組み、黙り込む。少しの間そのまま固まっていたので、伝令は不安そうに、晴奈を見つめている。

「動いて、セイナ」

 見かねたエルスが、晴奈に声をかける。

「……ああ、下がって良し」

 伝令はほっとした様子で、そのまま部屋を出て行った。エルスはクスクス笑いながら、椅子に座り直して、書類を整理する。

「セイナ、よっぽどそのウィルバーって男が気になるんだねぇ」

「気色の悪い言い方を……」

 晴奈は手を振りながら、エルスに応える。

「ああ、ゴメンゴメン。まあ、宿敵って感じだね、今の態度から見ると」

「まあ、そうだな」

 晴奈はエルスの向かいに座り、エルスの書いていた書類に目を通す――どうやら黄海周辺の地図と、兵法の類らしい。

「強いのかな?」

「ああ、かなりの手練だ。うわさでは、教団でも有数の、棍術の使い手になっているとか」

「ふーん」

 エルスは書類をトントンとまとめながら、話を続ける。

「セイナも強いじゃないか」

「まあ、な。……昔、一度だけ負けているが」

「でも……」

 エルスは席を立ち、セイナに微笑みかける。

「負ける気、無いんだろ?」

「無論だ」

 晴奈もニヤリと、笑って返した。

 

 黄海襲撃から三日後、教団は大軍を送り込んでふたたび、黄海に攻め込もうとしていた。襲撃の情報を聞きつけた晴奈たちは急遽、街の守りを固めて再襲撃に備えていた。

「現在、街の周囲に教団の姿はありません」

「そうか。何かあったらまた、報告してくれ」

 伝令が去った後、エルスはニコニコ笑いながら、晴奈に話しかけた。

「ねえ、セイナ。まだ間があるだろうから、碁でも打たない?」

「……ふむ。確かにいつ来るか分からぬ敵を、ただ待つと言うのも無粋か。いいだろう、一局お手合わせ願おうか」

「よし、それじゃちょっと待っててね~」

 エルスは嬉しそうに、いったん部屋を出る。少しして、かなり使い込まれた様子の碁盤と碁石を持って、戻ってきた。

「ほう、なかなかの年季物だな。北方でも、碁は流行っているのか?」

「うん。エドさん――博士が若い頃から碁の名人で、ずっと普及させていたんだって」

「そうだったのか……。それほどの腕前ならば一度、お手並みを拝見してみたかったものだ」

 晴奈はそう言いながら碁石を握る。エルスも握りながら話を続ける。

「エドさんは強かったよ。多分死んだ今でも誰かと、打ってるんじゃないかな」

「……」

 博士の死を耳にする度、晴奈の心は少し痛む。

 あの時、自分の欲をさっさと振り切って駆けつけていれば、博士は助かったかもしれない。そして、大火と戦うために博士を口実にしたことも、晴奈にとっては大きな恥であった。

(死人をダシに使うなど、誇りある人間のすることではない。まったく私は、浅ましい……)

 そうして心の中で、自分を責めていると――。

「ありゃ? セイナ、本気出してない、よね?」「……不覚」

 いつの間にか、後手のエルスに大きく囲まれ、負けていた。
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